第12話 ゾンビ殲滅

「岬さん、伏せて!」

「おわっ!」

岬の後ろに居た、ゾンビを3体射殺する。

「危ねぇだろ! 私に当たったらどうすんだよ!」

岬が私に詰め寄ってくる。

「大丈夫だよ。絶対に当てないから。ほら後ろ」

「えっ」

岬が後ろを振り向くと、ゾンビが歯を立てて襲い掛かってきた。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「邪魔」

「グェっ!」

岬の頭を下に押し、銃の引き金を引く。

ゾンビが倒れる。

ピロン。

スマホからメールの着信音が鳴る。メールを確認すると、ポイント加算の通知だった。

『人命救助により、500pt追加』

ラッキー。ポイント追加!

「だから危ねぇだろ! せめて一言断れよ! そうしたら避けるからよ!」

いや避けられるわけないでしょ。私レベルじゃないんだし。

「今から、撃つよ?」

「は?」

私の背後から来たゾンビを、銃を後ろ向きに構え、引き金を引く。

「いい加減にしろ!」

何故か岬は、カンカンに怒り、私に詰め寄ってきた。

「ほら、ちゃんと断ったよ?」

「いや・・・・・・。確認もしないでよく撃てたな・・・・・・」

岬が私から目をそらす。

何で目をそらすの?

「私、結構敏感だからね」

「何がさ」

「感覚とか。耳もいいし、目もいいからね。周囲の大体のことは把握できるよ」

「えーっと・・・・・・。どんな感じで?」

案外、岬は頭が悪かった。

これまでの行動で分からないものだろうか?

「試しにやってみたらどうですか?」

後ろから聞き覚えのある声がする。

背後を振り向くと、居たのは・・・・・・。

「ハル」

「パイセンの実力は本物なんですから、披露してみたらいいんじゃないですか? 私も久々に見てみたいですし」

見せ物じゃないんだけど?

「・・・・・・はいはい。分かりましたよ」

私は目を閉じて全神経を集中させる。

「おい、冬・・・・・・」

「静かに」

ハルが岬を黙らせる。

「・・・・・・そこか!」

壁を蹴り、隠れていた20体のゾンビの首を、ナイフで切断する。

「な、何で分かったんだよ・・・・・・」

「これがパイセンの特技の一つですよ」

これは、私が使う探索スキルだ。

皮膚に全神経を集中させ、空気の揺れを確認する。

その方向から、敵の位置を確認する。

「他にも、パイセンはいろんなことが出来ますよ」

「例えば?」

聴覚を底上げし、自分の呼吸の反響で、敵の位置を把握することも出来る。

「それ以外にもいろいろありますよ。全部言ったらキリがないけど」

「でも、目は絶対に使いたくない」

「何でだ? 視力って結構強い武器になりそうだけどな」

一応、視力を底上げすることも出来る。

体中の血液の流れを、全て眼球に向け、敵の動きをスロー状態で見ることが出来る上、相手の『次の行動』を見ることが出来る。

ただし、これは眼球を思いっきり金属バットで殴られた時の2000倍以上の負担がかかる。

流石の私でも、これを長時間使うことが出来ず、どんなに頑張っても、10秒が限界だ。

その上、使った後しばらくは、死にたくなるほどの痛みで目を開けられないので、目を瞑って戦うしかない。

一応、味方がいる場合は、敵の次の行動を教えて戦わせることが出来るが、いない場合は、さっき言った様な、聴覚と触覚を底上げして戦うしかない。

まさに、諸刃の剣というわけだ。

私も、この技を使用したのはたった2回だ。

「・・・・・・そういえば、嗅覚は上がらないのか?」

「嗅覚は変わらないよ。上げようと思えば上げられるけど、上げたところでどうしろってのさ」

「その通りだが・・・・・・。何かもったいない気が・・・・・・」

実際に嗅覚を上げたところで、実際の戦闘には何のメリットも無い。

せいぜい、いろんな物の匂いを嗅ぎ分けることぐらいだろう。

「話しすぎたね。そろそろ次の場所に移動しようか。他のチームにポイントとられる」

「そうですね。前方は私に任せて、パイセンは他の方向をお願いします」

ハルはガトリングを構える。

「岬さん。私のそばを離れないでね」

「あ、あぁ」

岬は、私にべったりくっついた。

別に、そこまでくっつけとは言っていない。

距離感とか無いの?

「あ、そういえば、私たちって今何位?」

ハルがスマホを確認する。

「今のところは・・・・・・、6000チーム中、138位ですね」

「うーん・・・・・・。微妙なラインだね」

別に、1位を目指しているわけではないが、出来れば10位以内には入りたいのが本音だ。

「出場者への攻撃ってOKだっけ?」

「一応認可されてますよ。過剰攻撃は減点対象ですけど」

「ふーん。まぁいいや。早く動かないと、私たちの得点が取れなくなる」

右の腰から、銃を抜く。

「さぁ、『Let’s party time』」

銃をスライドし、岬をおんぶする。

「何で背負うんだよ!」

「いいから黙って。舌抜くよ。・・・・・・ハル、着いてこれる?」

「当たり前です!」

私は、建物内を脱出し、ゾンビがいない場所へと走り出した。

「ぎゃあああああああ! 速い速い速い速い!」

・・・・・・今回、この子ずっと叫んでない?

岬の絶叫を聞きながら、私は走っていった。


「とりあえず、ここにはゾンビは来ないでしょ。『ゾンビサバイバル』が終わるまで、岬さんにはここで待っててもらおう」

町外れの路地裏に、岬を背中から降ろす。

「・・・・・・おーい。岬さーん?」

岬は白目を向き、口からは泡を吐いていた。

岬の頬を手のひらでぺちぺちはたきながら、岬を起こす。

「・・・・・・はっ! ここは!?」

何の前触れもなく岬は起き上がり、周囲を見渡す。

「町外れの路地裏だよ」

私が場所を説明すると、岬は、再び怒り始めた。

「お前は今回の話で、何回私を絶叫させればいいんだよ! いい加減喉枯れるわ!」

「うん、メタ発言やめてね」

怒り続ける岬を、どうにか落ち着かせつつ、私は話を続けるが、岬は聞く耳を持ってくれない。

すると、ハルが話し始めた。

「とりあえず、この子のことは私が見ておきますので、パイセンはじゃんじゃん点数稼いできちゃってください!」

ハルは、自信満々に自分の胸を叩く。

胸がないから叩きやすそうだ。

本人に言ったらガトリング連射されるけど。(経験済み)

「分かった。じゃあ頼んだよ」

私は高く飛び上がり、ビルの壁を飛びまわりながら戦場へと向かった。

「・・・・・・なぁ、冬って・・・・・・一体何者なんだ・・・・・・?」

岬はハルに質問する。

ハルは微笑みながら、岬に答える。

「世界中の子供達の夢を守る、『ヒーロー』ですね」

「・・・・・・ヒーロー、か」

岬は、そっと下を向いた。


「あらかた処分したかな」

私はスマホで、自分のチームの得点を確認する。

[現在の得点 9026pt 38位]

「うーん、もうちょっとかぁ」

いいところまでは行ったものの、もう少し順位を上げたいところだ。

とりあえず他にゾンビがいないか捜索しよう。

「・・・・・・見つけましたよ」

「何っ!」

私は正面に銃を構える。

「ちょっとちょっと、私ですよ。いきなり銃構えないでください」

私の前に現れたのは、緑髪のウルフヘアの少女だった。

「ん? あぁ、君か」

私は銃を仕舞う。

「隊長、何で私を忘れたんですか?」

「いやー・・・・・・。何でだろうね」

彼女の名前は、『庄司 芽亜李』。

私の部隊の小隊長を担っている子だ。

ちなみに、私の通っている高校のクラスの学級委員長もやっている。

「あれ? もしかして君も一緒のチームなの?」

「当たり前でしょう。むしろ隊長が忘れていたんでしょうが。部下の存在を忘れるなんて、隊長失格ですよ」

冷ややかな目で、私を見つめてくる。

結構刺さる言葉だね。

「悪かったよ。じゃあここからは私たちで行動しようか」

「はい。・・・・・・そういえば、成美さんは?」

「成美は一人でゾンビ狩りやってるよ。成美も強いからね。それなりに点数稼げるんじゃない?」

「友達に対して、酷い言い様ですね・・・・・・」

「だって本当のことだもん。念のため、成美も探しに行こうか。あそこにバイクがあるから借りようか」

「そうですね。では失礼します」

私はバイクのエンジンをかけ、後ろに芽亜李を乗せ出発した。


「いやー、やっぱりバイクで疾走するのは気持ちいいねぇ。もうちょっとスピード上げようか?」

「いやちゃんと安全運転してくださいよ・・・・・・。隊長は運転が上手いからまだいいものの・・・・・・」

一応ドリフトなども出来る。使う機会がないから、宝の持ち腐れだけど。

「芽亜李ちゃんはバイクの免許取らないの? 組織で取れるよ?」

「バイクは怖いので嫌です。車の運転のほうがいいですね。ていうか、隊長は何でバイクは乗れるのに自転車には乗れないんですか? 明らかに乗れるようになる順番おかしいですよね」

「・・・・・・完全に勘だね。それに、別に自転車に乗れなくてもバイクに乗ればいいし」

「どういう理論ですか」

こうやって会話しているうちに、ゾンビの群れが現れた。

「面倒だなぁ」

「いや、ここで倒せばそこそこ点稼げますよ」

「じゃあ倒しちゃおうか」

私たちはバイクから降り、ヘルメットを外す。

「あいにく、私たちも急いでいるのでね。だからさっさと片付ける」

腰から銃を取り出す。

「隊長、行きましょう」

「『Let’s party time』」

私はゾンビ達に次々と銃弾を発砲する。

「・・・・・・あれ? 今回は死なないんだね」

並大抵の威力では死なないらしい。おそらく中級ゾンビだろう。

「そうと決まれば・・・・・・。芽亜李ちゃん!」

「了解です」

芽亜李は腰に付けているポーチから、星型の銀色の物体を取り出し、ゾンビに向けて投げつける。

そして、もう一度ポーチから、今度は赤色のスイッチを取り出す。

「アデュー」

芽亜李はスイッチのボタンを押す。

その直後、銀色の物体が勢いよく爆発し、その爆風でゾンビが死んでいく。

「ひゃ~! やっぱり芽亜李ちゃんの爆弾の威力は凄まじいね」

「隊長が作ってくださった物ですから」

彼女の使用する武器は爆弾だ。

その爆弾は、直径3㎝と非常に小型だが、威力はそんじょそこらにある爆弾とは比べ物にならず、一個使用するだけでトンネル工事が完了する威力だ。

「芽亜李ちゃんさ、この爆弾でトンネル工事のバイトでもすればいいのに」

「こんなもの、任務以外で使えるわけないでしょう。しかも後片付け大変なのに」

この爆弾、先ほども言ったようにあまりにも威力が高いので、いろんな意味で後片付けが非常に大変なのだ。

だから普段は、普通のものより少し威力を抑えたものを使用している。むしろそれが威力的にもちょうどいい。

「後片付けは、事後処理班に任せるとして、私たちは成美の捜索を続けようか」

「随分大げさですね」

私たちは再びバイクに搭乗する。

「さぁ、振り切るぜ」

「いや道交法守ってください」

私はアクセルを何度も回し、エンジンをふかす。この瞬間が中々楽しい。誰か共感してくれる人いる?

「しゅっぱーつ!」

アクセルを一気に回し、バイクを発進させる。

「あ、芽亜李ちゃんどこか寄りたいとことかある?」

「ではコンビニに。・・・・・・尿意が限界で・・・・・・」

「えぇ!? ちょっとちょっと! もう少しだけ我慢して! 急いで向かうから!」

私は大急ぎでコンビニへと向かった。

その後、警察に見つかり説教を喰らったのは別の話。

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