戦闘終了

「やった……やったー!勝ちましたよ!お兄さん!」


「おお、そうだな。リーシェもよく頑張ったな」


「はい!」


 白いイビルトレントを倒して、リーシェとハイタッチをして喜ぶ。

 この子も同じような頃の俺なんかよりずっと強いんだろうけど、今回は運が悪かった。


 普通のイビルトレントならあの魔法なら倒せそうな威力はあったしな。


「ふぅ……お兄さん、ありがとうございました」


「ああ、気にするなって。それより、怪我とかしてないか?」


「はい、大丈夫です。お兄さんが守っていてくれたので」


「そっか、よかった」


 俺が守ったおかげって言うけど、それでもあの白いイビルトレント相手に立ち向かっただけでもリーシェは凄いと思う。


「それじゃあ♪少しアクシデントはあったけど、イビルトレントの討伐成功です♪良かったらチャンネル登録と高評価よろしくね♪」


 俺が感心していると、リーシェはその間に頭に着けていたカメラを自分の方に向けて話し始める。


 なんか、すっかり忘れていたが、そういえばそういう設定だったっけ。

 あの諦めなかった姿を見たら違和感がすごいけど。


「……ふぅ……疲れた」


 リーシェの撮影が終わった後、リーシェはその場に座り込む。

 俺はそんなリーシェに近づいて、【アイテムボックス】から取り出した水の入ったペットボトルを渡す。


「ほれ、飲んどけ。結構動いて汗かいてるだろ?」


「あ、ありがとうございます。えっと、お金……」


「いいよ別に。これぐらいはサービスだ」


 そう言ってリーシェにペットボトルを投げ渡す。


「すいません、お言葉に甘えさせていただきます」


 リーシェは俺に礼を言ったあと、水を飲んで一息つく。


 俺もそれを見たあとに【アイテムボックス】からもう一本、水の入ったペットボトルを取り出して口に含む。


 ふぅ……やっぱり運動したあとの水はうまいな。


「ぷはぁ……生き返りました。それにしても、お兄さんって強かったんですね」


「ん?ああ、まあそれなりにな」


 あんまり、というか絶対に強さの秘訣は言えないんだけど、それなりというのは嘘はついてない。

 実際俺のレベルなんてトップクラスの探索者に比べたら全然だし。


「それにしてもさっきのはすごかったですね!あの矢を作るやつ。今まで見たことなかったんですけどお兄さんのユニークスキルですか!?」


「ああ、うん。まあそんな感じだ」


 俺の事なんて案内人なんて呼ばれてた事もあって調べればすぐにわかるだろうし、正直隠す必要もないだろ。


 あまりばれたくないって言ってもそれはユニークスキルを二つ持っていること。

 それなら【魔法矢】だけなら動画に残ってても問題ない。


「へぇ〜、どんな能力なんでしょう?」


「ま、内緒。ほら、それよりイビルトレントの素材回収しようぜ」


「むう……わかりました。後で教えてくださいね」


「気が向いたらな」


 ふふふふふ……気が向いたらとはいったけど教えるとはいってない。


 そんなことをいいながら頬を膨らませているリーシェと一緒に白いイビルトレントに近づく。


 さっきまで遠距離攻撃や根っこを迎撃することでしか白いイビルトレントとは戦わなかったけど、今近づいてみたらその大きさがよくわかる。


「は~おっきいですね。こんなに大きな木は初めて見ましたよ。さすがボスモンスターといったところでしょうか」


「確かに大きいな。普通のイビルトレントは7メートルぐらいだったけどこいつは10メートルぐらいはありそうだ」


 白いイビルトレントの大きさは10メートルほどあるように見える。

 これは発達した強靭な腕も相まってかなりでかいな。


「それじゃあさっそく魔石取っちゃいましょう!」


「おう。だけど、その前に……リーシェ、そいつに素手で触れてみな」


「え?はい……」


 不思議そうな顔をしながらもリーシェは俺のいった通りに白いイビルトレントに触れる。


 すると--


「きゃあ!?」


 白いイビルトレントにリーシェが触れた瞬間、リーシェの触れた場所から光だし、視界を真っ白に染める。


 これは白いコボルトの時に体験してるから知っていた俺は驚かなかったけど、リーシェは驚いたらしくかわいい悲鳴をあげていた。


 そして光が収まると、イビルトレントの死骸に一本の木製の杖が立て掛けてあった。


「これは……?」


「聞いたことないか?突然変異モンスターを倒した時にもらえるアイテムだよ。ほら、この腕輪も突然変異モンスターのコボルトを倒した時のやつだよ」


 呆然と杖を見ているリーシェに魔犬の腕輪を見せながら説明する。


 まあ、突然変異モンスターは何が出るか出現数が少なくてちゃんとわかってなかったから完全ランダムだったけど、出てきたのは杖か。

 それじゃあ……


「リーシェ、この杖いる?」


「ふぇっ!?そ、それはどういう!?」


「いや、出てきたのは杖だし俺は使わないから魔法を使うリーシェはどうかなって思って」


「でも、これお兄さんが倒したんですよね!?ならお兄さんのものでは……」


 リーシェはもじもじしながら遠慮がちに言う。


「いや、俺は杖は使わないから必要ないんだよ。だからリーシェにあげるよ」


「いや、でも……」


 それでもまだ遠慮しているのか、なかなか受け取ろうとしない。


「いいよ別に気にしなくて」


「いえ!そういうわけにはいきません!」


 ……なんだか意外と頑固みたいだ。


 う~ん……どうしたら受け取ってくれるかなぁ。

 ……あ。


「オッケーわかった。受け取れないって言うんだったら無理に押し付けるのはなしだ。ならこうしよう」


「なんですか?」


「こうしてパーティーとして戦ったからには戦利品の分配は必要だよな?」


「えっと、そうなんですかね……?」


「そうなんです。それじゃあ杖はリーシェにあげるよ。その代わり、俺の取り分はこのイビルトレントでいいか?」


 俺の提案を聞いて、リーシェは少し考えたあと、首を縦に振った。


 よし。これで無事に解決したな。


 ……正直杖は本当に要らなかったし、突然変異ボスモンスターのイビルトレントはもらっても無駄にならないし。

 てか、龍樹の弓をもらったお礼として誠三さんに渡そう。

 突然変異ボスモンスターは結構珍しいだろうしいらないとは言われないはずだ。


「ありがとうございます!大事に使わせてもらいます!」


 嬉しそうな顔をしながら杖を抱えて笑うリーシェを見て俺も思わず笑みを浮かべる。


 そして、俺は同時に【アイテムボックス】に白いイビルトレントを入れる。

 ……上げてて良かった~【アイテムボックス】のスキルレベル。


 感覚的にスキルレベルを上げてなかったら入りきってなかったぞこれ?


「さてと、それじゃあ解散でいいかな?」


「はい、わたしは大丈夫です。そんなもう一度挑戦できるMPもないですしね」


 リーシェの言葉に苦笑いする。

 確かにあれだけ魔法を使ってたし途中でMP切れてたもんな。


 俺もボス部屋に入る前まではリーシェに付き合ったらもう一回挑戦するかって考えてたけど、突然変異ボスモンスターとやりあったし満足かな。


「そっか。それじゃあ解散ってことでいいな?」


 いや~久しぶりにパーティーで戦ったし探索者の手伝いも久しぶりだったな。

 リーシェは初心者ってわけでもなかったけど、まあ変わらないでしょ。


「えっと……」


「うん?まだなにかあったりする?」


「あの……その……一緒にダンジョンから出てくれませんか?」


 ***


「くそくそくそくそおっ!!!」


 部屋の中、男がスマホを持ちながら突然大声をあげる。

 その男は魔犬のダンジョンの監視者で、現在謹慎中の男であった。


「何で俺がこんな目にあわなきゃならねえんだよっ!これも全部あの男が!あの男がいなければ!」


『うるさいぞこのバカ!これだけの処分で助かったと思え!』


 通話相手は同僚の探索者協会の職員。


 彼は今回の件について責任を取らされ、クビになりかけていたところを助けられた恩がある。

 しかし助けられたとはいえ、彼の怒りは収まらなかった。


「ふざけるんじゃねぇ!!あいつのせいで俺はクビになるところだったんだぞ!?」


『その事については同情するが、お前がやったことは犯罪行為だ。それに、いずればれていただろうしな。だから俺はちゃんと行っておけと忠告したんだぞ?』


 電話越しでもわかるほど呆れた様子の声を出す同僚。


 だが、彼からすればその言葉は逆効果だった。

 そして数秒後、絞り出すように同僚職員に対して言葉を返す。


「クソが……っ!」


『それで、これからどうするつもりだ?あの二人には連絡したし、こっちでも証拠は隠蔽しておくが……』


「……黙って引き下がれるわけねえだろ……!」


 そう言って再び怒鳴り散らす男。


 その後、数分にわたって口論が続き、ようやく落ち着いたところで会話は終了した。


 そして、落ち着くと思い浮かぶのは、ガキどもを助けたとか抜かしてやがったあの探索者。


「くそが!あの案内人なんて呼ばれてたあの探索者がDランクダンジョンの、しかも突然変異モンスターを倒せるわけないだろ!」


 そう叫ぶ男だったが、ふとあることに気づく。


「……そうだ。そもそもそこまでの強さじゃねぇんだ……!」


 ニヤリと口角を上げる。


「だったら話は簡単だ……!あいつを、あの男を消しちまえばいいんだ……!」


 クックッと笑い、まるで悪魔のような笑顔を浮かべた男は、ある場所に連絡を入れるのであった。

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