第40話



しばらくの間、甘い香りの中で泣いていた。


「 ゆずき…ちゃん… 」


その間、大野は優しく肩を抱いてくれていた。


恐怖と恥ずかしさと緊張していた気持ちが、大野の姿を見て安心したのか、一気に爆発してしまったようだ。


大嫌いなやつの胸を借りているのに、まったく離れる気が無いのは何故だろうか。


「 ごめん…もっと早くに来ていたら… 」


「 ううん…… 」


また涙が出てきてうまく話せない…


あいつら!!……


今度あったら…


「 ……。…?… 」


「 始めから君を狙っていたんだ…だから……最初に出会った時も…」


 え!?……


「 あいつら…あの時も……


一週間前ーーー



あの人相の悪い3人組…


確か、噂になっている痴漢グループ…


たまたま、家に帰る途中、ひとりの女性の後を追い、不自然にゆっくり走る黒い車に目が止まった。


よく見たらうちの学校の制服だったし、ちょっと気になって後をつけていった。


信号待ちで停車中の車の、少しだけ空いた窓からあいつらの話声が聞こえてきた。


『 あの商店街を過ぎたら決行する 』


噂では聞いていたんだ。


女性を拉致して撮影、それをネタに金を強請る悪党グループだってことを…


その時、とにかく助けてあげなければ、そう思って後をつけて行ったんだ。


でも…


あいつらが近すぎて、君に知らせるチャンスが無かった。  


真っ向から行こうとしたけど、相手は体格のいい3人組


さすがにあの時はびびってしまって…


どうしようか考えていたら、思いついたのが…


君と…恋人同士になることだった。


「 恋人?… 」


やつらは一人でいる女性しか狙わないらしい、だからあいつらの前に先回りして、君を攫ったんだ。


そして…


あの路地裏に連れこんで、カップルの真似をした。


痴漢なんかじゃ無かった……


始めから私を助けようとしてくれてた。



『 ピポピポピポピポピポ… 』セットしておいたスマホのアラームが鳴った。


ハッ!…


門限の時間!… でも、もう間に合わない


これで…完全に部活は禁止


「 歩ける? 」


「 うん…着替えるからこっち見ないで 」


「 あ…ごめん… 」


大野は慌てて私から離れると、壁の方を向いた。


もうとっくに着替えは終わってるのに、まだ壁の方を向いてる。


みんなの言っていた通り真面目だったんだね


「 もう、こっち向いていいよ 」


大野はゆっくり振り向いた。


制服は全身汚れて、綺麗な顔を見るとあざができていた。


「 あ!…血!… 」


「 ドジった…けど、3発返してやったぜ! 」


「 どんな理由があったとしても… 」


大野の頬をハンカチで拭いながら、高い鼻のてっぺんを人差し指でチョン、と突っついた。


「ケンカは良くないと思うよ 」


「 あ…ああ… 最初で最後にするよ… 」


でも…そうだよね…


私の為にしてくれたんだもんね…


「 大野?」


「 なに? 」


「 あのさ… …… 」


「 ………? 」


「 助けてくれて…ありがとう 」



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