第24話 誰が三姉妹を説得してください……。

——限定ミッション発生。


『三姉妹たちを説得せよ!』


 説得なんて不可能だ、とコイツら三姉妹をよく知る人なら考えるかもしれない。だが、俺はそう思わない。


 なんだかんだで、エリカもヒナも、それにアヤ姉だって性根の優しい良い子だ。キチンと話せば必ずわかってくれるはず。


「男ってのはな。一度した約束——」

「「「ダメーーっ!」」」


 聞く耳持たずってのは、こういうことを言うんだろうな……。

 が、俺は諦めない。策はまだ残されている。


「わかった……。一旦、落ち着こう。この話は飯を食い終わってからだ。このままじゃ、せっかくアヤ姉が作ってくれた、美味しい美味しい最高の最高ーっのご飯が冷めちまう」


 誉め殺しでアヤ姉を封殺する。あわよくば、味方に引き込む。それが俺に残された唯一の道だ。汚いやり方に見えるかもしれないが、俺は本心を言っているだけなので少しも心は痛まない。


(アヤ姉の作る飯は本当に最高に旨い!)

 

「私のご飯って、そんなに美味しいの?」

「もちろん。あんまり普段は言わないけど、俺は常々そう思ってる。『最高だ!』ってな」

「も〜、そんなに褒められたら、お姉ちゃん照れちゃうよ〜///」


(よし。取り敢えず、アヤ姉の機嫌は治ったな)


「じゃあ、ユキく〜ん。いっぱい食べて。……はい、あ〜んっ」


(おっと、褒めたら斑鳩いかるが家恒例の「あ〜んっ」が始まってしまった……。飯は自分のペースで食べたいんだが、ベタ褒めしてしまった手前、拒否するわけにもいかないか……)


 そう思い、俺が口を開けると、すぐにカボチャの煮物が押し込まれた。


「うん。やっぱりアヤ姉の飯は美味しいな」


「ありがと〜。はい、あ〜んっ。もっと沢山食べてね〜。はい、あ〜んっ。美味しい? うんうんっ。はい、あ〜んっ」

「…………」


 美味しいよ、と答えてやりたいところだが、口の中がカボチャでいっぱいのため喋れん。


「うふふっ。はい、あ〜んっ。ユキくん、リスみたーい。はい、あ〜んっ。今日のは特に自信作なんだよ? はい、あ〜んっ。はい、あ〜んっ。はい、あ〜んっ——」

「おうおおあっええ(ちょっと止まって)」


 もぐもぐしながら、てのひらを前に突き出し、ストップをかけたものの、エンドレスあ〜んっに終わりは見えず……。


(あっ、俺、カボチャで窒息するかも……)


「ちょっとアヤ姉? いい加減にしてよ」


 助かった……。意外に常識人のエリカが止めに入ってくれた。


「あ、ごめんね。お姉ちゃんったら興奮してユキくんを一人占めしちゃった〜」


(ん? なんか良くないことが起きそうな予感がするぞ……)


「協定、忘れないでよね? じゃあ、次は私の番っ。ユキ〜。はい、あ〜んっ」


(終わった……。すでに詰め込まれすぎてて口を閉じることすら出来ん……。今、俺の口、詰め放題……。俺、もしかしてカボチャで殺されるのか……?)


「ヒナもするーっ!」


 と、ここで流石の俺もギブアップ。これ以上、カボチャが口に侵入してこないように手で口を塞いだ。


(カボチャ死ぬのは御免だ)


「ヒナもするのにーっ!」

「…………」


(すまん、ヒナ。俺の胃袋は、もうカボチャでいっぱいなんだ……)


◇◆◇◆◇◆◇◆


 なんとかカボチャを咀嚼そしゃくし終えると、俺は真剣な表情を作り、三人の顔を見回した。


「たまには俺の話もキチンと聞いてくれ。いいか? 俺にだっておとことしてのメンツがある。約束は破れない。だから、俺は合コンに行く。とにかく、行くったら行くんだ」


 あとはもうおとこらしく駄々をこねるのみだ。そもそも、なんで合コンに行くのにコイツらの許可がいるんだ? よく考えたら、おかしいじゃないか。


「どうしても……行きたいの?」


 三人が顔を見合わせたあと、代表してアヤ姉が声を上げた。


「どうしても、だ。鰐淵わにぶちの奴がな、泣きながら俺にこう言ったんだ。『合コンに行けないくらいなら生きている意味なんて無い。頼むから俺を殺してくれ』ってな……。たしかにアイツはダメ人間かもしれないが、少し可哀想じゃねぇか」


「合コンに行けないくらいで死ぬなんて……。鰐淵くんって人は、そこまで合コンに命を賭けているのね……。お姉ちゃん少し……鰐淵くんが可哀想になってきちゃった……」


 健気なPの生き方にアヤ姉がうるりときている。なんやかんやで、やっと許可が下りそうな雰囲気だ。


「それじゃあ、アヤ姉。合コンに行ってもいいんだな?」

「合コン。ダメ。ゼッタイ」


(なるほど。……よしっ! もう説得は諦めよう!!)

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