タイガーホワイト/パンサーブラック

初月・龍尖

タイガーホワイト/パンサーブラック

 

 

「なあ、トウタよう」

「なんだよ、ゴスケ」

 トウタは肩まで浸かった身体を起こして浴槽の端に載った洗面器に目を向けた。

 洗面器の端にあごをのせたゴスケは半目でトウタの下半身を眺めていた。

「お前のそれ、発情期ごとに大きくなってねえ?」

「……お前もそう思うか?」

「思う。匂いも徐々にきつくなってるし正直おいら……」

「てめえ、また外猫孕ませんなよ? 仲裁がクッソ面倒だったんだから」

「だいじょーぶだいじょーぶ、番ができたから」

 その言葉を聞いてトウタは思いっきり立ち上がった。

 その勢いで水飛沫が上がりゴスケは慌てて洗面器から飛び上がって浴槽の端へ着地した。

「おいテメエ。俺が苦しんでるっつーのに番ができた、だと? ああ?」

 そうやって起こる興奮で魔力が高まりトウタの身体が変化を始める。

 全身から純白の毛がじわじわと生え顔がケモノみを帯びてゆく。

 ニンゲンとしての耳が小さくなり頭上から猫耳が生える。

 そして、股間のモノはより高く天を突くようにがちっと立つ。

 その色はまだ戦場を経験したことのない色だ。

「あああ!!! クソッ! ムラムラすんのにオナれねえのはキツイ! キツ過ぎる!!!」

 がっちりと立った棒をしごくことはできる、ただ、興奮してくると棘が浮いてきて手が傷つきしごくどころではなくなる。

 オナホなどいくつ引き裂いたかわからないくらいだ。

 トウタは転生者である。

 前世では魔法使いだった。

 職業という意味でも童貞と言う意味でも魔法使いだった。

 トウタに植え付けられた魔法は”獣化魔法”だ。

 獣の因子を得るという名目で血液や体液、脳、臓腑などを大量に喰わされ、結果的に適応固定したのが血狂虎ウォータイガーだった。

 前世をみても今世をみてもトウタはあまり血の気の多くない性格をしている。

 そのおかげか獣化してもその因子に意識を喰われることなく冷静に行動が出来ていた。

 ただ春、春だけは問題だった。

 春といえば恋の季節である。

 前世から今世まで合わせても彼女いない歴イコール年齢であるトウタは毎年もんもんとした春を過ごしていた。

 それを見かねたゴスケはトウタに提案を持ちかけた。

「トウタよう。おいらも恩あるあんたが苦しむのをただ見ていた訳じゃねーんだ」

 完全に白虎獣人と化して肩で息をするトウタの目をしっかりとみてゴスケは続けた。

「おいらの知り合いに婆あがいるんだ。まあ、いわば妖怪だよ。トウタから教わった、あの、なんだっけ、まりょくじゅんかん? だっけ? アレをやるようになってからおいらにもそのまりょくとやらが増えてさ、お呼ばれするようになったんだ」

「ほお。やっぱりこのセカイにもいるんだな。魔化生物。話の中だけじゃねえかあ」

「で、婆あのいうには獣化ができるなら人化できる猫を番に持ったらどうだって」

「あー、たぶん普通の娘は危険だ。獣化した俺はちからが増すし、恐らく一突きで子宮を貫通させて殺しちまう」

「え? そんなのわかんの?」

 ヤったことないのに? と目を丸くするゴスケの背をつまみ目の前で揺らしながらトウタは牙を見せて笑った。

「散っていったオナホの数でおおよそ予想が付く。そうじゃなくても俺の身体だし判るよ、それくらいは」

 ゴスケはふへーと息を吐き「じゃあいかねーの?」と聞いてきたのでトウタは「まあ行くけどさ」と返事をしてゴスケを放り投げた。

 くるりと身体をひねり着地したゴスケは扉をかりかりとひっかいた。

「待て。まず身体を拭くぞ」

「走ってれば乾くからいいよ」

「部屋の中が濡れるからだめだ」

 わしわしとタオルで水気をふき取ったふたりはぼんやりと月が見える夜へその身を躍らせた。

 塀の上を、屋根の上を軽やかに走りながらトウタはゴスケに疑問をぶつけた。

「で、どこに向かってんだ?」

「山の方」

「もしかしてばけもの廃墟?」

「その呼び方は知らないけど大きな建物だ」

 ぽつぽつと会話をしながらたどりついたのはトウタの言った通り通称ばけもの廃墟だった。

 廃墟という割には気配が濃厚で薄く膜のような物が張られていた。

「近くで見るとすごい濃厚な魔力だなあ」

「そうかー? おいらはあるなあくらいしかわからないな」

「ゴスケは入ったことあるんだろ?」

「うん。何度も」

 ゴスケは首を傾けてどうしてそんなことを聞くのかとトウタを見上げた。

「入ったらわかるよ」

 トウタとゴスケが膜、結界の中に一歩目を踏み出すとゴスケの毛が逆立った。

「トウタっ!」

「大丈夫。この感じは敵意無しだから」

「でも、こんなのおいらはじめてで」

 目と尻尾を右へ左へ動かすゴスケをトウタはつまみ上げて腕に抱いた。

 トウタは逆に冷静になっていた。

 反り立っていた棒もいつの間にかただぶら下がるだけのものになっていたので毛皮の中に収まっていた。

「落ち着けやゴスケ。迎えが来る」

 落ち着かせるようにゴスケの背を撫でていると奥からいくつもの尻尾が見え隠れする着物姿の女性が供を連れてふたりの方へと向かってきた。

「トウタさん、はじめまして」

 震えるゴスケをちらりと見てから着物の女性は頭を下げた。

「ああ、はじめまして。貴女は?」

「わたくし下女の常と申します」

「下、ね」

「奥様をお尋ねになったのですよね?」

「ああ。ゴスケ、助言をくれたのは奥様なんだろ?」

「そ、そうだ。白眉さまだ」

「では、案内をしますね」

 くるりと反転して歩き出した常を追ってトウタも歩きだした。

 曲がり、上がり、抜け、閉じ、開き、下り、ひとつの扉に辿り着いた。

 大きな扉だったが常は手を触れずにそれを開いた

 そこは広間だった。

 空間一面に上下左右お構いなしに階段と扉が張り付き一度迷い込んだら絶対に外に出さないという意思が垣間見えた。

「こちらです」

 常は迷うことなく階段を上がり、扉のある踊り場に立った。

 その扉は地面と並行に立っていた。

 トウタも常の後ろを追ってためらわず階段を上がった。

「トウタさまとゴスケさまをお連れいたしました」

 扉越しに常が声をかけると奥からかれた女性の声が返ってきた。

「お入り」

 扉がカーテンを引くようにぐに、と曲がり室内への道をつくった。

 いつの間にか常はいなくなっていた。

 一度深呼吸をしてトウタは部屋に足を踏み入れた。

 扉が閉じた気配を背後で感じながらトウタは一旦足を止めた。

「どうしたい。おいで」

 女の声が部屋に響く。

「トウタ、早くいこう」

「ゴスケ、一旦深呼吸。魔力の循環を忘れるな」

 トウタの声が届いたのか部屋の奥から笑い声がした。

「わかってるじゃないか。合格だよ。ほら、おいでな」

「トウタ、なんの……」

 ゴスケをしっかりと抱いて身体の線に沿うように魔力の幕を張る。

「ゴスケ、気をしっかり持てよ」

 部屋の奥に足を踏み入れた瞬間ゴスケは「ふみぃ」と気を失った。

「その子にはまだ早かったようさね」

「だろうな」

「おまえさんは婆のようりきを受けても変化なし。ふむ、妖化するニンゲンって話はそこ伸びたのから聞いていたけど、なかなか男前じゃあないか」

「お褒めにあずかり光栄だ」

 トウタは一度礼をして女を見た。

 薄い布で隔てられてなお女からは濃い魔力が発せられていた。

「あんたのそれ、このセカイの種じゃあないね」

「ああ、これは前のセカイにいた種。血狂虎ウォータイガーって名前だ」

「狂乱種かい。ここで暴走するんじゃあないよ」

「そこは心配しないでいい。前世今世を合わせて暴走なんて一度もした事はないから」

「ふうん。狂乱種の皮をかぶって暴走しないのがニンゲンの中にいるなんてねえ……」

「まあ、その皮のおかげで苦労はしてんだけど」

「その股下のやつだろ? ゴスケから聞いてるよ。処理できる相手を探しているって」

 女の視線が股の刺さるのを感じトウタは頭をかいた。

「まあ、単純に言えばそうなんだが。そこまではっきり言われるとなあ……」

「発情しているオスがメスを求めるのは当たり前のことさね。逆もしかり、前から合わせて童貞なんじゃろう?」

 トウタが頷くと女は「確認の為じゃ、一度勃起させてみてくれぬか?」と淀みなく口にした。

 トウタは目を閉じ股間に意識を集中させた。

 毛皮に隠れていたモノが一気にふくらみ、反りあがった。

 更に集中すると太さがゆっくりと増し、棘が現れる。

「そこまで」

 女の言葉にトウタは集中を解き肩で息をする。

「どうだ? 参考に、なったか?」

「うむう……。ものすご過ぎて、ううむ……」

 むうむうともだえるような声を上げ続ける女の次の言葉を待つこと数分。

「……やきとり、もも、たれ、しお……、はっ! おいらはなにを!」

「おっと、起きたかゴスケ」

「トウタ、話は纏まったのか?」

「それなんだがなあ」

 あごで布の向こうを指すとゴスケは鼻をひくひくを動かした。

「白眉さまが、発情してる?」

「ああ、あてられたみたいでなあ」

 布の向こうからは喘ぎ声と水のはねる音が断続的に聞こえていた。

 そんな女の声を聴いてもトウタのモノはもう勃起していなかった。

「おーい、そろそろ満足したかあ?」

「ふえっ!? あ、ああ、すまぬ。我を忘れておったわ」

「白眉さまが、かわいい?」

「ゴスケ、後でおぬしの番にその言葉を違わず伝えておこう」

「ちょ、待ってくださいいい。お願いですうう」

「そんな冗談は置いておくとしてトウタとやら。この婆からおぬしのモノを処理できるメスの紹介はしかねる」

「マジかあ……」

 天を仰いだトウタに「だがの。ひとつ、手がある」と女は続けより濃密な魔力を布越しに顕現させた。

 

 

 

「はあー……」

 ばけもの廃墟の結界から出てトウタの腕から降りたゴスケは伸びをした。

「で、トウタ。やるのか?」

「やるしかないだろ。それしかない。俺が今まで思いつかなかった話だからな」

 ぐっと背筋を伸ばしてトウタはちょっぴり顔を出した太陽をみた。

「完徹しちまったなあ。やっぱり結界の中だと時間の感覚が狂うな」

「素体は白眉さまが用意してくれるって話だけど好みとか伝えなくてよかったの?」

「選り好みしてる場合じゃねーからな」

「じゃ、おいら少しだけ顔出して帰るから」

 林の奥に消えるゴスケを見送ってはたと気が付いた。

「はいよ。ってどうしよう、獣化解いたら全裸になっちまう……。明るくなってきているし、帰れねえ。よし、一旦戻る」

 服を借りてニンゲンへになって自宅へ、と出てきたばかりのばけもの廃墟に戻ったところで常につかまった。

「トウタさま。お呼びです」

「え、もう見つかったのか?」

 トウタの言葉に返事をせずに常は身体を反転させて歩き出した。

 下がり、閉じ、上り、抜け、反転し、捻り、再び広間へと辿り着き今回は螺旋階段を下へ下へとくだっていった。

 階段を一歩降りる毎に魔力の濃度が増す。

 あの女の部屋よりもさらに濃く、密度の高い魔力。

「お連れしました」

 階段の途中で常は立ち止まり下へと声をかけた。

「トウタ。ひとりで降りておいでな」

 横目で常を見ると彼女はひとつ頷いて戻っていった。

 螺旋階段はどこまで続いているのか。

 まるで奈落の底へと向かう果てない旅路に思えた。

 視界が狭まってゆく。

 濃度が高すぎて階段の周囲にはきれいに整った魔力塊が浮かんでいた。

 そんな事よりも今は自分だけのメス。

 自分のためのメス。

 呼吸が早くなる。

 身体が揺れる。

 足が速くなる。

 興奮が伝わったのか股下の棒が首を持ち上げる。

 一番下に辿り着いた時にはトウタの棒は完全に臨戦態勢にあり先端からは半透明の液がたれていた。

「気の早いやつだね。そんなにしおって」

「……落ち着くから時間をくれ」

「よいよい。落ち着かんでも」

 それより、どうじゃ? と女は立ち位置を少しずらした。

 そこには一体のメスが眠っていた。

 トウタは吸い寄せられるようにそのメスの元へと足を動かした。

「気に入ったようじゃな」

「これは……。このにおいは、俺……」

 女はくつくつと笑った。

「そうじゃ、そうじゃぞトウタ。このメスはおまえさんの求めるメスじゃ」

 トウタは深呼吸を一つして女の方を向いた。

「用意はありがたい。だが、俺に合い過ぎる。どうやって、造った?」

「造ったとは、大袈裟じゃな。元は拾い物じゃよ。おまえさんと同じ違うセカイからの漂流物じゃ」

「貰って、いいんだな?」

 女は頷きいつの間にか現れていた扉を指示してゆっくりとその姿を薄くしていった。

 トウタは眠ったメスへと近づき、身体の下に手を差し込みゆっくりと抱き上げた。

 メスの香りがトウタをふわりと包む。

 なるべく揺らさないように扉を抜けベッドの上に彼女をおろす。

 頬を撫で、額にくちびるを落とす。

 そのままの勢いで首筋を舐め六つ並んだ乳房を順に撫でる。

 眠る彼女の吐息が甘いものに変わる。

 トウタの理性の紐はぷつん、とちぎれた。

 くちびるを重ねる。

 強引に舌をねじ込み絡ませる。

 互いの尻尾がよりあげられる。

 彼女が目を覚ます。

 寝ぼけまなこでトウタを見上げてほうと息を吐いて頬を染めた。

 頭を抱えるように引き寄せてより激しく舌が絡み唾液で橋をつくった。

 荒い息が部屋を満たす。

 トウタはくちびるを重ねながら身体の動きだけで彼女の陰部にモノを押し当てた。

 互いの粘液で滑るようにモノは押し入った。

 彼女の顔が痛みで歪む。

 トウタは一度動くのをやめて彼女の頬を舐めた。

 言葉は無かったが互いに何を思っているのかわかった。

 彼女の意思に合わせるようにゆっくりと腰を動かして奥へ奥へと差し込んでゆく。

 巨大なモノが彼女の腹の中に全て収まった。

 一番奥まで押し込まれ彼女の腹はぎゅっと締まった。

 トウタは腰を動かさなかった。

 本能は腰を動かせ、射精をしろと五月蠅かったがただ性処理をして壊すために彼女を引き取ったのではない。

 最初は自分のはけ口としての人形を探していた。

 彼女をみた瞬間、くちびるを重ねた瞬間、挿入した瞬間、とても、とても愛おしく思った。

 長く、永く共に在りたいと思った。

 同時に息を吐いた。

 彼女の腹がさらに締まりなかへと精が解き放たれる。

 ため込んだ精液が一気に彼女のなかへと送り込まれる。

 トウタの意識は飛んだ。

 

 

 気が付くと彼女の顔が横にあった。

 すらっとした黒豹の横顔。

 トウタが獣化を解いてゆくと彼女もゆっくりと人化をしていった。

 人化した彼女はアジア人的な顔では無かった。

 だけど、トウタには馴染みの深い気がした。

 前世に引きずられた感覚だったがそれすらも愛おしい気がした。

 

 

 

 

 

 

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