注文の多い探偵事務所
鳳濫觴
さあさあなかにおはいりください。
閑静な住宅街、緩やかな石畳の坂の途中にひっそりとたたずむレンガ造りのテナントビル。三階建てのそのビルはよく手入れされた壁面緑化の鮮やかな青色と温かなレンガの赤土色がよく映えて住宅街に馴染んでいた。
半地下になっている一階には路面店の美容院があり、その脇から吹き抜けのエントランスホールへ入ることができる。
床は落ち着いたモノクロの石材でタイル張りになっており、ひんやりと冷たい印象がする。大きな黒い螺旋階段が天井まで昇り、明り取りの広いガラス窓がのびのびとあたたかな日差しを取り込んでいる。
二階にはデザイン事務所。三階にはこのビルのオーナーを務める
――不動国光探偵事務所
雰囲気がよく探偵事務所というより書斎と言った方が言い得て妙。純喫茶のようで図書館のようでもある。ダークカラーの天然木の床材とアイボリーの漆喰張りの壁。天井にはシーリングファンと暖色系のライトが鈴蘭型のランプシェードに収まっている。
家財道具は床材と系統を合わせ黒色系の木材を使用している。
純喫茶のようなベロアのチェアと細工の施されたアンティーク調のテーブル。事務机まで抜かりなく調律されていた。
北側の壁面にはずらっと並んだ書棚。そこに不釣り合いなファイルケース。今までの事件の資料だが、そこまで数は多くない。
あまりにひっそりとしているため集客効果はいまいちだったし、依頼人がいようがいまいが金には困らなかった。不動の言葉を借りるならば「知る人ぞ知る探偵事務所」なのだという。
昭和の不動産王と呼ばれる人物を祖父に持ち、金に困らない生活をしてきた彼が暇つぶしで始めた事務所だった。
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