第29話


水筒に入っていたジュースはすっかりカラカラ…


「 あなたのせいでこんなになっちゃったじゃない!どう責任とってくれるのよッ!」


ローファーをベンチから脱ぎ捨てると、シミになったホワイトのソックスをギュッと絞り、ベンチに立ち上がってクシャクシャになったそれをプラーンと両手にぶら下げ、大野涼太の目の前に差し出した!


「 もう ヤダ…グス… 」


情けないのと、恥ずかしいのと、悔しいのと、私はベンチに立ったまま泣くことしか出来なかった。


だって冷静に考えてみると彼は私の名前を呼んだだけで…


かってにびっくりして、かってにジュースこぼして、かってに彼のせいにして…かってに怒って…こんな格好している私は…

いったいなんなの?


ただ泣いて怒っている 私は…


「 これじゃあ歩けないね 」


「 グス… 」


「 まだ、一つも返せてないのに…また増やしちゃった ね… 」


「 グス… 」


「 僕のこと大嫌いだと思うから 」


「 ?… 」


「 たぶん嫌かもしれないけど 」


大野涼太は私の手から濡れたソックスを奪いとると、落ちたローファーを拾い上げ、そのままかがみ込んで、長い間ずっと 私を待っていた。


「 君に返したいから… 」


確かに嫌だ…


こんなやつの背中に乗るなんて…


けれど…


気がついたら大野涼太の背中に、あの香水の匂いがする背中に…


乗っていた。

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