第15話 休憩時間
「思ったんだけどよ、お前、私がいなくなったこと気付いてたのか?」
「ん~、気付いてはいたけどね。中々見つけられなかったんだ」
バイクを路地裏に停め、私たちは休憩に入る。
「とりあえず、見つかってよかったよ。はい」
ペットボトルに入ったコーヒーを成美に手渡す。
成美はふたを開け、飲み口に口を付ける。
「・・・・・・苦い」
「あれ? カフェオレのほうが良かったかな。ごめんね、今それしかないから、他の飲み物が飲みたかったら泥水でも飲みなさい」
「似てるのは色だけだな!? 一応浄水道具は持ってるけど・・・・・・」
リュックサックを下ろし、中から水筒を取り出す。
水筒のような見た目をしているが、実際は高性能の浄水機能付きだ。
一般市場に出回っているような、中途半端の性能のものではない。ありとあらゆる汚水を徹底的に浄水してくれる。
その効果は、大体富士山の天然水レベルにまで美味しくなるそうだ。
化学薬品が混入した汚水や、海水、下水、さらにはペンなどのインクや尿も浄水してくれるため、最悪これ一本あれば生きていける。(ただしインクはそもそもの水分が少ないため浄水しても大して意味は無い)
開発者曰く、普通に購入するとなると、大体200万円だそうです。
「ほんっとうに、『あの人』も凄いよな~。一体どういう頭脳があればあんなに息をするように発明が出来るのか・・・・・・」
「少なくとも、私よりも頭良いよ。しかも私のこと可愛がってくれるし」
「可愛がるのは関係ねぇだろ」
「あのー・・・・・・」
おそるおそる、芽亜李が手を挙げる。
「ん? どしたの」
「隊長たちが先ほどから言っている、『あの人』とは一体・・・・・・」
「あぁ、そういえば言ってなかったね。いい機会だし教えてあげよう」
「はい」
「『ベガス』っていう人、聞いたこと無い?」
「・・・・・・存じないですね」
我が組織の幹部の一人、『ベガス』。
ただし、幹部といっても、前線では一切戦わない。
なぜなら、彼女は引きこもりだからだ。
「そのベガス様は、何故引きこもりをされているのでしょうか?」
「さぁね。ベガス先輩はずっと研究とかしているから、外出とかは一切興味ないんでしょ。やっぱり天才はやることが違うねぇ」
「お前も一応天才の部類だけどな。育成機関時代、施設でトップの成績だっただろ。先生も前代未聞だって驚愕してたし」
「それほどでも~」
「調子乗んな」
成美に背中を蹴られた。
「・・・・・・あれ? 隊長、先ほどベガス様のことを『先輩』とおっしゃっていましたけど・・・・・・」
「うん。ベガス先輩は私の4期前の隊員だからね。一応、1年間だけは前線で戦ってたらしいけど、どうしても実戦は厳しかったらしいよ。それで、自分の特技を生かして役に立とうとしているって訳。ちなみに私のバイクとかも全部ベガス先輩が作ってくれたものだよ」
「な、なるほど・・・・・・。ちょっと会ってみたいですね」
「そうだね。今度会いに・・・・・・」
私が話していると、スマホから音声が流れた。
画面を開くと、開会式で出てきたお姉さんが、マイクを片手に話していた。
『はーい。第一回戦、『ゾンビサバイバル』。これにて終了です。100位以内までのチームが突破となりますので、後ほど送られる順位表に目を通して置いてくださいね』
「私たち、大丈夫でしょうか・・・・・・」
芽亜李が不安そうに話す。
「大丈夫大丈夫。そんなに心配しないの」
芽亜李の頭をそっと撫でる。
芽亜李は私に擦り寄ってきた。かわいらしいね。
『第二回戦は、2日後に行われます。それまでゆっくり休憩してくださいね。では~』
お姉さんが手を振り画面から退出し、動画が終了する。
「・・・・・・2日後か・・・・・・」
「まぁ、ゾンビサバイバルでの後片付けとかの作業があるからね。どんなに頑張っても2日はかかるでしょう。そうだ、ちょうど時間が空いたんだし、いい機会だからベガス先輩に会いに行こうか。私も顔出しに行こうと思ってたし」
「そうですね。それでは参りましょうか」
芽亜李はその場を立ち、尻を払う。
「よし。じゃあ行こうか。トウっ!」
私がジャンプをすると、画面が切り替わり、組織の前にたどり着いた。
「いや移動方法がギャグマンガ!」
成美が私の頭にチョップしてくる。
・・・・・・あれ、私、3話連続で痛めつけられてない?
「移動の手間が省けましたね。早速入りましょう」
「そうだね。あ、優奈ちゃんはどうしようか・・・・・・」
幹部権限で入ることも出来るけど・・・・・・。流石にまずいかな・・・・・・。
「別にいいんじゃないか? どうせ入隊するんだし、見学って事で」
「確かにね。じゃあ優奈ちゃんも一緒に行こう」
私は優奈の手を繋ぎ、中に入る。
「繋がなくても結構です」
「はぐれたら君は生きては帰れないけど、それでもいい?」
「早く手を繋ぎましょう。さぁ早く!」
「態度の豹変凄いね君」
こんなので本当に暗殺業やっていけるのかな?
「ここは・・・・・・」
巨大な倉庫の奥にたどり着き、芽亜李は頭に疑問符を浮かべる。
「ベガス先輩の住処兼、研究室だよ。ベガス先輩がここから出ることはほぼ無いからね」
「え、出ることあるんですか? 全然見たことないんですけど」
「出るときは、『上層部会議』と『幹部閣議』の時だけだからね。ちなみに私も幹部兼上層部の者なので、両方とも出席してまーす。イエイ!」
成美の前でピースをする。
「そのピースウザいからやめろ。で、どうやって入るんだ?」
「それはね・・・・・・」
私は、制服の胸ポケットに入っているカードキーを取り出す。
そして、ドアの前にあるスライド口にスライドする。
「おぉ、隠し扉か・・・・・・」
一見、何も無いような場所がスライドし、奥に通じる道が見えた。
「じゃあ早速――」
「お前死にたいのかー!!」
「ウゲッ!」
成美が廊下を進もうとした直前のところで、成美の制服の丸首を掴んで静止させた。
「痛ぇな、何すんだ! 殺す気かお前は!」
「私が殺すまでも無く、このまま進んでたらアンタ死んでたよ」
「はぁ?」
「君たちもよく聞いて。ここから先、私から絶対に離れないで。離れたら君たちの命は無いよ」
「そんなに恐ろしいんですか?」
芽亜李が首を傾げる。
「うん。正直言って、私も無事に行けるか分からない。そんなとこを、君たちが安全に行けるわけないでしょ」
「一体何があるっていうんだよ」
ベガス先輩に会いに行くためには、最低でも、命が10個必要だ。
ここから先の道は、ベガス先輩の安全を守るためだけに作られた、いわば伏魔殿だ。軽い気持ちでここに入ったが最期、少なくとも形を保ったまま出ることは決して叶わないだろう。
まず、隙間なく張られたレーダーによって、蟻一匹逃さず捕捉する。捕捉されたら一巻の終わり、壁に取り付けられたマシンガンで蜂の巣、いや、それどころか、肉体が飛散してしまうだろう。
その上、ベガス先輩が開発した警備ロボが大量に配置されている。
このロボット達は、ベガス先輩を命がけで守るようにプログラムされており、その任務を果たすためならば、容赦なく殺戮を行う。
「そ、そんなに恐ろしい場所なのか・・・・・・?」
「ベガス先輩自身が一切戦えないからね。こうでもしないと、ベガス先輩簡単に死ぬもん」
「じゃあ・・・・・・、一体どうやって・・・・・・」
芽亜李が泣きそうな顔で聞いてくる。
「おーよしよし。怖くない、怖くないよ。私がいるから大丈夫」
芽亜李にそっと抱きつき、頭をなでる。
「お前には学級委員長としてのプライド無いんか?」
「・・・・・・うるさいです」
涙目になりながらも、全力で成美を睨み付ける。
「でも、本当にどうやって入るんだ? お前でも怪我するんだろ? 私たちが入ったらひとたまりもないし、お前の足手まといにしかならんだろ」
「ふっふっふ。ちょっと待っててね」
制服のポケットからスマホを取り出し、電話帳を調べる。
「えーっと・・・・・・。あったあった」
電話マークをタップし、耳にスマホを当てる。
「・・・・・・あーもしもし? 私です。今から先輩の部屋に皆で行こうと思ってるんですけどいいですかね?・・・・・・あー、はい、はい。分かりました。ではまた後で」
通話を切る。
「誰と電話してたんだ?」
「ん? ベガス先輩。2分ほどで警備システム解除するらしいから、そしたら行こうか」
「お前ベガス様に信用されすぎだろ・・・・・・」
「だって会うたびに抱きついてくるし、この前なんてキスされたよ。どんだけ私の子と好きなんだろうね。後ベガス先輩のこと様付けするんだったら私のことも様付けしてよ。一応私も幹部なんだけど」
「友達なんだからいいだろ?」
「・・・・・・まぁ、友達って事で勘弁してあげよう」
『警備システムが解除されました』
倉庫にアナウンスが響き、扉の前のランプが赤色から青色に変わった。
「わぁ・・・・・・、流石組織の頭脳と呼ばれるだけあるな・・・・・・」
「さて、警備システムがまた作動される前に早く入ろう」
私たちは、全力疾走で、廊下を突っ走った。
「ようやくたどり着いた」
私たちは今、ベガス先輩がいる研究室のドアの前にいる。
「まさかここは警備システム張られて無いだろうな?」
「むしろここに生きてたどり着ける生き物が存在しないからね。ここに警備システムを張る必要が無いもん」
「確かにな。それじゃあ入ろうぜ」
私はドアをノックする。
「失礼しまーす・・・・・・」
ドアを開けると、いきなりベガス先輩が私に抱きついてきた。
「フユちゃぁ~ん! 会いたかったわぁ~!」
ベガス先輩は私の頬と自身の頬をくっつけ擦り合わせてくる。
「せ、先輩、ちょっと離れてください・・・・・・」
「えーっと・・・・・・。この人が、ベガス先輩・・・・・・?」
「そうよぉ? 君たちと顔を合わせるのは初めてかしらねぇ?」
相変わらず艶かしい喋り方だ。その上、声まで艶かしいのでものすごく耳に残る。
「ていうか先輩、また風呂に入ってないですよね? 全身機械臭いです」
「あらぁ。じゃあ早速、入ってきましょうかねぇ。フユちゃんも来る?」
「結構です。あとここで服脱がないでください。脱ぐなら脱衣所で」
芽亜李にアイコンタクトで指示し、手で優奈の視界を遮らせる。
こんな小さい子にお姉さんの裸姿を見せるのは、教育に悪すぎるからね。
「あぁ、そこの机にコーヒーがあるから、好きに飲んで頂戴ねぇ」
ベガス先輩が指差した先には、何かの論文に覆われた机だった。
その上には、ダンボールに入った缶コーヒーがいくつも入っていた。
「そりゃどうも。じゃあお言葉に甘えて」
「ただいまぁ」
「お帰りなさい。随分さっぱりしたんじゃないですか?」
先ほどのくすんだ灰色の髪の毛は、すっかり艶のある灰色の髪の毛へと変わった。
そして、ぼさぼさだった髪の毛も、ストレートに整った・・・・・・、と思ったが、すぐに戻ってしまった。(キャラデザインの都合上)
「先輩、髪切りに行かないんですか? もう何年も伸ばしっぱなしでしょ」
実際、先輩はかれこれ10年間髪を伸ばしているので、後ろ髪が地面を引きずっている。(一応前髪だけは自分で切ってる。ただしぱっつんしか出来ない)
「あ、そういえばこの前頼まれていたバイクのメンテナンス、終わったから持ってってねぇ」
「ありがとうございます」
「・・・・・・ベガス様、目の下の隈ヤバくないですか? 一体どんだけ寝ないとこんなにくっきりと隈が出来るんですか」
「それは気にしないでねぇ」
「いや教えてくださいよ。実際どれほど寝てないんですか」
「ん~・・・・・・。2週間ぐらいかしらねぇ」
「2週間!?」
成美が大声で叫ぶ。幹部の部屋でよくもまぁそんな声が出せるものだ。
「大丈夫よぉ。栄養ドリンクとエナドリがあるんだからぁ」
ベガス先輩は、ポケットから瓶に入った栄養ドリンクと、何かの爪で引っかかれたような模様のエナドリを取り出す。
「まるで仕事が終わらない日のお前じゃねぇか」
「え、そう?」
「お前の作業机の上に大量のエナドリの缶あっただろ。お前マジで死ぬぞ?」
「ダメよぉ? ちゃんと睡眠は取らなきゃぁ」
「アンタが言うなアホ」
思いっきり先輩に言ってやった私であった。
「とりあえず、私はロボットの整備するけど、貴方たちも見るぅ?」
「え、いいんですか?」
「フユちゃんが一緒だからねぇ。今回だけ、特別よぉ」
先輩は6体のロボットを一列に並べた。
「先輩、また増やしました?」
「正解ぃ。フユちゃんにも一体あげようかしらねぇ」
「いりませんよ、どうやって持ち帰れと?」
すると、芽亜李が口を開いた。
「あの、ベガス様。そちらにあるロボットは一体・・・・・・」
「あぁこれぇ? その名も『S.I.N.O.B.I.』よぉ。私が開発した警備ロボット。あげないんだからねぇ!」
「別にいりませんよ・・・・・・」
呆れてしまったのか、芽亜李は下を向く。
「それじゃあ、これから検査していくわねぇ」
先輩は、ロボットの背面についているUSBメモリの挿し口に、コードを挿した。
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