第41話 同族には同族をぶつけて相殺するとよい
聖なる剣を折った。
私の聖なる杖で。
うん、相殺相殺。全然あり得る話だよね。
「なんでお前の武器はぴんぴんしてて、俺の武器が壊れるんだよ！？ おかしいだろ！」
「それは」
年甲斐もなく喚き散らすアルス。
戸惑いながらも、一応彼の相手をする私。
出来れば誰かに代わって欲しい。
第一候補はアルスのお仲間さん。ほら、例えばカトりんとか。ああっ、目をそらされた！
「えっとー……神のご加護があったから？」
とりあえず真正面から返してみた。
嘘は言ってないからいいよね。
「知らねえよ、神なんて！！！」
まさかの全否定。
「つーか、俺がこの世界の神じゃないのかよ！？」
「えっ」
まさかの俺が神。
「俺が神のはずだろ！ なあ！」
「……いや」
私は怖くなって目を逸らした。
どうしよう。この人かなり重症だ。自分が神とか言い始めてる。絶対そんなのありえないのに……でも否定したらしたで面倒な事になりそうだ。どうしようかなぁ。
「俺は……！ 俺はっ……！」
「はいはいはい、ちょーっとこの男借りるわね」
「え？ ミレット……？」
暴走しているアルスの前にすたすたと平然な顔で歩み寄ったのは、彼の仲間たちではなくミレットだった。
見間違いかなって、焦った私は目を擦った。
でも、そこにいるのはミレットだった。
「や、止めた方が」
いくら移動魔法が使えるからって、今この人に近づくのはさすがにミレットでも危ないのでは？
「いーの、いーの。こういうのはね、同族が相手にすべきなの」
同族って。じゃあ私だって同族、人間なわけだけど。
不安気に見つめる私に対し彼女はひらひらと軽く手を振って、ミレットは彼の前に堂々と立ちふさがった。
「あなたアルスって言ったわね」
「な、なんだよ！ 悪いか！」
「ふーん」
ミレットは腕を組み、品定めするみたいに上から下までジロジロと見つめた。
それから鼻でふっと笑った。
「おいっ！」
「いかにも勇者にありそうな名前だわ。さしずめ、異世界転生してハーレム系主人公になっちゃったって感じかしらね」
「なっ！？」
ハーレム系主人公？ なんだそれ。
しかしミレットの言葉に効力はあるようで、アルスの顔色はみるみる青ざめた。
二、三歩よろめき、後退する。
警戒心剥き出しで彼は言った。
「おっ、お前は何者だ！？」
「あら、分からない？」
ミレットが冷たい瞳で彼を見下す。
正確に言えば、彼女の方が背が低いけれど、それでも態度だけ見れば明らかに彼女の方が彼を見下していた。
「知るかよ！」
「悪役令嬢に転生した女よ」
「うわっ！ 出た」
「ちょっと何その反応、失礼ね」
ミレットはぐいと彼の首襟を掴んで引き寄せた。
「いい？ 異世界転生者は貴方一人の特権じゃない。私だってそうなの」
「くっ……」
「しかもあなた、気付いてなかったと思うけど、この世界、転生したからといって、漫画や小説の世界みたいに必ず成功が掴めるとは限らないわよ。言い方を変えれば、主人公補正が効かない」
「は、効かない！？」
「だってこの世界の主人公は、間違いなく私達じゃないんだもの」
「ちょっと待てよ！」
アルスが頭を抱えて動揺した。
「じゃ、じゃあ誰だっていうんだよ？」
「あらやだ、決まってるじゃない」
ん？
ミレットと目が合った。なんだかすごく楽しそうだ。
「ノノアでしょ」
「？」
え、私？
いやいや、無い無い。
「っ」
「じゃ、そういう事で」
ポンとアルスの肩を叩く。
「私は勝ち馬に乗ることに決めたから。ありがたいことに、移動魔法なんて役に立つ能力を覚えてたし。あなたはアレかしら。無条件で女性に好かれる能力」
「……そうだよ」
「よかったじゃない。ノノアとさえ絡まなきゃ、きっとハーレム築けるわよ」
「そっちが勝手に絡んできたんだろ！」
「ああ、そうだったわね。ごめんなさい」
こうして二人の間で、何だかよく分からない決着はついたようだった。
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