第13話 醜い執着

「ふぅ・・・・・・。間に合った」

芽亜李を近くのコンビニに降ろし、急いでトイレへと向かわせる。

ついでに、私も何か飲み物でも買っていこう。


ちょうど芽亜李がトイレから出てきたので、芽亜李の分も買うことにした。

私はカフェオレ。芽亜李はコーラを選んだ。 

「すみません、奢ってもらってしまって・・・・・・。今度お金返します」

「いいのいいの。上司が後輩に奢るのは当然のことだから。さ、用が済んだならバイクに乗って」

芽亜李にヘルメットを投げ渡す。

「はい。失礼します」

私たちはヘルメットを被り、バイクを発進させる。

「そういえば、隊長は成美さんの居場所分かるんですか?」

「まぁね。成美の居場所ぐらいは大体分かるよ。長い付き合いだからね」

「なるほど・・・・・・」

何がなるほどなのかは知らないが、そのまま走り続ける。

「隊長って、確か専用のバイク持ってましたよね。あれってそんなに凄いんですか?」

「そりゃあ、私専用のバイクだからね。私以外の人間はまず乗れないよ」

実は、組織には私専用のバイクがある。

並大抵のバイクなど相手にならない。

まず、スピードが段違いだ。最高時速1000km。まぁ、そんな速さで走ったことはほぼないけど。

そして、タイヤの脇にはマシンガンが装着されており、主にカーチェイスなどに使用する。ボタン一つで収納可能なので、銃を仕舞っていればまずばれない。

他にも、空中飛行機構も備えており、特撮さながらの戦闘も出来る。

耐久性も段違い。少なくとも、トラックの衝突程度では傷一つ付かない頑丈さだ。

その他にも、様々な機能が搭載されているが、それはまた今度。

「個人的にはあのバイク乗りやすいんだけどね。色も好みだし。でもあんなの盗まれたらとんでもないことになるからなぁ」

「そんなこと言いながら、ソロキャンで乗り回しているくせに」

「ソロキャンには便利だもん。水のタンク備えられてるし、電源供給もできるし」

「あのバイク乗ってみたいですね・・・・・・。最高時速で走り回りたい」

「公道であのバイクの最高時速出したら一発免停なるわ。あのバイク、爆音出さないからまだいいものの」

あのバイクは排気ガスを極限まで0に抑え、その上、走行中の爆音を出さないというなんとも環境に配慮した優しいバイクである。

「君も作ってもらえば? 『あの人』に頼めば作ってもらえるよ」

「『あの人』とは・・・・・・?」

「知らないんだったら別にいいけど。それに作ってもらっても使いこなせなきゃ意味無いから作ってもらわないで正解だね」

「馬鹿にしないでください」

芽亜李は私のわき腹をつねった。地味に痛い。

「にしても結構な距離走行してますよね。まだ着かないんですか?」

「『ゾンビサバイバル』はバトルフィールドが広いからね。走ったほうが速いんじゃないの?」

「それは隊長だけです」

「え? 褒めてくれるの? いや~嬉しいなぁ!」

「調子に乗らないでください」

「はいはい。・・・・・・おっ、到着かな」

歩行者天国に到着した。

正面には、大量のゾンビがおり、かろうじて応戦している子達もいる。

他のチームを助けるのは、あまりいいことではないけど、子供達が襲われているのなら助けないとね。

「芽亜李、行くよ」

「了解です」

私たちはバイクを降り、ゾンビの大群に突入する。

「ヴァ゛ァァァ゛!」

「ヒッ!」

パァン

間一髪、少女が襲われる瞬間、私はゾンビの額に銃弾を撃ち込んだ。

そのままゾンビは、ゆっくりと前のめりに倒れる。

「た、助かった・・・・・・?」

少女はただ唖然としている。

「大丈夫、君?」

私はそっと、少女に手を差し伸べる。

「あっ、ありがとうございます」

「自分の身を守るのも、暗殺者の大切な仕事だよ。さぁ、まだ勝負は終わっていない。続けようか」

「はい!」

少女は再び、ゾンビの群れへと入っていった。

「さて、芽亜李は・・・・・・。あぁあそこか」

私が後ろを向くと、激しい爆発音と共に、ゾンビが空中に飛ばされていた。

やっぱり派手だね。

ただし、それが原因で深夜の仕事には出動させられないけど。

そう思っているうちに、芽亜李が残っていたゾンビを全て片付け、私の元へと駆け寄ってきた。

「それにしても、全然成美さんが見つかりませんね・・・・・・」

「確かに。どこか別のとこにでも行ったのかな?」

「どちらにせよ、早く見つけましょう。それに・・・・・・、何だか嫌な予感がします」

「・・・・・・」

芽亜李の勘はほぼ確実に当たる。

芽亜李が嫌な予感がするということは、なにかしらの意味があるのだろう。

「分かった。芽亜李、私のそばを離れないで」

「了解です」

私たちはバイクに搭乗し、慎重にバイクを発進させる。

「何かあったらすぐに声をかけて。どんな些細なことでもいいから」

「はい」

私も、すぐに銃を抜けるように待機しながらバイクを走らせる。

「・・・・・・ん? あれは・・・・・・」

正面から、一人の少女が刀を引きずりながらゆっくりと歩いてくる。

「あれって、成美の刀だよね」

だが、正面から来るのは成美ではなかった。

全身黒のロングコートを羽織っており、フードを被っている。

「・・・・・・ちょっと待っててね」

私はヘルメットを外し、バイクから降りる。

「隊長――」

「大丈夫。心配しないで」

「・・・・・・気をつけて」

私は芽亜李に向かって、優しく微笑み、少女の元へ向かう。

「ねぇ。それって成美の刀だよね。何で君が持ってるのかな?」

「・・・・・・」

私の問いかけには応じず、少女は無言で斬りかかってくる。

「おっと」

すぐさま後方回転で身をかわす。

地面に着地し、私は再び少女に向かって話しかける。

「こらこら。いきなり斬りかかってくるのは無しだよ。で、何で君はその刀を持っているんだい?」

「・・・・・・っ!」

二度目の問いかけにも応じず、再び斬りかかってくる。

次の瞬間、目の前に少女が現れる。

「わお」

そのまま、首を刎ねようと一気に刀を振る。

「まだ甘いねぇ」

私は軽々と背中を仰け反らせ、難なく回避する。

「別にいいよ? ほら、私と勝負したいんだったらかかっておいで? それで気が済めば話してくれるでしょ」

私は腰に手を当て、少女に向けて笑いかける。

「ハッ!」

私の挑発に乗った少女は、空高く飛び上がり、真上から斬りかかってくる。

「お~、凄いね君」

私も空高く飛び上がり、少女の背中に向けてかかとを振り下ろす。

そのまま少女は地面に落下する。

「カハッ・・・・・・!」

少女は口から血を吐き出す。

それでも尚、少女は無理やり体を起こす。

「にしても君、中々やるねぇ。その刀16tもあるのに。何か特殊な訓練でも受けてきたの?」

特殊な訓練とは言っても、16tを持ち上げる訓練のマニュアルなどまず存在しないけど。

成美だって、自分の努力であんなに振り回せるようになっただけだから。

「・・・・・・おのれ・・・・・・!」

私が少女に笑いかけていると、何かが襲ってくる気配がした。

皮膚に全神経を集中させ、空気の動きを感じ取る。

・・・・・・うん。オッケーオッケー。バッチリ。

その数秒後、後方からナイフが何本も飛んでくる。

私は飛んでくるナイフを全て、中指と人差し指で挟み、キャッチする。

「ふーん。どうやら複数で私を倒そうって事らしいね」

「貴様は・・・・・・・、絶対に許さない・・・・・・! お前のその腸、この私が抉り出してやる・・・・・・!」

刀を持った少女は私をにらみつけてくる。

「何でそんなに私に対して恨みがあるのかな?」

私が少女に問いかける。

今度は応じてくれた。

「お前は一体、その手で何人始末してきた? どれだけの尊い命をその手で無駄にしてきた!」

「ん~っとね・・・・・・。分からないや。ごめんごめん」

私は頭を掻く。

「・・・・・・ふっざけるなァー!」

一人の少年は私の眼球を狙って、ナイフを突き刺そうとしてくる。

「だから甘いって」

少年からナイフを奪い、頭にチョップする。

「私が人を殺すからって、君たちに何の関係があるのさ」

「お前には分からないだろうな・・・・・・。突然、大事な人が消えるこの絶望感が!」

「だーかーら。私に何の関係が・・・・・・」

次の瞬間、少年は大声で叫んだ。

「ここにいる奴らは全員、お前に大事な人を殺された奴なんだよ!」

その直後。他の場所から次々と少年少女が集まってくる。

「・・・・・・つまり君たちは、その人たちの敵討ちに私を殺そうと?」

「お前が殺してきた分、苦しんで死ねェ!」

少年少女たちは、一斉に私に襲い掛かってくる。

「ちょいちょいちょーい。まず落ち着きなって~」

とりあえず私は信号機の上に飛び乗った。

流石に子供を殺すわけにはいかないからね。

「逃げないで降りろ! 正々堂々俺たちと戦え! そして罪を償え!」

信号機の下に、複数の少年少女たちが集まってくる。

ざっと見ただけで60人はいるだろう。

「君たちまず落ち着きなって。それに、私を殺すなんて無理だから諦めなよ」

「黙れェ!」

少年はナイフを次々と投げつけてくる。

その度に私は、ナイフをキャッチし地面に投げ捨てる。

「ナイフ投げの精度が悪いよ? 本番で使うんだったらもっと練習しないと。じゃないと私以外の人も倒せないからね」

私は信号機から飛び降り、少年少女の方を向く。

「君たちがどうしても私と戦いたいって言うなら、私は相手になってあげてもいいけど。どうする?」

返事をすることなく、一斉に私に襲い掛かってきた。

「こうするって事は、返事ははいって事でいいのね。りょーかい」

3人の少年が、一斉に私に向かってナイフを突き刺そうとしてくる。

「ついでに君たちへのアドバイスをしてあげよう。ナイフの持ち方は上から持つようにしたほうがいいよ」

少年たちの腕を掴み、ナイフの持ち方を矯正する。

「汚らわしい手で触れるな!」

少年は私の手を振り払い、私の首を刎ねようとするが、私はすぐに少年の手を押さえる。

「無駄な動きが多いから、もう少しコンパクトに動こうか。脇は開き過ぎないようにね」

脇を開きすぎると、脇を元に戻すのに時間がかかる。

そして、その隙に殺される可能性が高い。

それならば、たとえ攻撃範囲が狭くても、隙が少ないほうが生存率も上がる。

「そこだ!」

後ろから、少女が銃を発砲してくる。

「おっ、エイム上手いね」

私はすぐさま少女の元へ駆け寄り、銃の使い方を教える。

「君たちは片手で撃っちゃだめ。射撃の反動でブレちゃうよ。ちゃんともう片方の手で下のほうを支える」

「馬鹿にしてるの!?」

私が教えたとおりに、少女は私に銃を発砲する。

「うん。上手上手」

この子達もそれなりに上達してきたかな。

じゃあわたしもそろそろ・・・・・・

「痛い!」

「ん?」

少女の叫びが聞こえ、前方を向く。

少女は地面に倒れこみ、右腕の二の腕を掴みながら顔を歪ませていた。

「どうしたの?」

「さ、触るな!」

「いいから」

私は少女の腕を掴み、右腕を確認する。

「あー、流れ弾かぁ」

無理も無い。

大した戦闘訓練も受けず、素人がいきなり実戦をすればこうなるだろう。

実際、戦闘訓練では、味方を確認しながらの攻撃を習うのだが、この子達はそんなことは学んでいない。

自分たちの味方に誤って攻撃するのも仕方ないだろう。

「芽亜李! ちょっとこの子達の相手お願い!」

「わ、分かりました!」

芽亜李は武器を構え、前に出る。

「お前も、あの女の仲間なの?」

少女は銃を突き出す。

「隊長を傷つけるのであれば、たとえ貴方たち子供であろうと、容赦は致しません!」

芽亜李は、少年たちに向けて爆弾を投げつけた。

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