第22話 弥生は絶対に許可してくれないみたい……。
「聞いて驚け!
友人Pの言葉に俺は凄まじい衝撃を受けていた。椅子に座っているのに腰を抜かすかと思ったほどだ。
「ご、合コン!? お前が!? いったい、いくら金を積んだんだよ!?」
「金なんて積んでねーよ テメーは失礼極まりねぇなぁ。まぁ、いい。今は機嫌が良いから許してやるよ〜」
Pのこの余裕……。信じがたいことだが、本当に合コンを取り付けたみたいだ。
「いや、まさかお前がなぁ。で、相手はどんな人たちなんだよ?」
「……女子大生」
「……えっ?」
今、Pの口から有り得ない単語が飛び出したような気がする……。そんな、まさかっ!
「そうなんです……。な、なんと相手は女・子・大・生なんです!」
「う、嘘だろ? 凄ぇ。奇跡ってあるんだな」
「奇跡〜? ハっ! 違う違う。奇跡じゃなくて必然。これが俺様の実力なんだよ〜」
不思議なもんで、ここまで自信満々だと本当にコイツが凄い奴に見えてくる。
まぁ、実際、高校生が女子大生と合コンの約束を取り付けるなんて至難の技なわけで、それを成し遂げたPは凄い奴に違いない。俺ごときでは、女子大生と知り合いになる方法すら想像できん。
「凄ぇな。で、いったい、どんな違法取引したんだよ?」
「違法取引って……。テメーは俺を何だと思ってんだよ? まぁ、いいや。俺たちが一年の時の先輩はな、今は大学生なんだよ。例えば、部活の先輩とかな。あとはチョロいもんよ。ちょいと土下座……。いや、誘ったら案外簡単にいけちまったな!」
(コイツ、合コンのために土下座までして……っ)
「なるほどな。てことは、相手は女バスの先輩か?」
頼み込んだのが部活の先輩だとすると、おそらく合コンの相手は俺も知っている人物だ。何たって俺とコイツは同じバスケ部だから。
大方、交流のあった女子バスケ部の先輩に土下座したんだろう。
「エグザクトリー! でっ! 相談なんだが、実は、生意気にも相手が条件つけやがってさ。幸村も連れて来いって」
「え? 俺?」
「テメー以外のどこに幸村がいるんだよ!」
幸村なんて名前の奴、全国津々浦々に沢山いるだろうが、ともかく、相手は俺をご指名らしい。
「つまり、俺も合コンに行かなきゃいけないのか?」
「そういうこった。お前が来なきゃ嫌だって相手は言ってんだからな。お前を連れてこい、だなんて意味わからんが、まぁ、大船に乗ったつもりで俺についてこいや」
「んー。俺は——」
「お断りします」
Pが来たあと、黙って前を向いていた弥生が俺の返事を遮って急に声を上げた。
一瞬だけ「えっ?」といった感じで俺たちの動きが止まる。
「いや、あのですね。射干さんには聞いていないと申しますか。僕は今、幸村くんを誘っているのであって……」
「ですから、お断りします。合コンというのは、男女が
弥生がPを冷たい瞳で突き刺している。完全に風紀を守る者の顔だ。
まぁ、実際に弥生は風紀委員だから仕方がない。
「如何わしいなんて滅相もない。ただの交流ですよ、交流〜。ちょっとお茶したり、カラオケ行ってみたり、不純なことなんて何にもないっすよ〜?」
「それでもダメです。許しません」
よく考えたら、潔癖、なお且つ、風紀委員の弥生が合コンの参加なんて許すわけがない。
……まぁ、なぜか王様ゲームは認めていたけど、しっかりと自分が監視できるのなら許可するってことなんだろう。
「でも、ですね。射干さん」
大事な大事な合コンとあって必死に食い下がるP。
「許しません。絶対に、何があろうとも、この私が」
それでも、決して引かぬ弥生。
「あ……あの……。そうっすか……。そうっすよね。すいませんっした」
(あっ、Pが諦めた……。もう少し粘るかと思ったが案外、心が折れるの早いな。さすがはヘタレ)
「弥生。そんなに怖い顔すんなって。俺は行かないから。というか、最初から合コンなんて行くつもりもないし」
嘘じゃない。本当に最初から行くつもりなんてない。弥生が何も言わなくても「俺はやめておく」と断るつもりだった。
興味がないと言えば嘘になるが、合コンする相手のことを考えれば俺は行くべきではないんだ。
せっかく合コンを開いたのに、体臭のキツイ奴が来たら誰だって嫌に決まっている。
「そうでしたか。出過ぎたマネをしてしまったみたいですね。ユキさんも男の子ですから、てっきり合コンに興味があると思ってしまいまして……。すいませんでした」
弥生はそう謝罪しているが、謝っているわりには、なぜだか表情は少し嬉しそうだ。
「まぁ、謝るなって。それが弥生の仕事なんだから。何たって弥生は風紀委員だもんな!」
「別にそういうことでもないんですが……。いや、もう、そういうことでいいです……」
こうして、俺の初めての合コンはお流れになるはずだったのだが……。
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