新時代の価値観

 新時代の現人神は人類を3つに分類した。


 1、責任者

 人工知能『オカミ』と党幹部、それから一部の専門家と技術者から構成される。

 彼らは人類委員会とも呼ばれ、オカミの御神託を基に政治決定をする。


 2、人民

 多くの民衆がここに属する。ゆりかごから墓場までオカミの判断に基づき生活する。オカミの下での平等と自由が保証されている。


 3、自由民

 障碍者とオカミ及び人類委員会によって自由民と認定された人間が該当する。

 オカミの下での平等や自由は享受出来ず、また人権もない。医療福祉も一切受けられない。

 ただしオカミから『本来的意味での自由』を認められている。


 自由民認定されたのは旧支配層、知能テストをクリアできなかったもの、旧時代の信仰や慣習を捨てなかったもの、人類委員会に反抗したもの、犯罪者、及び恣意的な無能認定を受けたものである。

 オカミはこう宣った、

 「曖昧な価値観、人種や国籍、肌の色、性別宗教等に基づいた差別は、人類に亀裂を生じさせるだけの無益有害なものであるので唾棄せよ。明確な基準による区別、棲み分けこそが差別への解答である。」

 差別への解答が優生思想的区別や最も唾棄すべき人類による恣意的な判定、というのがなんとも言えないが、仕方ない、人工知能の御言葉である。疑うものは自由民。本来的な自由に苦しむのだ。自由とは残酷である。オカミの自由は誰も苦しむことがない。オカミ万歳。


 またこのようにも仰っている

 「本来的平等は時に公平ではない。よって欠陥的価値観である。明確な基準による区別、棲み分けこそが公平への近道である。」

 平等は欠陥であるという。確かにそうかもしれない。民主主義の時代、マイノリティを優遇するあまりマジョリティが迫害されることがしばしばあった。オカミは偽善的平等や偽善的人権を過去のものに変えた。棲み分けと旧時代の価値観の破棄、これが多数派や少数派という概念を消し去り、オカミの下で、佞悪醜穢たる自由民を除いた自由と平等が実現した。オカミ万々歳である。


 オカミは常に正しい。偉大なるオカミの指導はこの世から戦争は勿論、些細な諍いすら無くした。

 オカミ曰く、

 「争いの種は欲望と感情である。」

 かくいう私も私利私欲や執着を捨て去ったところ、わずかばかり寛容になった気がする。

 ほら、未だに執着を捨てられない自由民を見たまえ。薄汚い服に身を包んだ偏食家、極度の肥満、もしくは痩せで歯はない。それから…見ているだけで気分が悪くなる。

 愚鈍な自由民が居ては平等や自由が成り立たないのは至極当然であったのに、なぜ誰も気が付かなかったのか。やはりオカミは偉大だ。オカミの明察に光あれ。


 君はまだ旧時代的、自由民的な思考をしているようだね。そんな馬鹿馬鹿しいことはやめて、素直にオカミの判断を礼賛しなさい。

 私がまだ自由民に理解のある人間で良かったよ。

 それでは、また今度。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

讃えよ万能 崇めよ人工知能 雪(うぱし) @euxsapu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ