お手本

「やった~ボス部屋についたー!!!」


「や、やったね凛ちゃん。杏樹ちゃん」


「ん。やったね二人とも」


 あれから、途中で出てきたオークを蹴散らしながら三人は進んでいき、ボス部屋までたどり着いた。

 ボス部屋の扉は開いてるし、この階層にも人影も気配もないから、ここには誰もいないことがわかった。

 それにしても凄かったな。


 途中からレベルが上がった時にもらったBPとSPを振り分けたのか、今では三人とも一気に強くなって、オーク相手にかなり余裕を持って倒せるようになっている。


 杏樹が持っている短剣を使った高速移動からの奇襲は、オークが反応する前に首を切り裂いていたし、莉奈の攻撃もメイスをフルスイングするだけでかなりの威力になっていた。

 凛も片手剣で攻撃していたが、急所狙いで攻撃していたからか、どんどんオークの体に傷をつけていて、結構なダメージを与えられていたと思う。


 そんなこんなで、あっという間にボス部屋の前まで来たわけだが--


「まあ、ボスには挑戦はさせないんだけどな」


「あ、天宮さん」


「あまみーだ」


「えっと天宮さんそれはどういうことですか?」


【隠密】スキルを解除して三人の前に姿を表したけど、三人とも驚くことなく俺を見てくる。


 ……驚かせられなくてちょっと残念。


「まあ、単純にレベルが足りないな。今のままじゃまだ無理だ」


「そうなんだ……」


「そうなんですね……」


「……」


 三人はかなり落ち込んでいる様子で、肩を落としている。

 もしかしたらボスに挑戦できると思ってワクワクしてたんだろうなぁ……


「それじゃあどうする?地上に帰るか?それとも戻ってまたオークを狩るか?」


 俺がそう聞くと、三人はお互いの顔を見て相談し始める。

 しばらく、凛が代表して答えてくれた。


「天宮さん!提案があります!」


「なんだ?」


 提案がなにかを話そうとする前に、後ろから莉奈の声がかかる。


「せっかくここまできたのにもう帰っちゃうのは嫌です……」


「うん。私も帰りたくない。折角だからもっと戦いたい」


「だけど私達じゃレベルが足りません!だから!」


 ……だから?


「せめて戦ってる姿を見せてほしいので天宮さんが戦ってるところを見せてください!」


 ふむ。確かにここまで来てなにもなしっていうのはもったいないな。


 だけど俺が戦ってるところか……

 今の俺のレベルとステータスを考えると、多分瞬殺だし、見せてもなにも参考にならなそうなんだよな。


「それは別に良いんだけど、良いのか?多分参考にもならないと思うぞ」


「はい!大丈夫です!」


「お、お願いします」


「私も見たい……かも」


「……分かった。そこまで言うならやってみるか!」


 三人がこう言ってることだし、少し戦ってみるのもいいか。


 俺のステータスを考えたら本当にただ見るだけになるかもしれないけど。


 まあ、出きる限りハイオークの動きを見せられるようにしよう。

 そうなると戦うのは龍樹の弓じゃなくて疾走の短剣か。

 龍樹の弓だと手加減できないし一撃で倒しちゃうだろうからな。



「ただし、俺より前には絶対に出ないでくれよ」


「「はい!」」


「りょーかい」


 それから俺は三人にボス部屋から離れるように指示してから、疾走の短剣を構えながらボス部屋に足を踏み入れる。


 一番後ろの莉奈がボス部屋に入ると、いつもと同じように後ろから扉の閉まる音が聞こえてくる。

 そして、ボス部屋の中を確認するとそこには、以前と同じように中央にハイオークが棍棒を持って待ち構えていた。


「ブモォオオオ!!!!」


 ハイオークはこちらの姿を見つけるなり雄叫びをあげて、すぐにこっちに向かってくる。


「速い!」


「わぁ!?」


「すごい迫力」


 三人は驚き声を上げつつ、俺の後ろから動かないでくれている。


 そして、立ち位置を確認している間にハイオークは棍棒を振り上げて突進してきた。


「ブモオ!!」


 振り下ろされてきた棍棒を、俺は疾走の短剣の峰で受け流す。


 ……正直、今の一連のやり取りでやっぱり俺が本気でやったら瞬殺だなって確信した。


 だけどちょうど良い。武器を持った相手に疾走の短剣で戦うのは初めてだ。

 凛達に戦いを見せるのと、俺の特訓を兼ねて、ハイオークを倒すとしよう。


「まあ、俺が攻撃を受けるだけになっちゃうのはしょうがないか!」


「ブモァ!」


 とりあえず、まずはハイオークの動きをちゃんと見よう。


 動き出しとか、攻撃方法なんかをしっかりと把握しないとな。






 それから、何度かハイオークの攻撃を受けてみたが、どれも大したことなかった。


 棍棒を力任せに振りおろし、横に薙ぎ払い、その巨体からの体当たり。


 まあ、この程度なら今の俺のステータスなら余裕で対処できた。


 そして、ここまでハイオークを手玉に取ってる時点で、成長を実感できる。

 だけどここまでで良いだろ。


 凛達もハイオークの動きを見るのはこれで充分のはずだ。


 ということで……


「とどめ!」


「ブモッ……」


 最後に、棍棒を振り下ろしてきたタイミングで疾走の短剣を使ってハイオークの首を切り飛ばして戦闘を終わりにする。


 すると、ハイオークは膝から崩れ落ちて地面に倒れ伏す。

 それを確認してから凛達の方を見ると、ポカーンとした呆けたような顔をしていた。


「これで終わりだけど、どうだ?参考になったか?」


 俺がそう聞くと、三人はハッとした後に、凛が最初に口を開いた。


「えっと、えっとえっとえっと。凄かったです!あの一瞬でハイオークを倒せるなんて!それにあんなに速く動いてたのによく体がブレませんでしたね!こうビュン!って近づいてズバッ!みたいな感じでした!」


「あ、天宮さん、とてもカッコ良かったです」


「うん。短剣の扱いも、とてもためになった」


 そして始まるのは怒涛の感想タイム。

 こんな風に褒められた経験がないから正直ちょっと照れる……


「そ、そうか。それはよかった。それじゃあ改めて聞くけど次はどうする?」


 俺がそう質問すると、三人は顔を見合わせて頷く。


 そして代表して莉奈が答えてくれた。


「またオークを倒しに行きましょう!今の戦いを見たらあたしも戦いたくなっちゃいました!」


「わ、私も凛ちゃんに賛成です」


「私も。早く行きたい」


「よしっ!じゃあ行くか!」


【アイテムボックス】にハイオークを入れてから三人と一緒にボス部屋を出る。


「あれ?誰かいますよ?」


 凛の声を聞いて前を見てみると、そこには二人の男性がいた。


 一人はいわゆるソードオフ・ショトガンというやつだろうか。

 銃身が短くなったショットガンを持っているガタイのいい男。


 もう1人は、スナイパーライフルのようなものを持った細身の男。

 2人とも、全身黒ずくめで、黒いマスクを着けていて、正直かなり怪しい。


「……どうも」


「……」


 一人は俺達に軽く頭を下げ、もう一人も続けて下げる。


 一応挨拶されたからにはこっちからも返さないとな。

 まあ、暗黙の了解ってやつだ。


「どうも、お待たせしました。自分達はボス討伐したので、次どうぞ」


 俺がそういうと二人は立ち上がってボスが再出現するために、閉まっている扉の前に移動していく。


「……天宮さん、さっきのは?」


「ああ、あれはボス討伐の順番待ちだよ。俺たちがハイオークに挑戦してたから、待ってくれていたんだ」


 正直今でも服装は怪しいとは思ってるけど、少なくとも今は最低限のマナーは守ってるし、問題ないだろう。


「そうじゃあ俺達は失礼しますね」


 こういうのはすぐに離れるに限る。


 ただ単にコミュニケーションが苦手な人って可能性もあるからな。


 そんなわけで俺達は、ボス部屋のある階層から移動してオークを探すためにダンジョンを歩くのだった。

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