第25話
「三人で遊ぶのって、いつぶりだっけ?」
「んー、二年ぶりくらいかなー?」
私を挟んで、茉凛と実梨が話をしている。
今日、私たちは三人で遊びに来ていた。元々私たちは三人一組になって行動することが多かった。部活をやめてから茉凛と二人きりになっていたが、本来はこれが正しい形、なのだと思う。
元部員の皆と遊ぶ約束もあるが、ひとまず今日は、私たち三人だけである。
夏休みが終わってから、もう二週間近く経っている。
九月十日。夏の残滓は未だに残っていて、ショッピングモール内は冷房が効いているはずなのに暑く感じる。
「そういやさ。確か、九月十三日って小牧の誕生日だよね」
実梨が言う。また小牧のことかと、少しげっそりした。
「あれ? そうなの?」
「うん。前にわかばがプレゼントあげてるの見て知った。今年は三人で一緒に選んであげてみる?」
実梨は私の顔を覗き込んだ。私は中学二年生から、小牧の誕生日を祝っていない。嫌っている相手の誕生日を祝うというのもわけがわからないし、小牧とはあの事件で縁が切れたと思っていたのだ。
小牧と何かと一緒にいる機会が増えたのは確かだが、また彼女の誕生日を祝うのもなぁ、と思う。
「面白いかもねー。プレゼント、選んでみようか」
「じゃあ今から三十分で目星つけて、一番面白いプレゼント選んだ人が優勝で」
「何の勝負なの、それ」
「はい、スタート!」
実梨はさっさと歩いて行ってしまう。まだやると言っていないのに、彼女の中ではもう勝負が始まっているらしい。
勝負。勝負かぁ。
大事なものを奪われない勝負は、久しぶりな気がする。
「私も行ってくるねー。また後で」
茉凛は小さく手を振って、のんびりした足取りで歩き始めた。
私は深くため息をついた。何が悲しくて、小牧の誕生日プレゼントなんて選ばなければならないのか。
仕方なく私はモール内にある雑貨屋に足を運んだ。
休日だから、雑貨屋にはかなりの人がいた。雑貨屋は小さな木の人形だとか、マグカップだとか、可愛らしいものが色々置いてある。
でも、小牧にプレゼントかぁ。
気乗りしない私は、適当に雑貨屋をぶらぶらした。その一角で、筆記用具を売っているのが見える。私は自然と、そちらに足を運んでいた。
可愛いデザインのペンが色々置いてある。その中には、シャーペンも置いてあった。宇宙のような模様とか、花柄のやつとか、色々。今の小牧が使うにはちょっと可愛すぎる気がする。
艶の無い黒のシャーペンが目に留まる。小牧が持っている姿を思い浮かべると、よく似合っているように思う。
買うかどうかは、わからないけれど。手に取って見るくらい、してもいいかもしれない。私は黒のシャーペンに手を伸ばした。その時、すぐ近くから手が伸びてきて、私の手と重なる。
「あ、すみません」
私は手を引っ込めて、頭を下げる。
頭を上げると、そこには小牧がいた。げっと声が出そうになった。休みの日だから遭遇する可能性もあるとわかってはいたが、まさか本当に出会ってしまうとは。
「わかば。何でここに?」
「茉凛たちと遊び来た。今は勝負の最中」
引っ込めた手を掴まれる。
おい。その手はシャーペンを取るために伸ばしたんじゃないのか。
「……勝負、私以外ともするんだ」
「そりゃあ、女子高生と勝負は切っても切れない関係だからね」
手が痛い。
こやつまさか、私の手をもごうとしているのではないか。そう思ってしまうほどの力だった。
「それ、負けたらどうなるの?」
「さあ。打首じゃない?」
私は手を引こうとしたが、強く掴まれているせいで一切動かない。
「それより手、離してほしいんだけど。私、もう行かないと」
「勝負って、何の勝負?」
今日は質問が多い。私は眉を顰めた。
「面白い品を選ぶ勝負」
「ふーん」
小牧は興味をなくしたようにそっぽを向いて、私の手を解放した。
赤くなっている。どんな力で掴んだのだ、このゴリラウーマンは。
私は手をさすりながら、黒のシャーペンを手に取った。小牧はそっぽを向いているから、それに気づいていない様子だった。
面白いかどうかはわからないし、小牧にプレゼントするつもりもない。けれど気になったのは確かだから、私はシャーペンをレジに持っていって、購入した。
店を出る前に見てみると、小牧はまだシャーペンのコーナーで真剣そうな顔をしていた。
小牧こそ、こんなところで何をしているのだろう。疑問に思ったが、藪蛇だろうから放っておく。
結局その後面白そうな商品を探したが、特にこれといったものは見つからなかった。
「これ、本気でプレゼントするつもり?」
「いいじゃん、面白いし」
「私が梅園に渡すんでしょ? 殴られそう」
三十分後、私たちは店で見つけた面白い商品について報告し合った。結局、二票投票され、実梨が選んだ商品を買うことが決まった。彼女が選んだプレゼントは、喋る人形だった。
無駄に腕の可動域が広く、ぐるぐる腕を回すことができる。顔は妙にリアルで、話しかけると挨拶したり、簡単な会話をしたりすることができる、らしい。
税込3980円。安くはない買い物だ。私たちはお金を出し合ってそれを買い、プレゼントするのは私の役目になった。こんなものをプレゼントしたら何をされるかわかったものではないのだが、これを渡されて小牧がどのような顔をするのか、少し気になる。
怒るだろうか。それとも、呆れるだろうか。想像すると、少し楽しい。
無言で殴られてもおかしくはないけれど。
「平気平気。わかばが渡せば文句は言わないでしょ。……多分」
「小牧に殴られたら、おんなじところぶつからね」
「え、やだ」
面白がっている。プレゼントは気持ちが重要とは言うが、とはいえ、こんなものを渡された側は困るだろう。
いざとなったら、私個人のプレゼントとして別のものを渡して機嫌を取るとか?
別のって、何を渡すつもりなのだろう。
「でもさ。こういう馬鹿みたいなやつの方が、笑えていいと思うんだよね」
実梨は何食わぬ顔で言った。
「馬鹿みたいなプレゼントで笑いをとって、仲直り。いいアイデアじゃない?」
「他人事だと思って」
ふざけているだけと思ったが、実梨も意外と色々考えているのかもしれない。わからないのは、私たちをにこにこ見ている茉凛だ。
「茉凛も、何でこれに投票したの」
「梅ちゃん、驚くだろうから。わかばがこんなの渡してくるなんて思わないだろうし」
「それはそうだろうけど」
私はため息をついた。
「まあまあ、いいじゃん! 小牧のプレゼントは買ったってことで、後はとにかく遊ぼう! 倒れるまで!」
実梨はそう言って笑う。謎の人形は無駄に大きな箱に入っているから、私は今日一日これを持って遊ぶということになる。
……とても勘弁してほしい。
私は実梨に振り回されるままに、モール内を練り歩くことになった。謎の人形の箱を持って歩く高校生の姿は、周りにはさぞおかしなものに見えていたことだろう。ただ幸いだったのは、知り合いに会わなかったことである。この状態で会っていたら、馬鹿にされただろう。
実際こんな姿、馬鹿以外の何者でもないと思うけれど。
日が暮れるまで遊んで、実梨たちと別れる。九月になってから日が落ちるのが早くなったものの、残暑は未だ厳しい。人形を持って駅に着く頃には、汗で全身が湿ってしまっていた。
改札を通り、自販機で飲み物を買おうとした時、近くのベンチに小牧が座っているのが見えた。小牧はこの暑いのにコーンポタージュを持っている。
今の時期にそんなものを売っている自販機も自販機だが、やはり、小牧は変わっている。
また顔を合わせなきゃいけないのか。私は少し気分が重くなったが、喉の渇きには勝てず自販機でクリームソーダを買った。
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