〜ヴァン・ヘルシング教授の助手〜 Dr. Van Helsing's Assistant

スグル

まえがき、設定について

 この作品を書くことにあたって、先ず漫画及びアニメ――一つはOVAだが――の『HELLSING』と『吸血鬼すぐ死ぬ』に感謝を申し上げる。

 私に“吸血鬼とは何か”を教えてくれて、原典であるブラム・ストーカー作『吸血鬼ドラキュラ』を読もうと思わせてくれた作品だからである。

 原典を読んでいなかったら本作『ヴァン・ヘルシング教授の助手』は生まれなかっただろう。

 まえがきはこれくらいにして――。




 退治したはずの吸血鬼、ドラキュラ伯爵が蘇り、なんとヴァン・ヘルシング教授の前に現れた。

 伯爵の目的は“余を唯一追い詰めた男”に興味が湧き、会いに来た、とのこと。

 教授も教授で、伯爵が蘇ったことには驚きを隠せなかったが、不死者を研究している故に伯爵に興味があった。そして伯爵が提案してきた――。


 利害が一致した? 二人は、人間にも吸血鬼にも止めることは出来ない!?

 異色のコンビがここに爆誕っ!






原案:エイブラハム“ブラム”・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』



 ※この話はフィクションであり、実在する(した)人物、団体、建物などとの関係は一切ございません。

【ただ、ブラム・ストーカー氏は『吸血鬼ドラキュラ』の序文で――出版の際カットされてしまったが――「私は純粋なフィクションを書いたわけではない。ここに描かれた出来事が、一見どれほど信じがたく、不可解に思えようとも、実際に起きたのだということは少しも疑いがない。私は強くそう信じている(ナショジオ記事より引用)」と言及している。


『吸血鬼ドラキュラ』序文(私の手元の原文版には記されていない)

“How these papers have been placed in sequence will be made manifest in the reading of them. All needless matters have been eliminated, so that a history almost at variance with the possibilities of later-day belief may stand forth as simple fact. There is throughout no statement of past things wherein memory may err, for all the records chosen are exactly contemporary, given from the standpoints and within range of knowledge of those who made them.”


『これらの手記がどのように配置されているか、読んで頂ければ明らかになるだろう。

 この話は後の世の信条と食い違う可能性が起こる、際立った飾りのない事実かもしれないので、不要な事柄については全て削除した。

 これらは全てを通して、過去の記憶が間違っているかもしれないので、今その時点で記録している彼らの、立場と知識の範囲内で記録したものを選んで記したものである』


 私自身で訳してみましたが、ナショジオの記事のは一体誰が訳したのでしょう……?】


 そしてこのお話はブラム・ストーカー氏の『吸血鬼ドラキュラ』の二次創作になります(ドラキュラやヴァン・ヘルシングというキャラクターをお借りしているので!)。

 ストーカー氏の吸血鬼設定と少々異なるところがあります――首を切断され、心臓を刺された伯爵が蘇った。“夕餉”についてなど――が、悪しからず。

 ですが執筆者は『吸血鬼ドラキュラ(角川文庫)』並びにレ・ファニュ氏の『吸血鬼カーミラ(創元推理文庫)』を読書済みです。

 あれ? と思ったら3冊(原文版『Dracula』も含め)を引っ張り出して確認しております。誤訳についても調べております(水の流れを変える、流水の上を歩けるなど)。

 因みにHELLSINGや吸死も読んでおります。

 吸血鬼の設定についてはブラム・ストーカー氏の『吸血鬼ドラキュラ』を参考としております。なので、日光では塵になりません。時々、昼間でも起きています。

 “銀の弾丸”については、私の読んだ翻訳本では“聖なる弾丸”と訳されていました。最初は“銀製の弾丸”だと思いましたが……原典――ブラム・ストーカー作『吸血鬼ドラキュラ』――原文版では『a sacred bullet(直訳:聖なる弾丸)』とあったので、“祝福儀礼された弾丸”かもしれません……。

 原典で伯爵は銀の燭台を手に持っていたので、私は“聖なる弾丸”→“祝福儀礼された弾丸”と扱うことにします。なので銀製の武器も、ただのナイフも、伯爵には同じです【原典で伯爵は、ジョナサン・ハーカーのナイフで首を切断され、クインシー・モリスの猟刀で心臓を刺され塵になった】。

 後、伯爵の“夕餉”に関して“逃げ道”を作りました。じゃないと教授が出血性ショックで死ぬ……。

 『吸血鬼カーミラ』を読んだことがある方はご存じですよね?


 あと宗教観についてですが、教授はオランダ人ですのでプロテスタント(多分カルヴァン派)。伯爵(ヴラド三世)は生前正教会→カトリックに改宗した、ということを念頭に置いて執筆させていただきます。


 プロテスタントは聖書主義。聖母マリア、聖人信仰はない(詳細不明だが、聖書には書かれてないから)。万人司祭、『教職者』以外の信徒でも儀式を行える。教職者は男女ともになれるし、結婚OK。シンプルな教会、シンプルな十字架。偶像崇拝はしない。十字は切らない(形に囚われない祈りをするから。ただし、一部のプロテスタントは磔の十字架を信仰する。聖公会、ルター派など)。あからさまに十字架を持っていない。礼拝(聖餐:パンとワインを飲食する、説教)が年に一度くらい。信仰義認(神の恵みと信仰だけが救い。行いは含まれず、信仰心があれば誰でも救われる)。祈る時各々の母国語OK。煉獄(天国と地獄の間)は存在しない。


 カトリックは聖母マリア、聖人信仰する(イエスを産んだマリアはすごい人、的な)。法王頂点、『聖職者』のみが儀式を行える。男性のみが聖職者になれ、結婚NG。豪華な教会にロザリオ、磔の十字架(偶像崇拝)。十字を切る。ミサが毎日。神人協力説(信仰と行いが救い。罪を犯してもその後の行いが良ければ救われる)。ラテン語オンリー。煉獄は存在する。


 原典で教授が磔の十字架(ロザリオではなくネックレス。The crusifix)を出してきましたが、それは伯爵がカトリック信徒だったからかな? と思っております。原典でのルーシー・ウェステンラはどうだったのでしょう……。

 ブラム・ストーカー氏が聖公会(アイルランド聖公会、一応プロテスタント)を信仰していたこともあり、オランダ人であるヴァン・ヘルシングも聖公会みたいに磔の十字架【the little golden crucifix】のネックレスを持っていたり、パンではなくビスケットのようなホスチアを使ったと思われる。

 本来カルヴァン派はホスチア(パン)にとくにこだわりはないらしい。多分十字架もシンプルなものだと思われる。

 本作は、ホスチアについては、カルヴァン派はこだわりがないということなので、原典のままを採用し、十字架については表紙の通り、シンプルな十字架を採用する。

 因みに原典で教授は、“贖宥状”を持ち出してきたが、聖公会及びカルヴァン派、プロテスタントは認めていない(だからルターがカトリックを批判したのだ)。

 カルヴァン派は行いや信仰がどうあれ、“救われるか救われないかはもう決まっている(二重予定説)”、という教え。カトリックでは貯蓄は罪だがカルヴァン派では罪ではない。むしろ推奨され、天職を頑張って努めて貯蓄すべし、とのこと。うん、何か教授のイメージにぴったりだ。

 なので本作では、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授の信仰する宗教はカルヴァン派とする。




 



✔設定


 時代19世紀末

 『吸血鬼ドラキュラ』が発表されたのが1897年。

 ただ、原典でヴァン・ヘルシング教授が“原典第十四章、ジョン・セワード医師の日記、九月二十六日”でフランスの精神科医シャルコーについて、もう亡くなってしまっているが、と言っている。

 フランスの精神科医、ジャン=マルタン・シャルコーは1893年8月16日に亡くなっている。

→ヴァン・ヘルシング教授初登場が“原典第九章、医学博士、哲学博士、文学博士等、エイブラハム・ヴァン・ヘルシングからセワード医師への手紙、九月二日”であるため、原典を1893年とする。

 原典の最終章の付記にて7年後とあり、私は、原典の登場人物たちの手記や日記が書かれたのを1893年と捉えて、付記を1900年と扱うことにします。じゃないと教授が70代になっちゃう……。

 70代を超えたお爺ちゃんを“虐める”気は、私にはありません……。

 エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授のモデルとなったと言われているハンガリーのヴァーンべーリ・アールミン(アルミニウス)は1832年3月19日生まれで、1913年9月15日にお亡くなりになっており、享年81歳でした。

 ただ、教授のファーストネームや外見、性格は作者であるエイブラハム“ブラム”・ストーカーから来てると、私は思うのです。

【原典第十四章、ミナ・ハーカーの日記、その後より、ヴァン・ヘルシング教授の外見が詳細に書かれてある。簡単に言うと、しっかりとした体格に赤みのある髪、深い青色の瞳と――】

 因みにブラム・ストーカーは1847年11月8日生まれの、1912年4月20日にお亡くなりになり、享年64歳でした。




✔主な登場人物


・ヴァン・ヘルシング教授←本名エイブラハム・ヴァン・ヘルシング




 60代後半、初老(1832年11月8日生まれ。モデルとなったヴァーンべーリ・アールミンと、原典作者であるエイブラハム“ブラム”・ストーカーより)。

 オランダのアムステルダム在住。

 一人称:私、俺


 体格は年齢の割にしっかりしている(170センチぐらい?)、赤みがかった髪、深い青色の瞳、丸眼鏡。

 緑色のネクタイかリボンタイ。赤褐色のベスト、ベージュのスラックスに同色のフロックコート。茶色のフェドーラ帽子がいつもの服装。


 綺麗なお嬢さんに弱い? 時々口が滑ったり、口が悪くなる(オランダ人故に? ただの“正直”なだけ……)。だが情が深く、涙もろい。表情豊か。

 催眠術を使える【ミナ・ハーカーに催眠術を掛け、伯爵の動向を探った】。

 講演依頼や論文に追われ、ちょっと疲れ気味。

 大学の教授兼、医師をやってる。不死者について研究している。本業は精神医学の教授。

 妻や息子に先立たれた“男やもめ”。

 語学堪能(母国語:オランダ語。英語、ドイツ語、ルーマニア語、ハンガリー語が話せる)。

 大切な友人のためなら、命は惜しくない! 精神。

 医者であり、学者であるが、“伝承の中にも真実はある”、と考えている。それ故に時々、周りの人たちから“狂人”と言われることがある。

 時間に追われ、身の回りが疎か(部屋が汚い、料理せずに居酒屋で簡単に済まそうとする。オランダ人は食文化にあまり興味がないらしい)。

 ハンガリーのブダペスト大学に、『アルミニウス』という東洋学者の友人がいる。因みにアルミニウスは伯爵の生前について調べてくれた人【実際ブラム・ストーカーはヴァーンベーリ・アールミンからルーマニアの吸血鬼伝説を聞き、『吸血鬼ドラキュラ』の構想を練った】。






・ドラキュラ伯爵←本名ヴラディスラウス・ドラクリヤ(ドラクレシュティ)【原典では『Dracula』とだけ。近年のドラキュラものではヴラド三世の名を名乗ったりしてるみたいですね】。




 460歳以上(1431年11月10日生まれ。モデルとなったヴラド三世より)。

 ハンガリー領(現ルーマニア)、トランシルヴァニア地方シギショアラ生まれ。城壁が所々崩れた古城(同国トランシルヴァニア地方のブラン城。ただし実際は同地方のポエナリ城がヴラド三世の持ち家だった)持ち。

 1476年12月、対オスマン帝国との戦いで殺され、首を本当の意味で取られた。享年45歳。

 一人称:余、俺、わし(老人に変身した時)、わたし(女に変身した時)


 細い体付きで高身長(200センチ以上?)、青白い肌、尖った耳、血のように真っ赤な唇と、燃え盛るような真っ赤な炎の瞳。象牙のように真っ白な犬歯。黒髪、黒い口髭。首には切断された痕がある(スカーフで隠してる)。外見は中年の紳士。

 白いスカーフ。真っ黒なベストにスラックス。ベストの下にはY字のサスペンダー。同じく真っ黒なマントかロングフレアコート、時々フロックコートも。真っ黒なシルクハット。

 伯爵の身に付けるものはほぼ高級品。いつも仕立ててもらっている(自分の体格に合うものがないから)。実はお洒落好き。


 いくらばかりか天候を操り、犬、コウモリなど動物や霧、他人にも変身可能【原典ではジョナサン・ハーカーになりすまし、濡れ衣を着せようとした】。降霊術(ネクロマンシー)、催眠術を使える【狼や鼠、虫などの動物たちを操った】。動物の言葉を理解出来る。

 妻が2人(諸説あり。3人とも)と息子、娘もいた(ただし、恋人もおり、共に息子、娘がいた)、“今”では“男やもめ”。ただ17世紀初頭にドラクレシュティ家男系は滅亡している。

 語学堪能(母国語:ルーマニア語。英語、ドイツ語、ラテン語、その他が話せる。動物との意思疎通可能)。

 日光平気、昼間もフツーに動いてる(ドラキュラ以前の作品の吸血鬼は皆そうです)。怪力。手が氷のように冷たい。

 日の入りから日の出の時間内で天候操作、術、変身が可能【原典では日の入り、日の出、午前零時の3回のみ。日の入りから日の出というのは本作での設定です。悪しからず】。

 ニンニク(魔除けになる)、炎、十字架(生前信仰していたこともあり、罪の意識に苛まれるから)、野薔薇の枝、流れる水(海、川など。流れる水は絶えず清らかなものだから)は苦手。ただし沼や池の上はコウモリ姿で渡っていける。海、川は船があれば渡れるが、コウモリ姿で飛んでは渡れない。

 葉巻は吸わない、鏡に映らない、影がない。その家の家人に招かれないと、その家に入れない(一度入れてもらえれば後は自由に出入り出来る)。

 料理、片付け、掃除完璧(他人に対して。自分の部屋は……)。

 原典では吸血鬼になってからの生前の記憶が曖昧らしい。精神の一部が“子供”のまま(知性がなく自己中心的)。

 生前は素晴らしい武将で、一国の指導者であった。国を守らんと敵軍を圧倒した。

 実は律儀(招いた人間への食事などを怠らない)で、努力家(英語を独学で覚えた)で、実験好き(自身が持つ能力を色々と試している)。


→原典での退治から何らかの形で蘇り、精神が成長したのか、生前に近づいてきている。






 二人の性格や印象、外見は、私が原典を読んで感じたままを書いております。ただし、教授が眼鏡を掛けている、伯爵の本名や首の切断痕、服を仕立ててもらっている、二人の生年月日は二次創作設定です。






✔吸血鬼化について


 噛まれ、吸血されると→徐々に吸血鬼化し(歯が次第に尖り始め、昼間眠るようになる)、死後、吸血鬼になる。死ぬ前に噛んできた吸血鬼を滅ぼせば人間に戻れる。


 吸血鬼の血を飲まされると→その吸血鬼の下僕にされる。命令に従わざるを得なくなる。心や精神を読まれる。『吸血鬼の血の洗礼』の呪い。

 身が穢れ、神から見放される(十字架や聖餅(ホスチア)で火傷する)。ただし、その吸血鬼を滅ぼせば『吸血鬼の血の洗礼』の呪いから解放される。


※吸血鬼の、“心を読む能力”について。

 原典“第二十五章、ジョン・セワード医師の日記、十月二十八日”ヴァン・ヘルシング教授の言葉より抜粋。


“In the trance of three days ago the Count sent her his spirit to read her mind; or more like he took her to see him in his earth-box in the ship with water rushing, just as it go free at rise and set of sun.”

『3日前のトランス状態(伯爵の血を飲まされたミナ・ハーカーが)で伯爵は、彼女の心を読もうと自身の精神を送り込んだ。もしくは水上を急いで行く船の木箱の中で彼は、日の出と日没の時に自由になる彼女の精神を連れ去って、心を読んだのかもしれない』


※日の出と日没の時に自由になる、とは……。

 原典での吸血鬼の設定では、吸血鬼は日の入りと日の出、午前零時のみ、吸血鬼の能力を使えるというもの。なので、本来変身の能力もこの3回のみなのですが、本作では日の入りから日の出の夜の間とさせていただきます。ご了承ください。






 訳注については【】内に表記します。






 因みに、僭越ながらもしイメージソングをつけるなら、平原綾香さんの『シチリアーナ』で……(とくに2番)。

 あと、松任谷由実さんの『輪舞曲』もいいな……(『もう“神様しか”二人を“離せない”』から……)



キム・ニューマン氏の『ドラキュラ紀元』とは別ルートの、原典のその後のお話……。

 このお話を読んで、原典読みたくなって頂ければと思います……。



〜Dr. Van Helsing's Assistant〜


 お愉しみ下さい。

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