月と凶器が輝くときに

乙女サリイ

第1話 『雷鳴館』

ガタン。

僕は電車が揺れた際の振動で目を覚ます。

体の節々が痛い、長時間椅子に座っていたからか特に尻が痛い気がする。とりあえず体をほぐす為に腕を伸ばす、それに伴い背中もついでに伸ばす。そうすると体の血流が良くなった気がしなくとも無い、気持ち的には楽になった。

とりあえず何時か確認する為に時計を見た後、外を見る。


「眩し」


起きたばかりだからか外から入る太陽光がやけに眩しく思う。しかしそれにも慣れると徐々に景色は鮮明に見えてくる。

空は少し曇りだが天気自体は晴れている。見える限りの田畑には稲穂が植えており、それらは風に揺られてなんとも気持ち良さそうだ。

それらを見て時間を潰しているとアナウンスが僕の目的とする駅を告げる。それを聞いた僕は急いで準備をして扉の近くで待つ。


そして駅に着くとキキィーという音を上げて電車は止まる。完全に止まりきった後にようやく扉は開き、僕は荷物を持って駅へと降りる。

駅へと降り、改札を通って外に出る。そこは電車の中とは別世界であった。


「暑すぎ」


電車の中は冷房が効いており、非常に心地が良かったが一歩外へ出るとこうだ。

空を見上げると太陽が僕を照らしていてなんとも憎たらしい。

その暑さにすこしやられながら僕は近くのバス停でバスを待とう、そう考えていたのだが。


「つ、次のバスまで3時間?」


そんなに外にいたら死んでしまう。僕が絶望しながらどうしようかと考えていると目の前に軽トラックが止まり、中に居たお爺さんが窓を開けてこう言ってくれた。


「どうした坊主、この近くなら送っていってやれるが乗ってくか?」


僕はその甘言に抗える筈もなく。


「はい!」


元気一杯にそう答えた。僕がそう言うとニカッと笑みを浮かべ扉を開けてくれる。

僕が乗り込みシートベルトをつけると車はゆっくりと発進していく。

出てくる風は微弱ながらもやはりエアコンは素晴らしい、僕がそう思っているとそのお爺さんは前を向きながら質問をしてくる。


「坊主はどうしてここまで来たんだ?」


「この辺りに旅行に来たんです」


僕がそう言うとお爺さんは嬉しそうにして色々な事を話してくれた。


「この辺りは昔から水が豊富でな、そのおかげで米と野菜が美味しいんだ。坊主もここに来たんだ、絶対に食べてみてくれ。きっと好きになるさ」


そう言うお爺さんの顔は誇りに満ちており、僕も今からそれについて楽しみにしていた。

僕の目がキラキラしている事に気づいたお爺さんは嬉しそうに次について話してくれた。


「そういえば坊主はこの『雷渓村らいけいむら』の由来について知ってるか?」


そう言うお爺さんに対して僕は事前に調べておいた事を言う。


「確かこの辺りは山という事もあり雷が多く、しかも大きな渓谷の側に村が出来たので雷渓村と言うのではなかったですか?」


そう言うとそのお爺さんは惜しい!と言った後にその情報について補足をする。


「確かにそれは当たっているけど本当の由来は違うんだ。この村は元々来渓村と言ってな、生涯で一度は来たい!と言う人が続出した事からそう言われていた。雷渓村になったのはここ数十年の事だ」

「なんで呼ばれるようになったか坊主はわかるか?」


そう聞いてきたお爺さんに対して素直に分からないと答えると素直だなと苦笑し、その由来について話し始める。


「そう、それは今日のような強い日差しがした日だった。儂はいつものように畑の手伝いをしていたんだが突然村中に雷のような音が鳴り響いた。それは何度も鳴り響き、時間にして大体10分くらいだったか」

「突然その音は鳴り止み、儂はその音の鳴った方へと走って行った。するとだな、そこには血塗れになった見知った顔が沢山おった」

「叔父さんに叔母さん、隣の家のたえちゃんもおった。とにかく10人程の死体が転がっており、その中心には今でいうライフル銃を持った男がおってな」

「残念な事にその犯人は未だに捕まっていない、しかしその事件を忘れぬ為に昔のライフル銃の別称。そしてあの雷のような発砲音がその数日後も渓谷で鳴り響いた事によりこう名付けられた」


雷渓村と、そう言ったお爺さんは当時の事を思い出して辛いのか俯いた。しかしすぐに真っ直ぐに前を向き此方へ笑顔を向けて。


「まぁ、今となっちゃ関係ないさ。少し暗い話をしちまったな、少し急ぐか。そういえば聞くのを忘れていたが何処へ行くんだ?」


思い出したのかお爺さんはそう聞いてくる、それに対して僕はこう言う。


「はい『雷鳴館』までお願いします」


そういうとお爺さんは吃驚してこう言った。


「儂も今からそこに向かおうとしてたんだ」


それを聞き僕はプッと笑いが溢れそれに釣られてお爺さんも笑い。


「そんじゃまぁ急ぐか」


そう言ってお爺さんは速度を上げた。





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