黄昏の修繕師 ~青き旅人と奇蹟の魔女~

藤村時雨

0話  はじめまして、こんにちは

 今日、日常は裂かれた。


 活気が奪われ、代わりに森閑とした摩天楼都市を舞台に。

 近付いてくる地響き。舞い上がる濃霧は視界を曇らせて、真実のみを隠す。


 ───もうすぐ怪獣が来る。


 掻き分ける。何度も掻き分ける。逃げなければ。けれど、目の前に広がるハズの日常は見当たらない。行く手を阻む霧の深刻さが少女の覚悟を邪魔してくる。


 スマホを片手に。親友の恋塚アイリに連絡する暇はなかった。


 今はとにかく回り階段を駆け上がる。

 コンコンコンと軽い音を鳴らして、徐々に息が雑になると共に、現状を見据える願望の景色、ビルの屋上を目指す。


 常に不安は過る。


 手摺に触れた指先の感覚が曖昧になっていく。


 緊張のせいか、それともストレスの仕業なのか。躊躇を重ねる度に階段を踏み外す錯覚に陥る。何かを考えてないと視界がちらついて、必死に恐怖を誤魔化そうと作り笑顔の自分は、無鉄砲であり、心のどこかでは無理をしていた。


 辿り着いた仙崎未来は、残酷な現実を知っている。


 それは単なる驕りじゃない。


 地獄を覗いた訳でもなく、逆境を乗り越えた経験が知らせているのではない。


 ───事実が目の前にあるだけだ。


 白い吐息の先に訪れる視界の事象。光が屈折して、螺旋を描いて乱反射を遍く。色と色は重なり、浄玻璃の光沢は万華鏡模様の色彩を生み出す。

 けれども、ガラスみたいに壊れていく日常が神様の気紛れで仕組まれた運命だとすれば、綺麗だけが取り柄の世界に、偶然なんて存在しない。


 そんな奇妙な再会もまた。


 儚くて。脆くて。


 愛おしい『呪い』が込められているみたいに───。


「……久し振り。元気にしてた?」


「そうだね」


 少女達の出会いを歓迎するかのような、破滅をもたらす真実が嘲笑う。 


 贅沢な虚構劇を背後に。柔らかい言葉を送る人のシルエット。

 歯車が狂い始めた世界に降り立つのは白の少女だった。プラチナブロンドの長髪が靡いて、一見して翼を携えた天使に見間違えてしまうが、未来を見る瞳は悪魔のように冷たくて、懐かしそうに微笑む姿に未来は強気な笑顔を送り出す。


 恐怖を悴んだ拳に隠す。

 踏み出す勇敢な一歩は覚悟の証に変わって。


 弱音は吐かない。本音をぶつけるだけ。改めて心が正直だと伝える為に。


 少年少女が綴る人間讃歌の物語が。


 今、繰り返す。

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