第26話:新たな可能性の発露 正洋

正洋の朝は早い、といっても母の作った朝食を食べてからは二度目の惰眠を貪るのが日課だった。30分正味だが膨れた腹とそこからくる、満腹感から仮眠への脳を誘うのが気持ちよかった。その後に、登校となるが、兄弟それぞれ別々に思い思いに家をでる。浩二は大体が遅れての投稿となるが、遅刻はしたことはない。その辺の計算はできているとの当人の弁であるが、背景の動きは不明であった。


その日として正洋は、脳の心地よさに気持ちを寄せながら歩をすすめていた、この時間ならまだ余裕がある、大体の到着する感覚はつかめている。その日によっては咲子とも鉢合わせするかもしれない。そういった場合は咲子とのそれほど長くとは言えない日常会話が楽しみであった。


正洋の頭脳はいまだ弛緩の余地をのこしていたが、眼前の視線の情景は捉えていた。道路を走る車、開店前の店先、出勤を急ぐ社会人などである。予感としては、あった。視野内の10メートル先に二人の女性が背を向けて歩を進めている、歩行速度は正洋よりも若干早いだろうか。会話をしているかのような二人だった。注意として向いたのはその二人よりもさらに向こう側から向かってくる男性だ。正洋の視力でも男性は老人の齢だと見え、ゆっくり歩行している。しかし、正洋の注意としては背を向けた女性二人と、男性の位置取りであった。


正洋(ぶつからないかな?)


目前の人材は歩をすすめる、そして正洋の予想通りの事態がおきた。接触。女性の一人と男性の肩が接触したのだ。軽く謝っているかのような女性。しかし男性の頬は上気したかのように真っ赤になった。


男性「舐めんな!どこみてあるいてんだボケ!」


男性から怒声があがる。


女性「え?いや、すみません」


男性「やかましいわ、頭さげろや、舐めてんのかてめぇ」


その頃にはすでに歩をすすめ、三人を追い越すような位置取りである正洋。しかし、三人を追い越さない。三人から1メートルの真横で正洋の歩みはとまる。顔を三人にむけ、そして表情は冷静であった。何かを決断しているかのような、表情であったと、正洋を一瞥した二人女性の内の一人は語る。


男性「あのな、てめえらのせいで怪我したぞ、おら。不愉快なんだ。てめえ、面かせや」


男性の怒声に、萎縮しているのか沈黙をしている女性二人。


男性「ちょっとこいや!!おら」


その瞬間に男性を上回る、声量の発言は市中内で響く。


正洋「そこまでだ!!」


正洋であった、左手を突き出し三人に割って入るような体勢だ。実際はその場での発言と姿勢であった。


その声量はすさまじく、女性の一人は防御反応かと思われるようなか身体の萎縮反応をとる。男性の顔の向きが変わった。



男性「な、なんだ?」


正洋「そこまでだ、行け!!行け!!」


正洋は女性二人に進行方向にいくように指をさす。女性二人が思わず、身体の向きを同じくとして足をうごかす。


男性「おい、なんだ、てめえ」


正洋「そこまでだ!!行け。お前も行け!!」


男性「なんだとてめえ」


正洋「いけぇ!!」


男性「うるせぇな、なんだよてめぇは。」


そういいながらも距離をとる男性。声に若干震えがある。正洋の発言の一つ一つの声量はすさまじく、空気がふるえているかのようであった。


女性「すみません、いきます。」


と二人の女性は歩み去っていく。


男性「なんだよ、てめえはくそ!!」


正洋「いいから、おまえも行け!!」


その言葉で男性も歩み去っていったのであった。身体は若干縮こまっているかのようだ。


その場には正洋が残される。距離を取る二組に意識の注意が向いているかのようであった。


少しして、あたりは平和が訪れる。安全を認識した正洋は、意識を登校に向けようかとしたときに声をかけられた。


美子「ほほーう、人助けとはやりますな~石やん」

律子「いやー」

咲子「ええとすごいね石坂くん」


咲子たち三名のグループは正洋の眼前にたっていた。いまの騒動を見られたらしい。


正洋「ああ、咲子さんたちか、ええとおはよう」


律子「何、いまの」

美子「すごいねぇ、響いたぁ」


正洋「え?ああ、声のこと?」


咲子「すごい大きな声だったね。エコーしてた、反響してたよ」


律子「うん、うんハウリングしてた。まあ、見てたけど。ちょっと怖いかな」


美子「おーう、思わず体がびくっとした。いやーでかい声」


咲子「さっきの人たち助けたんだね。まあ、何事もなくてよかった。でもほんとすごい声」


正洋「え?あああ、何事もなくよかった。いつでもだせるよ、さっきの声なら」


律子「そうなの?」


美子「そもそも全力で叫ぶのなんてめったにないけどさぁ。そうなの?いつでもだせる」


咲子「そうなんだぁ。何dbくらいあったんだろ、なんて。」


その瞬間、正洋の脳内で電流が走ったかのような感覚がおきた。


瞬間的な絶叫による起こるハウリング(鳴音)。「ハウリング・ロア」


毎日として、自らの力で形を成すための出来としての論文。その新たなテーマが


正洋の頭脳でめぐっていた。


正洋「いいね、いいテーマ。おもいついたよ。ありがとう」


咲子「ん?」


美子「何、テーマ?またなんか書くの?」


律子「え?いまので」


正洋「うん、すこし時間がかかるけど。できあがったら読んでくれる」


三人の目にうつる正洋の表情はどこか悟ったようなものに見えたという。

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