第14話 ヒーローになりたかった。

私は少女の右腕を確認する。二の腕には痛々しい傷ができており、そこから血が大量にあふれていた。

「触らないで・・・・・・」

「このままだと、君死んじゃうけど。そしたら私に復讐できないよ?」

「っ・・・・・・」

背負っていたリュックを降ろし、中からピンク色に、白色の桜柄の入ったポーチを取り出す。

その中からワセリンとラップを取り出し、ラップを傷口の大きさに合わせて切る。

「いや何でラップ?」

「まぁ見てなって」

ワセリンを手のひらですくい、ラップに塗りたくり、少女の腕に貼り付ける。

「・・・・・・訳分からない・・・・・・。普通包帯とか消毒液とかじゃないの?」

「こうやって手当てした方が速く治るし、傷跡も残りにくいからね。それに傷口に消毒液塗るの痛いし嫌でしょ?」

「それは・・・・・・、確かに・・・・・・」

バックから包帯を取り出し、ラップに巻き、その上からテープを貼る。

「はい、おしまい。ラップは1日1回は貼りかえてね」

私はバッグに荷物をしまう。

「・・・・・・ねぇ」

「ん~? どした?」

リュックにポーチを入れたのを確認し、後ろを振り向くと、少女が左腕で銃を構えていた。

「おやおや、君は私という命の恩人にそんなことをするのかい? お姉さん悲しいなぁ。まぁ、この国の教育がなっていないのもあるけど」

「私を助けたからって、アンタの罪が消えるわけじゃないんだから・・・・・・!」

「やれやれ。困った子猫ちゃんだ」

少女の元へ瞬間移動し、少女の銃を掴む。

「は、速い・・・・・・!」

「すごいでしょ。私レベルになると、こんなことは造作もないよ~?」

「死ね!」

少女は引き金に指を添える。

「いいよ? 殺しても」

「っ!」

少女は引き金を引こうとする。だが、何故か少女は引き金を引けない。私が阻止しているわけでもない。

何度も少女は、引き金を引こうと試みるが、結局、引き金は引けなかった。

「何で・・・・・・。何でなんだよ! 何で・・・・・・、何で・・・・・・!」

私は、そっと少女から銃を取り上げる。

「見てて」

私は、自分の右肩に銃口を当て、引き金を引いた。

鈍い発砲音と共に、私の肩から血があふれ出す。

「ちょっと・・・・・・、何してるのアンタ!」

「ふぅ・・・・・・。分かったでしょ? 一発の重みが」

「!」

私は右肩を押さえ、話を続ける。

「引き金を引けば、人は簡単に殺せる。まぁ、当たり所が良ければ死なないけど。でもね、簡単に殺せるけど、その後の後悔を消すのは簡単じゃない。いつまでも、いつまでも、自分の心に残る」

「・・・・・・じゃあ、お姉さんは何で殺しなんて・・・・・・」

「それはね・・・・・・。子供達の夢を守る、『ヒーロー』になりたいから。かな?」

少女に向かって、にこりと微笑みかける。

「ヒーロー・・・・・・」

「うん。子供達が、笑顔で夢を見られるようなヒーローになりたい。・・・・・・んだけどなぁ~!」

「え? 怖い怖い」

「しっかし、まさか助けるはずの子供達に恨まれてたとはなぁ~! こりゃあヒーロー失格だね」

「いやまだヒーローにすらなってないでしょうが」

「ナイスツッコミ!」

少女に向けてサムズアップをする

「何なの・・・・・・? この人・・・・・・。でも、悪い気はしないです」

「おっ? もしかして仲直りかな?」

私は少女の頭に手を乗せる。

だがすぐに、その手は払われてしまった。

「勘違いしないでください。別に、私は貴方のことを許したわけではありません」

「やっぱ簡単には許してもらえないかぁ」

少女はうつむきながら言葉を発する。

「『優奈』」

「・・・・・・え?」

「『如月優奈』。これが私の名前です。次に会うときまで、絶対に忘れないで置いてください」

「・・・・・・はいはい。頭の片隅にでも置いておくよ」

私がコーヒーを飲もうとしたとき、ちょうど着信音が鳴った。

連絡してきたのは、芽亜李。

「はいはーい。どしたん?」

「た、隊長! 今、大量のゾンビの集団が襲ってきてまして、周りの部隊と連携して応戦中なのですが・・・・・・。子供達が・・・・・・!」

電話の向こうからは、かすかにだが、子供達の泣き声が聞こえる。

「・・・・・・分かった。今向かうよ」

「はい! 急いでください!」

通話が切れる。

「では、参りましょうか」

「え、何が?」

「決まっているでしょう。あの子達を助けるんですよ。私も同席します」

「・・・・・・そうだね。よし! ヒーローのお仕事だ!」

優奈にヘルメットを渡し、バイクを発進させる。


「そういえば貴方は、普段はどのような活動をしているのですか?」

優奈は途中で買った、ペットボトルのオレンジジュースにストローを挿して飲んでいた。

「教えてもいいけど、そんなに面白いことじゃないよ?」

「いいから教えてください」

「えーっと、普段の仕事は、パトロールとか、部下の子達のトレーニングと戦闘訓練の指導とか。あとはデスクワークとかかな」

「デスクワークとかやるんですね」

「そうだよ~? しかも私、組織の幹部兼、17個の部隊の隊長を掛け持ちしているから。デスクワークはキツイよ~? 本気で体中バッキバキになるし、偶に徹夜でやるから栄養ドリンクとエナジードリンクが欠かせないんだよね。まぁ成美と芽亜李に取り上げられるんだけど」

「徹夜で作業って・・・・・・、それ完全に社畜じゃないですか。あとそんなに位が高いんですね」

「そ。数字のランク制度もあるけど、もう一つ、階級の制度があるんだ」

前に話した、数字のランク制度もあるが、もう一つの階級制度がある。

この階級制度は、第二次世界大戦時代、日本の陸軍軍人の階級制度で使用されたものを流用している。

私は最高位の『大将』だ。

成美は『中尉』。ハルは『少佐』。芽亜李は『少将』だ。

「何で二つも階級制度を・・・・・・。明らかに不効率じゃ・・・・・・」

「多分長官の趣味じゃない? 知らんけど」

「知らないんだったら言わないでください」

優奈は私の脇腹をつねってくる。

これ前回も同じ事されたような・・・・・・。

「いててて・・・・・・。とりあえず、そろそろ着くから準備してね。そして危ないと思ったらすぐに私のとこへ逃げること。いいね?」

「はい」

「素直だね。じゃあこのまま行くよ」

バイクを加速させ、芽亜李の元へ急ぐ。


爆弾をゾンビの元へ投げつけ、起爆スイッチを押す。

ゾンビの四肢が吹き飛ぶが、また、他の場所からゾンビが出てくる。

「クッ、数が多い!」

芽亜李は今も尚、子供達を守りながら応戦していた。

先ほどまで一緒に戦っていた他の部隊の者たちは、全滅してしまっていた。

「・・・・・・まずい!」

ふと後ろを振り返ると少年がゾンビに襲われていた。ゾンビと掴み合いになっているが、圧倒的に押されているのは明らかだ。

「その子を離せ!」

腰からコンバットナイフを取り出し、少年の下へ向かう。

だが、ゾンビが行く手を阻む。

「邪魔だ!」

ゾンビの腕をナイフで切断しながら、前に進む。だが、すぐにゾンビの腕が再生し再び行く手を阻む。

「う、うわぁ~!」

少年の絶叫と共に、ゾンビが少年を捕食しようとした瞬間。

「は~い。ヒーロー参上!」

私は一気にゾンビをバイクで轢き殺す。

「た・・・・・・隊長・・・・・・!」

「今までお疲れ様。あの子達を連れて少し休んでてね」

「・・・・・・はい」

芽亜李が子供達を安全なところまで誘導したのを確認する。

そして、私は腰から銃を取り出す。

「さぁて。ここからは、私のParty timeだよ」

「ガァア゛ア゛ァ!!」

私がそう言い放った瞬間、ゾンビが襲い掛かってくる。

「まったく。やんちゃな子達だねぇ」

ゾンビの集団に突入し、一体一体を確実に射殺する。

「いいよ。お姉さんが気が済むまで遊んであげよう」

壁に飛び移り、壁を蹴る。目の前にあった壁を再び蹴る。

壁を蹴り続け、最高時速まで達した。

「ほらほら、もっと遊ぼうぜぇ?」

ゾンビの大群を射殺し、地面に降り立つ。

「ざっとこんなもんかな?」

銃を腰に戻す。

「フ・・・・・・、フユ~~~~!」

「ん? この声は・・・・・・」

背後から聞き覚えのある声がし、振り向いてみると、そこにいたのは成美だった。

「おぉ、お帰り。災難だったね」

「そりゃあ、急に一斉にガキ共に襲い掛かられて、麻酔打ち込まれたんだぞ!? 新月刀も盗られたし!」

「あ、それならこの子が持ってるよ?」

私の後ろから、少女が必死に刀を引きずりながら新月刀を持ってきた。

「・・・・・・すみませんでした」

成美は、少年から刀を受け取り、背中にしまう。

「・・・・・・おいガキ」

「はい」

次の瞬間、成美は少年の頬に拳を喰らわせた。

少女は勢いよく吹っ飛び、地面に倒れこんだ。

「・・・・・・お前、自分がやったこと、分かってるのか?」

「・・・・・・」

黙って俯く少女。

「答えろ!」

少女に向かって怒声を飛ばし、少女を問い詰める。

「・・・・・・はい」

少女は涙を流しながらそう返事する。

「・・・・・・もういい。行け」

「・・・・・・はい」

少女は肩を落としながら、とぼとぼとどこかへ行ってしまった。

「成美。あの子ほったらかしていいの? またゾンビに襲われるんじゃ・・・・・・」

「私は知らん。あのガキに救う価値はない」

「ふーん。ま、いいけど。後この子達どうする?」

「ほっとけ。路頭に迷わせて死なせろ。当然の報いだ」

「まぁ、それがあんたの意見ならいいけど。この子は来たいみたいだよ?」

「は?」

成美が後ろを振り向くと、優奈が立っていた。

「勘違いしないでください。私はこの女を超えたいだけです。そして、この女に自分の罪を償わせ、この女に人生狂わされた家族の無念を晴らしたいんです。そしてこの女、『桜井冬』を私自身の手で殺す」

「・・・・・・覚悟はあるか?」

成美は優奈をじっと見つめる。

「はい」

優奈の目には一切のにごりは無かった。

この子・・・・・・、使える――!

「だってさ。この子は連れて行ってもいいんじゃない? 多分この子、いい成長を見せると思うよ?」

「別にフユの意見なら構わないが」

「良かったね。じゃあ、これから私たちと一緒に頑張ろうね」

私は優奈に握手を求める。

だが再び、手を払われてしまった。

「馴れ馴れしいです」

「ん~・・・・・・。友好関係は徐々に築き上げないと駄目かぁ・・・・・・」

「さて、フユ。そろそろ次のポイント行くぞ。他のチームに点取られる」

「そうだね。でも成美はバイクが・・・・・・」

「それならさっき鍵ぶっ壊して借りてきた」

成美は私に堂々とバイクを見せつける。

「うん、それを人は窃盗って言うんだよ? 私が言えたことじゃないけど」

「いいだろ別に。後で戻すし」

「はいはい。じゃあ芽亜李は私が乗せるから、成美は優奈ちゃんをよろしくね」

「では、この子達は事後処理部隊に預けましょう」

「わぁびっくりした・・・・・・。いつの間に後ろに・・・・・・」

芽亜李はスマホで連絡を取る。


その後、子供達は、事後処理部隊によって組織で保護されることになった。

「それじゃあ、後は任せたよ」

「はい、フユ様。行ってらっしゃいませ」

事後処理部隊に後を任せ、バイクを発進させようとする。

「優奈!」

「君たち・・・・・・」

残った子供達が、優奈に呼びかけた。

「しっかりやれよ!」

「応援してるからね~!」

子供達に声援を後に、私はバイクを発進させる。

「はい。必ず、必ず、戻ってきます・・・・・・!」

優奈は涙を流しながら、子供達に向かって手を振った。

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