第三話 すいませ~ん!! 誰か居ませんか~!!
ちくしょう、どうやって察したかは知らないけど、俺の好物ばかりピンポイントで並べやがって……。ひとつくらい……、いや、やっぱりガマンだガマン。ある程度の収入が確保されるまで贅沢は敵だ!!
食料品を軽く見てただけで即座にお勧め商品に入れてくるあたり、このネットショップって怖い位に優秀だよな……。
とりあえずコンビニで買ってあったチャーシュー丼で奇妙な時間の晩飯を済ませて、少し薄暗い森を進んでいく。
当然こんな場所に土地勘なんて全然無いからどっちに進めば森の外に出れるのかは分からないが、進む際に木の枝を切り落とした上に鉈で幹にバツマークを刻んでいるから同じ場所をぐるぐる回る事は無い。
切り落とした枝や、切り開いた道に生えてた植物はアイテムボックスに収納した。こうすりゃ切り落とした枝とかが邪魔にならなくて済む。でも……これ根本的に。
「歩き辛い!! まあこんな格好じゃ仕方ないけど、溝の浅いただのスニーカーでこの森を進むのは無理がある」
枯れ葉を踏んだら滑るし、滑っても踏ん張りは効かない。というか仕事帰りでこんな事になってるからそもそも体力が……。
こういう場所に向いてるような靴を買えばいいんだろうけど、これ以上無駄遣いをしたらすぐに資金難に苦しむことになる。
水と食料をこの世界で安定して入手できるようになるまで、極力無駄な買い物は避けないと……。
「野生動物が心配なんでクマよけの鈴付けて歩いてるけど、これってまさか逆効果じゃないよな?」
この森に生息する野生動物が人との接触を恐れる場合は効果があるだろうけど、人を好んで襲う奴がいる場合は逆効果だな。その場合は餌がここにいますって教えてるようなものだ。
よく切れる鉈があるから、これで切りつけたらある程度は何とかなるだろうけど、武器としては少し心許ない。
そもそもこの森の中にどんな生き物がいるのかわからない以上、何を手にしていても絶対に安心って事は無いし……。
そんなことを考えながらも途中までは道を切り開きながら進まないといけなかった森に、突然ある程度開けた場所が姿を現した。陽当たりがいいためなのか、木に割と大き目の実もなってるし地面の雑草の生え方もすごいな。
使われなくなった道というより、これは木を伐採した後? にしては切り出した木が運び出されずにそのまま朽ちてる印象が……。
「倒木が多いな。しかもこっちのこの倒され方は誰かが伐採した感じじゃなさそうだし」
切り株というにはあまりにいびつなそれは綺麗な切り口ではなく、何か馬鹿でかい物になぎ倒されたというか、へし折られたというかなんとなくそんな感じに見える。
しかも結構な広範囲でなぎ倒されており、結構幅が広い道のようにも見えなくはない。歩くには倒木がじゃますぎるけど。
陽当たりの悪い場所にはコケも生してるし、キノコっぽいのが所々生えてる状況からかんがえればかなり前になぎ倒されてるっぽいな。
これだけ広ければ、オフロードバイクとかだったら楽にこの森を抜けられるだろうな。流石にそんな物を買う予算なんて持ち合わせていないが。
「あっちの切り株は本当に伐採した後? でもなんか違和感が」
ノコギリや斧で切り倒したにしては切り口がきれいすぎる。
まるでものすごく切れる何かでスパっと一瞬で切り倒したかのような……。ここが異世界だとすると、何か伐採用の魔法か何かが存在している可能性も捨てがたいけど。
「まあここで詮索していても何も解決しないしな。あ……一応この辺りのキノコだとか野草をアイテムボックスに収納しておくか。うまくいけば食えるかもしれないし……」
食えるかどうかがまず思い浮かぶ当たりいろいろあれだけどな……。っと。その前にアイテムボックスを開いて【新規】アイコンを選択。
新しいフォルダを作成して【収集物(森)】と名前を付けた。ついでに今まで切り落とした枝や引き抜いた草なんかは【燃えるかもしれないゴミ】というフォルダにまとめて送り込んでやった。その中にも名前が付いている植物もあるので、あとで使えそうなものは回収して有効活用させてもらうかな。
これでどこに何を入れているのかは分かるはず。
「シロヒラタケ・モリムキタケ・キズチチタケ・クロツキヨタケ……。森桃、森イチゴ、猫牙蔓の実……。モリヨモギ・モリドクダミ・山鈴草……」
収納ボックスに取り込んでいくと、取り込んだ植物なんかの名前が表示される。たまに雑草とか、???みたいなものも混ざってるけど。
アイテムボックスの機能には鑑定とかいろいろあるので詳しく調べたりできるんだろうけど、今は採集目的じゃなくてこの森から脱出するのが目的なのでほどほどにして後で詳しく調べればいい。
まあ、モリヨモギやモリドクダミなんかは根ごと引き抜いてアイテムボックスに収納したし、珍しそうな木の実なんかは手あたり次第に収穫したからその数は割と膨大だ。
森の恵みであるこれを食べる動物すらあまりいないのか、片手間にしては相当な量を集める事が出来たと思う。
◇◇◇
伐採した木の枝や邪魔な雑草を引き抜いてアイテムボックスに回収しながら薄暗い森を歩くこと既に六時間。腹は減りすぎて逆に今はどうでもいい状態だ。
脱水に気を付けてペットボトルに入った水を飲んでるからそのせいもあるのかもな。若干水腹だし……。
毎回アイテムボックスから出すのが面倒なったので、重いうえにぬるくなるのを覚悟でアリスパックに水のペットボトルを入れているが、アイテムボックスから出したばかりの水はキンキンに冷えていた。
まあ、そうでないとアイスとかの冷凍商品は扱えないよな……。そんな事を考えながらぬるくなったペットボトルの水をもう一口。あ~もう、今はどっちかといえば飲むよりも頭からこれをかぶりたい気分だぜ……。
腕時計の時間は元の世界の時間では朝の五時。
仕事帰りに一睡もせずに延々と歩き続けている訳だが、この世界だと今が何時なのかはさっぱりわからない。この世界が二十四時間で一日って決まってるわけじゃないし……。
しかし妙だな。この森全体に言える事だけど、何というか。
「野生動物の数が少ない……。見かけたのは鳥位? あまりに不自然に少ないんだけど、もしかしてここってどこかの島にある広大な森なのか?」
潮風は感じないが、その可能性は十分にある。
他にもいろいろ考えられるけど、今は疲労であまり考えがまとまらない。
安全な場所である程度寝たいところだ。
お……、森の切れ目が見えた!!
「よっしゃー! 森が切れた。やっと森から抜けたのか!! …………あそこに見えるのって、あれ、家か?」
延々と続く荒れ地の向こうに木造平屋建ての小屋っぽい物が見える。
太陽は傾いているもののまだ十分昼間だと思うんだが、家の周りに人影はない。
「人の気配を感じないな。畑仕事をしている可能性もあるが、周りがこのありさまだと……」
とりあえず、
ここで怪我なんてしたら命取りになりかねないし、焦ると碌な事が無いのは今までの人生で散々学んできた。
一応、ここで刈り取った草なんかもアイテムボックスに取り込んであるので、後で整理して役に立つものが混ざっていたら活用させてもらおう。
「草刈の仕事なんて、夏の日曜の定番とはいえやっぱりめんどいよな~。草刈り機があれば楽だけど、あんなものを買う金はないし……」
三時間かけて荒れ地を切り抜け、土が剥き出しになった轍のある場所に辿り着いた時には両腕はパンパンに張り、力尽きてその場に座り込んだくらいだ。
最近忙しくて運動らしい運動なんてしてなかったからな……。そうに違いない、俺はまだ若いんだからそこまで体力は落ちてない筈だ!!
とりあえず水を飲んで少し休み、重い足を引き摺りながら村へとたどり着いた。
「すいませ~ん!! 誰か居ませんか~!! ……返事はなしか。まあ、ここに辿り着くまで一度も人を見かけなかったし。やっぱり廃村なのかもしれないな」
ドアにカギがかかっていなかったので勝手に足を踏み入れたが数件ある家はすべてボロボロで、とても人が住んでいるとは思えないありさまだ。
この荒れ方だと一年や二年放置されたって感じじゃないな。
森から見た時は小屋と思っていたが平屋建てとはいえ結構大きめの家で、幾つも部屋があるが部屋の中に家具などは残されていない。
「全部の家を見て回ったけど家具類や死体なんかも無し、廃村理由が外敵による侵攻って線は消えたな。凶作が続いて食っていけなくなったのか? 森にも動物が全然いなかったし」
食料の収取困難が理由での廃村となると、ここに長期的に滞在すると確実に食糧問題が発生する。
一応食えそうな木の実なんかも結構な量で入手したが、それでも長期滞在となると不安しかない。
と……、その前に今はとりあえず寝たい!! そろそろ色々と限界だ。
「状況から考えて外部からの侵入は考えにくいけど、入り口に鍵を取りつけて少し寝るか」
眠い目をこすりながら購入したドアに取り付けるタイプの鍵と南京錠を購入。ついでに取り付ける為の道具箱と寝袋も……。
扉を破壊して入ってくる可能性もあるけど、何も無いよりましだしな。
全部で四千八百円したので、これで残り予算は二万三千二百円。
やばいな、残りの金も突っ込まないといけないかもしれない。
「目が覚めたら、自宅のベッドの上とかないかな……」
これが夢であってくれたら……。そう思いながら寝袋の中で眠りに落ちた……。
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