第26話 到着(三人称視点)
※今回も引き続き、三人称視点です。
しかし、だからと言って、安易に彼女を責めることなど出来はしない。
これは幸村を心配しての行動であり、そもそも、よく知りもしないアプリを言われるがままに導入し、設定してしまった脇の甘い幸村が悪いのだ。
「何それ、スゴい。それでユキの行動がいつでも手に取るようにわかるってわけね。それ、私にも後でやり方教えてよね? この抜け駆けは不問にするから」
「あらあら、エリカちゃんも入れたいの〜?」
「ヒナも入れたーい」
「仕方ないなぁ〜。じゃあ、後でお姉ちゃんが設定の仕方、二人に教えてあげるね」
三姉妹がワイワイと盛り上がりを見せる中、弥生は自分の携帯電話をカバンから取り出し、画面を眺め続けていた。
「あの、その『見守りアプリ』というのは私の携帯電話にも入れられるんでしょうか?」
三姉妹の視線が弥生のガラケーに集まる。彼女の問いに答えたのは彩花だ。
「ん〜。たぶんだけど、このアプリは入れられないかなぁ。スマホに買い替えないと」
「スマホですか……。スマホの操作って難しそうですよね」
「そんなことないよ? お姉ちゃんも最初は戸惑ったけど、慣れれば簡単、簡単っ」
「そうですか。……でも、今回は諦めることにします」
弥生がお年寄りのような感性を発揮しているが、そもそもの話、スマホに替えたところで、幸村が家族でもない自分に見守り許可を与えてくれる、なんて彼女には思えなかったのだ。
「ねぇねぇ。弥生のお姉ちゃんはアプリ入れて誰を見守るのー?」
「えっ!? いや、それは、その、あの……」
ヒナの問いに答えるのならば、もちろん「幸村を」なのだが、そんなことをバカ正直に答えるわけにはいかない。
弥生とて、三姉妹の幸村に対する想いは重々承知しているし、そもそも恥ずかしくて口が裂けても、そんなことは言えない。
「誰を見守るのー??」
「あっ、うぅ……。……お母さんですかね」
赤面し、狼狽し、自分の服の裾をギュッと握りしめ、やっと出てきた苦し紛れの言葉。
少しの間の沈黙を弥生はグッと我慢した。
「へぇー。お母さんねぇ。あー、そう……」
「はい。お母さんを見守ろうかと……」
絵梨花の声は関心があるのだか、ないのだがわからないような響きではあったが、話を深掘りされなかったことに弥生はホッと胸を撫で下ろす。
絵梨花の探るような瞳が自分を突き刺しているとも気づかずに……。
話は一旦そこでお終いになり、数分後。
「あっ。皆、次の駅で降りるよ〜」
幸村の現在地付近に到着したようで、彩花が出入口へと歩き始める。
けれど、電車は速度を少し緩めただけで、その駅で止まらずに素通りしていく。
遠のいていく駅を見つめ、思わず雛花が声を上げた。
「か、か、か、快速だーっ! この電車!!」
「ご、ご、ご、ごめーん! お姉ちゃん、急いだ方が良いと思って!」
ドンドンと離れていくアプリの幸村マークを眺めながら呆然とする四人であった。
(車内で大声を上げる行為は他の乗客の迷惑になるのでやめましょう)
◇◆◇◆◇◆◇◆
幸村たち合コンメンバーがカラオケ店に入ってから、遅れること一時間、ついに三姉妹たちも目的地に到着した。
そして、個室に入ると、彩花と雛花が取り敢えずカラオケの準備を始める。
ちなみに、弥生は監視のため、幸村のいる個室に向かっている。大人数での監視はバレる危険性が高いため、彼女たちは交代制で幸村を監視することにしたのだ。
「ねぇねぇ、アヤお姉ちゃ〜ん。ヒナから歌ってもいい? 歌いたい曲があるの」
「いいよ〜。あっ、そうだ。あとでお姉ちゃんと一緒に歌わない? ヒナちゃんにはラップのところを歌ってもらって〜」
「えー、ヒナ、ラップなんて出来ないよ?」
「いいの、いいの。雰囲気でテキトーに歌ってくれれば充分だから」
会話をしながら、雛花がマイク片手にポチポチとタッチパネルを操作する。すると、すぐに曲が流れ始めたのだが、開始数秒でプツリと音楽が止まってしまった。
絵梨花によって強制終了されたのだ。
「二人とも。なに歌おうとしてんのよ。目的を忘れてない? 私たちは合コンを見張りに来たのよ?」
「わ、忘れてないよーっ! でもでも、今は弥生のお姉ちゃんが見張ってくれてるし! せっかくお金払ってるんだし!」
雛花の大声にゥワ〜ンっとマイクがハウリング。
「一旦、マイクを置きなさい。まったく……カラオケの空気に飲まれてんじゃないわよ。アンタたちのユキへの想いはその程度なの? 私はね、ずっと、ず〜っとユキのことを考えてるわよ? これが、その証拠」
そう言って絵梨花は唐突にスマホの画面を二人に見せたのだった。
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