【短編】毒親に育てられた自尊心の低い女騎士ですが、任務で王太子の婚約候補のフリをすることになりました ~偽りの関係なのに本気で王太子に好かれてしまい、騎士団長の三人息子がヤキモチ妬いてます~

水狐舞楽(すいこ まいら)

第1話

「ねぇ、あの人が副団長らしいわよ」

「元冒険者の人でしょう? 平民が騎士団の役職に就くなんて、団長様とどれだけ関係が密なのでしょうね?」

「私たちと違ってろくな教育を受けずに大人になって、そんな卑しいのが高貴な役職など務まるはずもありませんわ!」

「「「オーホッホッホッ!」」」


 明らかに私への悪口だ。私に聞こえるように言っているとしか思えない。


 今、私は王城で毎週末行われる晩餐会ばんさんかいの警備をしている。私の後ろには名前しか聞いたことのなかった貴族の面々が集まっており、鼓動が頭に響くほど緊張している。

 

 何せ、今日が副騎士団長になってからの初仕事だからだ。


 貴婦人たちの言うことは間違ってはいない。私はもともとモンスターを狩る冒険者だった。貴婦人からすれば、そんなけがれ仕事をしていた私は卑しい存在であろう。

 

 正直、私に騎士団の副団長なんて務まるとは思っていない。騎士団にはすでに、団長の優秀な三人息子『ベーム三兄弟』がいる。その三人を上回る役職を名乗るほどの能力はない。


 やっぱり、元に戻してもらおうかな……。


 数時間の晩餐会中、私の頭の半分はそのことで埋め尽くされていた。






 私は、冒険者なら誰もが知っている弓の名門家、アーチャー家に生まれた。

 

 他のきょうだいと比べて弓の上達があまりにも遅く、両親からも家族からも冷遇されて育った。

 冒険者になってからも足を引っ張った私はパーティを追放され、そのことを知った父はアーチャー家からも追放した。そして私は冒険者をやめた。


 だが皮肉なことに、冒険者をやめたおかげで弓の才能が目覚め、今の騎士としての私がいる。それは分かっているが、さすがに副団長の役職は荷が重すぎる。過剰に評価されている気がしてならない。






 晩餐会が終わると、王城の外で夜警の騎士との引き継ぎをした。


「クリスタルちゃん、お疲れさま!」


 その相手は、ベーム三兄弟の三番目であるオズワルドだ。彼は第二遊撃隊の隊長でもあり、私に剣術を教えてくれた師匠でもある。

 月明りにその金髪とほほ笑みが映えてまぶしい。


「どう? 副団長 初のお仕事は」

「ただひたすらじっと集中しなければならないので、かなり疲れましたね」

「だよね~。僕もじっとしてるの苦手だからわかるよ~」


 そのとき、脳裏にさっきの声がよぎった。そんな卑しいのが高貴な役職など務まるはずもない――

 ううん、オズワルドさんに言ったところでどうにかなるわけじゃないし、あんなのに屈してるようじゃダメだ。強くいないと。


 あの悪口は心の奥に押しこんでおくことにした。無理に作った笑顔をオズワルドに見抜かれていないか、その表情からは読み取ることができなかった。

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