File.2

 盆を持ったまま毒島が尋ねる。

「読めない手紙っていうのは字が古くて読めないとかかな?」

「そういうことじゃない。読める字もあるけど、書いてある意味がわからないんだよ」

 不動と毒島は顔を見合わせた。津島少年の言いたいことがよくわからない。

 漢字が難しくて読めないわけでもなければ、字がかすれて読めないわけでもない。

 いちいち問答をつづけていたがそれも面倒になってきた不動が「現物を持ってきてくれないか」と言った。すると津島少年は「あるよ」と言いランドセルを開けた。

 中からクッキーの缶を取り出すとテーブルの上に置いた。だいぶ古いもので縁が赤さびていたりしているが色褪せや傷みは少なく、大事にされてきたのもなのだと一目見てわかるものだった。

 中身を空けるとたくさんの絵葉書。どれも「三好百合子さん江」と丁寧な字で書かれている。差出人名には「M」の一文字のみ。

「もしかして、おばあちゃん浮気してたんじゃないかと思って」

「それはどうして」

 すると訊ねた不動に対して憤った表情で睨みつける津島少年。

「だって箪笥のずっと奥にしまってあったんだよ。丁寧に毛布にくるんでまで。それって誰にも見られたくないってことだろ?」

「……それで、問題の手紙は」

 荒い息を整えた津島少年は「これだよ」と一通の封書を差し出した。

 手紙の中では最新の消印でそれ以降の手紙はない。

 質のいい封筒の中には質のいい便箋が形よく収まっていた。

「きっと浮気相手と内緒の文通をしてたんだ。だから相手もばれないように絵葉書ばっかり送って。それで、名前も頭文字だけにしたんだよ。この手紙だってばれたくないから暗号にしたんだ」

「暗号?」

 毒島は不動の目に好奇心の光が宿る瞬間を見た。間違いなく興味津々だ。

 毒島は固唾をのみこんだ。

「中身を見ても?」

「うん、いいよ。解決できそう?」

「それは見てからのお楽しみ」

 不動が便箋を取り出すと質のいいシルクを撫でるような音がした。

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