鳥ミッサイル、女ロケットットットト

@kisaragi_usui907

第1話 僕らも友達になる

「野井くん、また彼女と通話してる」


「窓開けて、してるね」


「昔、ほんとに一時期だけだけど、野井くんのこと好きだったな」


「え、そんな簡単に冷めちゃうもん?」


「......そりゃあ、冷めるでしょ、まあ」



ここらで一番大きな夏祭りも終わり、中高生の青春の残り香を子供達が掻き消すような夏の日に、僕たち、一人と一羽は話をしている。



「ねえカナメ、今の話4回目だけど、彼女さんは何も言わないのかしらね」


「カコちゃんの愛が深いんだよ」


「カコさん、ね。あんたカコちゃんのこと何も知らないでしょ」


「可愛いんでしょ、知ってる知ってる」


「あんた会ったことないでしょ、でも、可愛いよ」

「昔はよく遊んだりして、楽しかったな」


「へー、まあそういうのっていつの間にか疎遠になったりするよね」


「......あんたが何を知ってんのよ」


「知ってるもんは知ってるよ」


____


野井がカコちゃんとの通話を終えて、僕たちの方を見ていた。

いや、僕は見てないか。


窓の先でセミや虫達が、なけなしの命をすり減らして鳴いている。

僕にとって彼らは餌だったはずなのに、随分前にそんな風には見えなくなった。


今ではもう、満足に飛ぶこともできない。



「はるかー、どうしよー!」


野井は今日も話しかけてきた。

こいつ窓開けてカコちゃんと通話した後、小恥ずかしいのか絶対はるかに話しかけてくるな。


相談形式で決定事項を聞かされるだけなのに、はるかは文字通り重い腰を上げることをやめない。



もしさっき聞いたように、はるかが野井のことを好きで、そうして野井もはるかのことが好きで、二人が付き合ったりなどしていたとしたら、今こうして二人は話していなかったのではないかと思う。


彼氏はおらず、自ら歩く力を失い、死がいずれ来るものではなくなったはるかと、カコちゃんという可愛い彼女がいて、絶賛反抗期中で、次のデートが泊まりになりそうなことを笑顔で報告している野井とでは、もう話など合うはずがない。



それでも二人は話をしている。


きっと、カコちゃんとはるかは今でも友達だ。


_________


はるかが野井との話を終えて、僕の方を見ている。


いや、僕を見ている。


僕は飛べなくて、はるかは歩けないけれど、それでも鳥と人では話も合わないだろう。

でも友達にはなれるはずだ。


「ねえはるか、なんかおもしろい話ある?」


全部吹っ切って、ぶっとんだ話を沢山しよう。










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