幸せになると死にたくなる

らび

幸せになると、死にたくなる。

いつからだろう。幸せになると、死にたくなるようになったのは。


小さい頃、僕は何にでもなれると思っていた。


世界を救うヒーローにも、世界中から愛されるプリンセスにも、世界を恐怖で支配する魔王にだって。


でも、現実はそうじゃなかった。


今のこの一瞬を生きるだけで精一杯。


周りのことなんて、考えていられない。


僕とあの人たちは、何が違うんだろう。


生まれ育った環境か、見てきた世界か…きっとそのすべてが正解で、すべてが不正解だろう。


だって僕は、あの人たちじゃない。


どうあがいたって、僕は他人とまるきり同じ人間にはなれないんだから。


でも、そんな僕にだって、幸せな瞬間は訪れる。


気になっていた人に、好きだと言われたとき。


周りから、すごいねって褒められたとき。


美味しいケーキを食べたときですら、僕は幸せを感じるようにできている。


そうやって小さかったり、大きかったり、いろいろな形の幸せを噛み締めている瞬間。


僕は不意に、死にたくなるんだ。


幸せになりたくない。


失うのが怖い。


いまが一番幸せなら、今後もう幸せになれないんじゃないか、?


そんなどうしようもないことを考えてぐるぐる思考が絡み合って、それを解きたくて強く強く引っ張るととたんに、ぷつん。とそれが切れてしまう。


自分でも、自分がわからない。


何が好きで、何が嫌いで、何に惹かれるのか。


誰が好きで、誰が嫌いで、誰に惹かれているのか。


不完全で不明瞭で、どうしようもない。


そんな僕は、生きてる意味なんてないんじゃないか?って、僕が、僕を攻め立てる。


何もかも人並み以下で、親の期待にも答えられなくて、人を愛されたい、必要とされたいと思うのに、人に愛されると冷めてしまう。愛が一瞬でなくなってしまう。でも、リスロマンティックなんて固有名詞は僕には似合わない。そんな大層な名前をつけられるほど、完璧な人間じゃない。


そうやって自分を攻め続けていると、ふと、思ってしまうんだ。


死にたくない、って。


まだ何も成し遂げられていない。


あんなに夢見ていたヒーローや、プリンセスや、魔王にはなれなくたっていい。


人を救いたい、唯一無二の愛する人がほしいなんて、そんな大それたことは言えない。


だからどうか、明日も生きていたい。


やりたいことも、行きたいところもある。


見たい星空も、乗りたい船も、飛びたい空だって。


だから、幸せで死にたくなるとき、


僕はいつも、僕を攻めて、攻め立てて、


そしていつもひとつの答えにたどり着くんだ。


不幸になると、生きていたくなるって。

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