涙雨

芥川 みず。

二人の想いは

六月は雨の日が多い。


道端に咲く紫陽花が言うには


此の月は何かと憂う事が多いのだとか。


それは雲の向こうも同じらしく


思い想いに悩み続けた天使たちが


堪えきれずに流した涙が雨なのだと。


後悔や我慢、失望が混じったその雫は


雲を通し、濾過されて


好奇な街に降り


厳粛な森に降り


強欲な人に降り


その光芒に潤いを灯す。


随分前に聞いたそんな話をふと思い出しました。



僕は六月が来る度、大切な人にこの話を贈ります。


風邪を引かない様に傘をさしてあげて


貴方が好きだった花も忘れてません


今日は何の日か覚えていますか?


二人揃って思い出話なんて何時ぶりでしょう。



私は明日が来る度、未来の君にこの話を贈ります。


過去を悲かない様に枷をのけてあげて


貴方が好きでいてくれた事も忘れてません


今日は私が天使になっちゃった日ですね。


一人ぼっちで何時も思い出してます。



初めてのデートもこんな天気でした。


道端に咲いた花に、白いフィルムカメラを向け


「この花が一番好き」と。


僕が花言葉を口にすると


貴方は頬を膨らせながら、シャッターを切りました。



その後は喫茶店に入り


一緒にレモネードを頼んで


僕が煙草を吸うと


貴方は何を言うでも無くそっぽを向いて


その不貞腐れた顔がとても愛しかった。



「雨、止んだね。」


窓の外を見ると


水たまりに陽が刺していました。


濡れた傘を振り回す小学生の姿が


今でも鮮明に残っています。



快晴だった空は急に暗くなりました。


夕方を通り越して夜になったみたいです。


今日の天気はなんかおかしいねって。


天使の気まぐれの様なこの日を


貴方と過ごせて本当によかった。



こんな幸せな時間が


ずっと続くなら


僕は嫌な雨の日も


こんな六月ですらも


好きになれる様な気がして・・・



こんな素敵な幸せが


もうすぐ終わるから


私は好きな六月も


こんな梅雨ですらも


嫌いになった様な気がして・・・



そして二人は思い想いに涙を流す。


一人は雨の滴る墓石の前で。


一人は鈍色に燻る雲の上で。


もっと僕に勇気があったなら。


もっと私に時間があったなら。


「愛してる」って言えたのに。



彼女の涙は今も僕に降り注いでいる。

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涙雨 芥川 みず。 @mizu_akutagawa

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