箸休め 生理の日の話
「うぅー・・・・・・」
仕事がオフの日、私はソファーに寝転がり、お腹をさすりながらうなり声を上げていた。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
床に寝転がりながら朝の特撮番組を見ていた成美が、こちらを振り向く。
人の家で寝転がりながらテレビを見るのはどうかと思うけれど・・・・・・。
「いや・・・・・・。多分『アレ』の日かも・・・・・・」
「あー、通称『レディースデイ』か。お前重いもんな」
そう。私は今、生理の日なのだ。
本当にこれが来るたびに、女に生まれたことが恨めしくなってくる。
『生理のポイント1 腹痛(実際は腹痛なんて言葉じゃ表せないほど痛い)』
『生理のポイント2 倦怠感・だるさ』
「アンタはいいよね~。症状軽いし」
「生理の症状は個人差あるしな。とりあえずゆっくり休んでろ。身の回りのことは私がやっておく」
「どうも」
成美はテレビを消し、洗面台へと向かった。
「わざわざ洗濯なんてやらなくてもいいのに・・・・・・」
部屋につるしてある物干し竿に、次々と洗濯物を干していく。
「別に。いつも世話になってるし、たまには恩返ししないと駄目だろ」
「それじゃあお言葉に甘えて。・・・・・・あ、ちょっとトイレ」
「おう」
ソファーから立ち上がり、トイレへと向かう。
「あー・・・・・・、頭痛が酷い・・・・・・」
「後で頭痛薬買ってくるから、それまで我慢してくれ」
「我慢ってアンタ。人が苦しんでるのに我慢しろとは酷すぎませんか? 最近の子供は冷たいなぁ~」
「お前も今時のガキだろ」
『生理のポイント3 頭痛』
「てかさっさと行けよ。漏らされても困るんだが」
「アンタは別に困らないでしょ。ここ私の家だし」
何か言っているような気もするが、漏れそうなので急いでトイレへと向かう。
「はぁ~・・・・・・」
「お疲れさん。長かったな」
「・・・・・・いつもの事ながら下痢でした・・・・・・」
「そういえば、下痢も生理時の症状の一つだからな。あまり知られてないと思うが」
『生理のポイント4 下痢(もしくは便秘)』
ふと時間が気になったので、テーブルに置いてあったスマホを手に取り、時刻を見る。
「12時半。もうお昼かぁ・・・・・・。成美、何か食べたいものある? 作るよ」
倦怠感のある体に鞭打ち、ふらふらになりながらも立ち上がる。
えーっと、何残ってたっけかな? 最近は仕事が忙しかったからレトルトとカップ麺だけだったからなぁ。
「いや休めよ!」
「大丈夫だよ」
とは言いつつもめまいがして、倒れそうになる。
とっさに成美が支えてくれた。
「無理するなって。な?」
成美が私をソファーに寝かせる。
「とりあえずおかゆでも作るか」
「アンタおかゆなんて作れるの?」
「最低限の調理は教育機関で教えられたはずだが?」
「何だろう・・・・・・。質問に質問で返すのやめてもらっていいですか?」
「よし帰る」
「ごめんって。じゃあお願いしようかな」
「私に任せろ!」
さてと、フユの奴は冷蔵庫にどんな食品があるのやら・・・・・・。
私は冷蔵庫の扉を開ける。
「な、何だこれ・・・・・・!?」
なんということでしょう・・・・・・! 冷蔵庫の中にあるのは、大量のショートケーキとエナジードリンクのみ。冷凍庫にあるのはハーゲ○ダッツのチョコレート味がぎっしりと。
そして野菜室には、何も入ってないではありませんか・・・・・・!
「オイゴラァ!」
流石に私はフユを問い詰めることにした。
「どったの? 何かあった?」
「お前の冷蔵庫の中身はどうなってんだ!? あんなのいつか死ぬぞ!?」
「別にそれらのカロリーを消費するだけの運動はしているから大丈夫だよ」
「はぁ・・・・・・。まずは食材調達からか・・・・・・」
私はエプロンを外し、上着を羽織る。
「あ、私も行くよ」
「・・・・・・無理するなよ?」
「大丈夫だって。症状が重くても流石にちょっとした外出ぐらいは出来るよ」
本当は止めたいところだが・・・・・・。
まぁフユが一緒に来るってなら、その意思を尊重するか。
「ほらよ」
フユに上着を投げ渡す。
「サンキュー」
ナンチャラスーパーに来た。
「さて、適当に買って帰るか。材料は・・・・・・」
ポケットからスマホを取り出し、おかゆの材料を調べる。
流石に細かい材料までは覚えてなかったんだ・・・・・・。
「そうそう。成美。私ナプキン買ってくるから」
「あ、あぁ」
ナプキンぐらい常備しておけよ・・・・・・。
『生理のポイント5 経血』
「お会計1256円です」
「はい」
レジを通し、現金を払う。
今となっては、電子マネーが当たり前となっているが、個人的にはずっと現金を使い続けたい。
「何でずっと現金なの? 電子マネーの方が速いし楽だよ?」
「電子マネーはスマホの充電がなくなったら使えないだろ。それに、使いすぎるのも怖いし、だったら現金のほうがいいんじゃないかって思っただけだ」
「ふーん。まぁいいと思うけどね」
今回の店員は優しいな。まさか全部入れてくれるなんて。
「あら? もしかして、彼女さん?」
店員の若いお姉さんがこちらを向く。
「誰がですか?」
「そちらの白髪の子です」
かっ、彼女!?
「べっ、別にそんなんじゃないです!」
「お~? 私とアンタが恋仲かぁ。よろしくね?」
「誰がお前なんか養うか!」
(いいなぁ~。 私もあんな青春を送りたかった・・・・・・!)
何故か涙目になっている店員をよそに、私たちは店を後にした。
「さて、早速作るか」
「よろしくね」
おかゆの作り方はいたって簡単。
1,材料を切る
2,材料を煮る
3,食べる
ね? 簡単でしょ?
ちなみに私のおすすめは、煮ているときに、鶏がら出汁を入れるのがおすすめだ。
そして元気なときには、食べる直前に七味唐辛子を入れるのもいいのだが、流石に今のアイツの腹に刺激物をぶち込むのはな・・・・・・。
「完成したぞ~」
「本当に作れたんだ・・・・・・。疑ってごめん」
「別に私もそんなに料理をするタイプじゃないし、そう思われても仕方ないしな。冷めないうちに食え」
「それじゃあ、頂きます」
フユがスプーンでおかゆをすくい、口に入れる。
「ん、おいひいおいひい」
「飲み込んでから言え。いくらでも聞いてやるから」
「・・・・・・・うん。美味」
「それは良かった」
「どうせなら成美も一緒に食べようよ。せっかく一緒に居るんだしさ」
「・・・・・・そうだな」
私は台所へ戻り、自分の分のおかゆをよそい、フユの元へ戻ってきた。
「さてと・・・・・・」
「成美、そんなに離れないで一緒に並ぼうよ。ほら」
フユは自分の隣を空け、床にクッションを置いた。
「分かったよ。・・・・・・よっこらせっと」
フユの隣に座り、私もおかゆを食べる。
「美味しいね」
フユがこちらを向き、にこりと笑う。
「ん~、ちょっと味付け濃かったな。次はもう少し薄味にしてみるか」
「私はそうは思わないけどなぁ」
フユの笑顔に癒されながら、私はおかゆを再び口に運ぶ。
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