第48話:明の世界

ファイールズ家の家長である父は、元々はアメリカでの解体業に従事しており、長年の経験と向上心から発破技術を習得し、現場でそれなりに活躍した人物である。現地で日本人である母と交際し、明が生まれ、アメリカで児童期の入口をすこしすぎるまで過ごす。どちらかというと、父の意向で日本に渡り、今に至っている。小学校を過ごす当時の明は、物、とくに建造物を見つめては呆ける時間を過ごしていた。

 この日も明は解体の現場に顔をだし、自ら重機を駆り、住宅の解体を行っていた。父と親方は懇意の関係で、現場に入りたがっている明にとっては理解者であった。


親方(明、やるね、中卒で現場はいるのは珍しくないけどな)


親方「明、いいぞ、その調子だ。順調だよ!」


その声を聞いて明は重機のコクピットからサムシングポーズをとる。


明「イエ!」


この日は、古い住宅の解体である。当人の希望もあり、重機での解体を明に任せたのは親方の判断。明が駆使する重機の動きは見る者によっては無駄がなく、破壊の手順も正確なものだった。廃材の荷揚げも素早く、安全だった。


親方(うめえな、明。こりゃ父親の教えだけじゃねえな、しかし惜しいな。いいのかね、うちで解体やってて、こりゃ将来期待できる。正直、ふさわしい場所があると思うんだけどな)


明は重機を手足のように動かす、すでに手足となったその動きは住居を効率よく破壊していく、明の精神は集中され研ぎ澄まされたものであり、時間の経過を意識しているようで、無駄のない冷静なものだった。工期や安全も意識されており、かつ自身の世界に入り込んでいた。重機の腕は廃材を掴み、トラックに荷揚げされていく。この現場においての解体手順はすでに理解されたものであり、自身の能力がそれに付いてきていることはわかっていた。


職人「明、水飲もう!」


明「イエ!、すこし休憩しましょう」


重機から降り、現場に参加しているその他の職人から手渡されたペットボトルの水を口に含む。

時期としてはすでに夏に入り、気温の高まりから、過酷になりつつある。しかし、明は冷静に、流れ落ちる汗の不快感を受け入れており、しばしの休息による回復と、解放された時に、受け入れる快感の工程すら理解したものであった。

明が現役の高校生であることは、職人たちは知っている。夏休み前の学校の様子など心配されるが、明は余裕を含めた返答をしている。


明(ふう!、今日も順調、順調、いけるね俺なら。すこし甘めの工期だけど予定よりも早く終わるでしょ。今日は終わって汗をながしてから、誰かからかおうかな?)


学校生活、勉強、望んでの現場、意識する関係性、全てにおいて貪欲ながらも、客観的な冷静さがあり、明はそれを自覚していた。



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