いつの間にか異世界にいたけど超絶性能なアイテムボックスがあるからなんとかいける気がする

朝倉牧師

第一章 異世界転移編

第一話 俺がいったい何したっていうんだよ……



「こんな訳の分からん現象に巻き込まれるほど、俺は日ごろの行いが悪かったかな? 俺がいったい何したっていうんだよ……」


 この奇妙な体験の転機というか起点は、アパートに辿り着いて設置された宅配ボックスに手を伸ばした瞬間だった事は間違いないだろう。


 どう考えてもあの瞬間だよな……、立ち眩みでも起こしたかと思った次の瞬間に視界が不自然に歪んで、気が付けば見た事のない森の中ときたもんだ……。


 情けない事に俺はといえば手を何もない空間に伸ばしたままの姿で、グギャーグギャーと森に響く不気味な鳴き声を聞いていた。……本当だったらこの位置に宅配ボックスがあったんだよ!! それより、鳥だよなあれ? 森の中の鳥にしちゃ全然癒やされねー鳴き声だな、おい。風情もなにもありゃしない。


 この辺りにいる鳴く鳥といえばキジバトか雉やヒヨドリくらいだと思ったが……。こんな近所迷惑な鳴き声の鳥もいたのか? まあ、ヒヨドリの鳴き声も割と迷惑だけども。


「それにしても、何処だよここ? 俺の住んでた所は確かに田舎だったけどさ」


 確かに俺の住んでる所は鹿、猪、雉なんかの野生動物は結構簡単に見かけるド田舎だ。だけどこんな森の広がる場所なんて……、確かに何か所か心当たりがあるけど松も杉も生えてない、夏にかぶと虫とかたくさんとれそうな見事な雑木林は記憶にないな。というかここって密林レベルだし。


 思い出せ。


 ここに至るまで何かおかしなことがあったはずだ……。


「俺の名前は鞍井門くらいど颯真そうま、二十七歳の割と普通の会社員。今日は朝から普通に仕事していつもの残業終えて、会社帰りにコンビニの弁当棚を物色して残りひとつだったチャーシュー丼や目についたいくつかの商品を買い込んだ……。よし、ここまでの記憶におかしなところはない、この記憶が誰かに植え付けられた偽の記憶でもない限りだけどな……、って。そうだよ、コンビニの袋!!」


 右手に持ってたよコンビニ袋。ドタバタして一瞬認識から消えてたんだな。


 あれだ、ネジ止め中にドライバー握ってドライバー探してる時とか、頭にかけてる眼鏡探してるネタ。あんな感じだよな、これって。いや、今はそれどうでもいいし。


「ちゃんとコンビニの袋はあるな……。中身も」


 チャーシュー丼と袋入り一キロのクラッシュ氷とペットボトルのお茶と紙コップ。


 男の一人暮らしだったので洗いものが面倒な時用に紙コップは常備していた。色々便利だし。


 他の持ち物といえば通勤用のカバンがある位か。普段は大したものは入ってないけど、流石に今日はこれが無いと困るところだった。


「よかったカバンも弁当も無事だ。特に弁当!! これが無いと今晩の晩飯が……。今晩?」


 周りを見渡すと遠くまでよく見える、森の中で少しだけ薄暗いとはいえ夕方とは思えない明るさだ。


 近くの草が少し濡れていたので、雨が降った後でなければ夜露に濡れてまだ乾いていないという事で今は朝方なのかもしれない。地面はそこまで濡れてないし、そう考えるのが自然かな。


 異世界転移ボーナス!! 何と仕事で疲れ切った身体でもう一日野外活動ができます!! ってか? 要らねえんだよ、そんなクソ迷惑なボーナスは……。


 仕事じゃないだけましだと思うが、この状況は下手すりゃ慣れた仕事するよりきつそうだ。


「そういえば、宅配ボックス!! 今日は注文してた。楽しみにしてたアレが届く筈だったんだ!! ……ん?」


【音声による入力を確認。アイテムボックスを起動して宅配ボックスを表示します】


 頭の中に機械的な女性のアナウンスが流れて、突然目の前にうっすらと輝く半透明の板のような物が現れた。なんだこれ? それに今の声もなんなんだ?!


 目の前の半透明な板にはアイテムボックスと表示されてるが、その左端の方に存在する枠に宅配ボックスと表示されているぞ。ご丁寧に【新着】マークまでついてやがるし……。


 【新着】と表示されているのでそれに手を触れようとしたら手に持っていたビニール袋が先に画面に触れ、【アイテムボックスに収納しました】と中央に文字が浮かび上がった。


「持っていたビニール袋が消えた? 宅配ボックスの他に収納ボックスって表示されてるな。もしかして……。お、ここに弁当とかが表示されてる。って!! なんだよこれ!!」


 一番大きなアイコンの収納ボックスに触れると【ビニール袋】・【新規】が表示され、更にビニール袋に触れると【全取り出し】・【選択取り出し】・【鑑定】・【調合】・【修復】などと表示された。


「取り出し系は分かるけど、鑑定とか調合ってどうよ。鑑定……」


 【チャーシュー丼。豚バラ肉製チャーシューがご飯の上に乗せられた丼物。食料】


「そのままかよ。取り出しを押したらどうなる……。ん? なんだこの半透明のチャーシュー丼は?」


 空中に半透明のチャーシュー丼が現れ、俺の視線に合わせて移動している。


 もしかしてこれ、出現場所を指定できるのか? そうだよな、このまま空中にこれを出したりしたら、当然真っ逆さまに勢いよく地面に落っこちて折角のチャ-シュー丼が台無しだし……。


「とりあえず掌の上に……。おおっ!! なるほど、こうやって取り出したり収納したりできるのか。いや~、便利な世の中に……、なる訳ないよな!! ホントにどこだよ此処~!!」


 森にどこだよここ~というむなしい声が響く。


 当然、誰も答えてくれるはずもない。


 さっきの頭に響いたアナウンスの様に、急にどこかの誰かに答えられると更に怖さが増すので、これ以上は考えないようにしよう。


「まあいい、愚痴っても何も解決しないし、これはもう一回収納してと……」


 腹は減っているけどとりあえず今は飯どころの話じゃないし、チャーシュー丼をアイテムボックスに収納して宅配ボックスのアイコンに触れる。


 そこには今日配達予定だったいくつかの商品が表示されていた。


「お、ラム酒のバ〇ルディが四本こっちに届いてる。近所の酒屋だとラム酒なんてあまり扱かってないからネットで買うしかないんだよな……。これだから田舎は」


 割と過疎化の進んでいた町だったので、近所にあるのは昔ながらの小さな酒屋。日本酒や焼酎が専門で日本酒などは割と品揃えがいい。


 他にもワインなどは扱っているが、ワインなんかは下手をするとコンビニの方が品揃えがいい位の規模でしかないから、ラム酒などをはじめとする洋酒は殆ど扱っておらず、割と安めのウィスキーなんかがごく少量置かれているだけだ。


 あまり酒を飲む方じゃないからそんなに困りはしなかったけどな。


「後は趣味で集めてる特撮系のおもちゃ関連が幾つかか、今これが手に入ってもそれどころじゃないんだけど……。今月は余裕があったから他にもいろいろ頼んでたけどまだ届いてないな。このアイテムボックスに届くんだったらいいんだけど」


 こういう商品は実際に手に取って買いたいところなんだけど、近くにおもちゃ屋なんてないんだよな……。


 車を使って隣町まで行けばおもちゃも扱ってる家電量販店はあるけど人気商品は争奪戦だし、買い逃したおもちゃなんかはこうしてネット通販に頼るしかない。


 ラム酒の表示は衝撃緩和剤で梱包されていない処か、箱無しの剥き出し状態で表示されている。


 過剰包装じゃなくて結構……って、商品だけ表示される仕様なのかな? 特撮系のおもちゃもなんだか箱無しな気が……。まあ、今はそれどころな状況じゃない。


「この一番大きな枠組みがアイテムボックスって事なのか? よく見たらアイコンぽい物が宅配ボックスとか収納ボックスとかいろいろあるな」


 大きな半透明の画面は細かく枠組みされていて、現在表示されているのは割と大きめな枠の【収納ボックス】・【宅配ボックス】・【販売サイト】、小さめな【現金系投入口】と【カード挿入口】。


 他にいくつも四角い枠組みがあるけど【準備中】と表示されている。


 準備中ってなんだよ?


「とりあえず販売サイトを見てみるか……。【寿買じゅかい】? ネットショップのか?」


 生活雑貨や食料品は言うに及ばず小物から特殊トイガンや特殊車両に至るまで、ありとあらゆるものを取り扱う日本最大最強のネット通販会社寿買じゅかい


 名の由来は当然富士の樹海で、あまりの品揃えに迷って抜け出せないというキャッチコピーで売り出していたが、方々から苦情が寄せられた為にサイト名を樹海から寿買へと変更した事で有名だ。


 各都道府県の居住区域に拠点を置き、更に色々な企業などに強力なコネを持ち、商品の確保が困難な状況においても他の追随を許さない品揃えを確保し、豊富な商品を迅速かつ確実に届ける事でも超有名。


 映像作品や音楽作品などをデジタルコンテンツで販売や視聴サービスを行っていたりもする。


「若干違和感を感じるけど、パッと見には寿買じゅかいはいつも使ってる殆どそのままだ。値段は……、まあいつも通りピンキリだよな」


 発売前から定価より高い商品も珍しくないし……。


 あ、あの商品もう予約販売が始まってる。


 こうやって欲しいもの探すだけでも時間があっという間に過ぎるよな……。ん?


「アレ? ナニコレ?」


 画面にもう一つポップアップの小窓が表示され、そこに利用規則って……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る