第18話 ズルは良くないことですが……。

 俺が気になっていること。それは弥生の最終ゲームでの立ち振る舞いだ。


「なんかさ。さっき王様の棒がどれかわかってたみたいに見えたんだけど。なんなら俺の棒もわかってたみたいな。俺の気のせいか?」

「ああ、それですか。わかってましたよ?」


 あっけらかんと言ってのけた弥生に唖然としてしまう。


(そんな、まさか……。あのマジメな弥生がズルしてたなんて。コイツら三姉妹ならまだしも!)


「ち、違います! 違いますよ! 私が細工していたわけではないんです!」


 俺の心理的ショックを察したのか、弥生が珍しく慌てている。

 一方、俺の視界の端で、なぜかエリカが「細工」という単語にビクリと反応していた。


「実はですね。ゲームが始まる前に全ての棒を検分したのですが、その時に微細な汚れや傷を記憶してしまいまして……。でも、ワザとではないんです。……すいませんでした」


 棒の汚れまで記憶してしまうとは、流石は学校一の秀才と噂される弥生だ……。一度、俺と脳みそを取り替えていただきたい。


「そうだったのか……。でも、ワザとじゃないなら仕方ないな。結局、最後以外は王様になってないわけだし、まぁ、その命令だって自分勝手なもんでもないしな」


 たぶん弥生はズルをするのが嫌だったんだろう。だから、全員が王様を経験してから自分も王様になった。

 別に怒られるようなことをしちゃいない。弥生はな……。


「で、エリカ。細工って単語に反応してたが、お前、なんかやってだろ?」

「なっ! なに言ってんのよ、ユキ〜。私が細工なんて卑怯なことするわけないじゃな〜い」


 この感じ……完全に、やましいところがある時のエリカだ。


(コイツ、何かやってやがったな……)


「弥生。さっき検分したって言ってたよな?」

「ええ、まぁ」

「おかしなところはなかったか?」

「え〜とですねぇ。それは……」


 弥生が口を濁す。誰がを庇っているんだろう。


「弥生。正直に教えてくれ」


 そう言って、じっと弥生の目を見つめてみれば、彼女は観念したように溜息ためいきを一つ吐いた。


「……その……いくつか目印のようなものが見られました。念のため消しはしましたが、雰囲気としては三人とも細工をしていたような気がします」

「おい、三人とも。どういうことかな?」


 三姉妹の様子を伺えば、一律に下を向いている。まるでイタズラを咎められた小学生のみたいだ。


(こりゃ完全にクロだな)


「……まったく」

「ち、違うのっ。ユキにぃ! ヒナはユキにぃに良いことしてあげようと思っただけなのっ」


 何が良いことだ? 頬に接吻させようとしてたくせにっ。セクハラだ、セクハラ!


「そうよ! お姉ちゃんはユキくんを楽しませようと思っただけで!」


 楽しませる? 無理やり乳を揉ませようとしてただろうがっ。ハラスメントの極みじゃねぇかっ!


「お、怒らないで! 全部ユキのためなの!」


 俺のため? …………いや、よく考えたら、エリカは別に大したこと命令してないな。普通にマッサージさせられただけだ。


(だが、しかし! 不正は許さん!)


「お前たちなぁ。善意だからって——」

「「「ごめんなさい!」」」


 説教してやろうと思ったのに潔く頭を下げられてしまった……。こうなると、なんとも叱りずらい。


(結局、未遂に終わったわけだし、頭を下げている相手にガミガミと叱りつけるのも何だかカッコが悪い。……というか、もう面倒臭い。細工の件は赦してやるか)


「わかったよ。そんなに大声出すな。でも、次は赦さないからな?」

「ユキ〜」

「ユキく〜ん」

「ユキにぃ〜」


 三者三様の呼び名を口にして、三人揃って俺にヒシと抱きついてくる。


「おいっ。やめろって。人が見てるだろ」


 弥生ともども三姉妹に揉みくちゃにされる俺を通行人が怪訝な目で見ていた。

 そんな中、耳に聞こえるか、聞こえないかくらいの小さな弥生の呟き。


「わかってはいましたが、これは中々大変そうですね……」

「わかってくれるか? 毎日、俺は大変なんだよ」

「いえ、大変なのは私です。……何でもないです。今のも忘れてください」


 そう言って弥生は下を向く。

 たしかに弥生も三姉妹協定ってやつに参加しちまったから大変は大変かもなぁ……。でも、それが弥生自身の望んだことだ。


「頑張れよ、弥生」

「ユキさんに応援されるのも、おかしな話なんですけどね……」

「……あ〜、まぁ、そりゃそうか。うちの三姉妹が迷惑かけるかもしれんが、これからもよろしくな」


 ……と、こんな感じで三姉妹協定に新たな参加者が加わった。


 弥生は自制心が強いし、彼女がいれば、三姉妹たちの行動も少しはマトモになるってもんだろう。


 ……などと、この時の俺は大きな勘違いをしていたのであった。


*********************


 次回

「私のお部屋の前で泣かないでください」


*********************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る