第71話・ルリアルーク王の噂
シルヴィーク村からスモル村までの道中で狩った獣は、狼、鹿、熊など、合わせて十体。
全てを素材込みで無償提供すると言ったら、宿屋の旦那さんも女将さんも大喜びで、宿代をタダにしてくれた上、ご近所の奥様たちを誘って、今夜はご馳走を振舞ってくれると言った。ものすごく楽しみだ。
狩った獲物の無償提供は、かなりの大判振る舞いだったかもしれないけれど、ユリウスが森に行くたびに何匹か狩ってくるから、処理が追い付かなくなっちゃうんだよね。
だから、こちらとしても貰ってもらえてありがたかった。
サーチートと遊ぶ子供たちは、いつの間にか、この宿屋のテッドくんとコリーちゃんの他、近所の子供たちも混ざり、五人に増えていた。
子供たちにモテモテでドヤ顔のサーチートを眺めながら、宿屋の食堂でジュースをいただいてのんびりとさせてもらっていると、
「兄ちゃんたちは、冒険者かい?」
と、客の一人から声をかけられた。
彼はどうやら旅の商人のようだった。
「あぁ、そうなんだ。連れに商人がいて、これから、大きな町に行こうと思っている」
「それなら、ここからなら、オブルリヒトの王都オブリ―ルか、商都ビジードだが、俺のお勧めは王都オブリ―ルの方だぜ。俺もこれから、オブリ―ルに向かうつもりなんだ」
「へぇ、どうしてオブリ―ルなんだ?」
「そりゃ、あれだよ、兄ちゃん。王都オブリ―ルには、創世王であるルリアルーク王の再来だという噂の、ジュニアス王子が居るからだよ」
ぶほ、と私とユリウスは飲んでいたジュースを吹き出した。
「ルリアルーク王の再来?」
「あぁ、ルリアルーク王だ。オブルリヒト王国の第一王子、ジュニアス様は、ルリアルーク王の再来と呼ばれているらしいんだ。兄ちゃんたちは、知らなかったのかい?」
「し、知らなかったな……」
ジュニアスが言いふらしていた嘘が、真実として世間にも広がったのだろうか?
まさかこの小さな村でこんな事を聞く事になるとは、思いもよらなかった。
「ジュニアス様は、褐色の肌に黒い髪、赤い瞳らしいが、創世王の色を持つ、現オブルリヒト王であるフェルゼン様の息子だ。ジュニアス様の容姿は創世王の色とは少し違うが、血筋から言っても、十分ルリアルーク王の可能性はあるだろう。今の世のルリアルーク王が、その色を纏っているとも限らないしな」
「へぇ……」
商人の男は熱く語っているが、ユリウスはすでに聞きたくなさそうだ。
ものすごく嫌そうな顔をしている。
だけど、情報として聞いておいた方がいいだろうと思い、私は彼に続きを促した。
「それによ、どうやらオブルリヒト王国は、聖女召喚の儀を行い、聖女召喚に成功したらしいんだよ! だから、ジュニアス様のそばには、異世界から来た、とんでもなく美しい聖女様が居るって話だ」
「あー……、そう、なんだ……」
聞くんじゃなかった、と私は思った。
私の心の内を呼んだのか、ユリウスが苦笑している。
そうか、ジュニアスの事だけじゃなく、ジュンの噂まで広がっているんだね。
ジュン……確かに美人だけど、本当に綺麗なのは、ジュニアスの奥さんであるナディア様の方だと思うんだよね。
ナディア様、お元気になさっているかなぁ。
こんな噂が世間に広がっているのを知って、心を痛めてらっしゃらないだろうか。
「そんなわけで、今オブリールには、ジュニアス様の家来になりたいっていう冒険者が続々と集まってきて、にぎわっているらしいぜ」
「そ、そうか……」
これはユリウス的に、絶対にオブリールには行きたくない展開だ。
だがそれを口にせず、ユリウスは旅の商人に、考えてみるよ、とだけ言った。
「色だけで言うなら、兄ちゃん、あんた、髪が銀色なら、創世王の色、ビンゴだなぁ」
旅の商人は、ユリウスを見て笑った。
褐色の肌に、金色の瞳、あとは隠している銀色の髪で、創世王の色がビンゴだ。
まぁ、本当は、すでにビンゴなんだけど。
ふと視線を感じて振り返ると、ユリウスがビンゴだと知っている女将さんと目が合った。
女将さんは、言わないから安心して、と言わんばかりに、うん、と頷いてくれた。
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