第041話 評判

「っていうか私たち何もしてなくない?」

「ほんと、それ」

「よそってただけだよね」

「レイナちゃん一人でほとんどやっちゃったからせめて洗い物くらいやった方がいいんじゃない?」


 他の隊の人たちが話しているのが聞こえてきた。


 張り切り過ぎて皆のお仕事まで奪ってしまったかぁ。それは反省しないと。


 洗い物はしてもらおうかな?


「それでは洗い物はお願いできますか?」

「あ、そうだよね。分かった。フィールナの隊は休んでていいから!!」

「分かりました。よろしくお願いします。洗い終わったら、テーブルの上にでも置いておいてもらえれば大丈夫ですから」


 皆に配った物は使い捨てなので、洗うのは料理を入れていた寸胴とか容器くらいだから、普通に魔法で洗えばそんなに大変じゃないと思う。


 あっ、明日からお弁当にしようと思っていたんだけどどうしよう。使い捨ての容器だから配るだけで終わっちゃう。


 そうだ。ゴミの回収をやってもらえばいいか。そうしよう。


「私も何もしてないのだが、お言葉に甘えさせてもらおうか。皆行こう」

『了解』


 僕たちは割り当てられた部屋に向かう。


「レイナ、美味しかった」

「セルレさん、ありがとうございます」

「うむ。私も大変美味しく頂かせてもらったぞ?」


 セルレさんを皮切りに隊長も僕に礼を言う。他の二人も深く頷いている。


「そうですか? ありがとうございます」


 寮生だけじゃなくて他の人たちにも認めて貰えてうれしい。


「私がおかしいんですの? なんで皆普通に受け入れているんですの? 皆おかしくなったんですの? もしかして、レイナさんが洗脳魔法を?」


 マリーさんは何かブツブツ言っているけど、何やら凄く真剣な様子なので邪魔しないでおこう。


「カレーという料理は初めて食べたが、アレは良いものだな」

「カレーは至高」

「確か、アンドゥー国の料理だったかと。私もおばあちゃんも大好きな料理なので皆さんに受け入れてもらえて嬉しいです。でも今日出したのはカレーの中の1つ。バリエーションが沢山あるんですよ?」


 カレーは家庭ごとに違う味になる。皆の口に合ったようで僕も嬉しい。


 それにカレーは非常に奥深い料理だ。本当に沢山の種類がある。


「なんだと。そんなにあるのなら食べてみたいな」

「流石に毎日だと飽きるかもしれませんよ?」

「カレーは毎食でも飽きない」

「そうだな。毎食は言い過ぎかもしれないが、毎日でもいいくらいだ。他の隊員もそう言うと思うぞ?」


 僕は何日も続けてカレーだと飽きてしまうけど、そういう人もいるのか。


 二人きりで暮らしていた頃には気づかなかった。勉強になる。


「そうなんですか? それじゃあ、少しだけ頻度をあげましょうか」

「そうしてくれると嬉しいな。目的地に着くまで楽しみだ」

「分かりました。楽しみにしていてくださいね」


 要望があればそれに応えるのが寮母の務め。何処かのタイミングでカレー弁当を作りに行こう。

 

「なにこれ、すごーい!!」

「普通に住めそうじゃない?」

「このエントランス? 高級ホテルも真っ青じゃない?」

「大氾濫の鎮圧任務だって忘れそうになる」

「あっ。もしかしたら、これが最後の贅沢ってやつなのかも」

「ありえるー」


 マンションの入り口で戦闘部隊の人たちが楽しそうに話している。


 喜んでもらえているようで何よりだ。


「ていうか、さっきから力が漲ってヤバくない?」

「そうだよね、きのせいじゃないよね?」

「体の奥から魔力が沸き上がってきてる」

「それそれ、いつもの10倍くらいは出てるかも」

「絶対さっきの料理のせいだよね」

「レイナちゃん、だっけ? 何から何までヤバすぎ」


 確かに料理は力を付けてもらうために、いつもよりも獲ってくるのが大変な食材を調達してきた。


 いつもよりもほんのちょっとは力が出るとは思うけど、10倍なんてないない。本当に気休め程度だ。


「でも、やっぱりあのデザート。美味しかったなぁ」

「マジヤバかった」

「毎日食べたいかも」

「私もー」

「学園長にまた怒られるから引き抜きはできないの残念」

「毎日食べられる人は羨ましいなぁ」


 皆、毎日学食で美味しいデザートを食べているのに、僕の一般家庭のデザートを褒めてくれるなんて、なんて素晴らしい人たちなんだろう。


 できれば誰一人として欠けることなく、この大氾濫から帰ってきてほしいな。


 僕は戦うことはできないけど、微力ながら皆のお世話という点で応援させてもらいたいと思う。


 この遠征の間は沢山のデザートを食べてもらおう。


「なんでも、あのカトレア様の孫らしいよ」

「あぁ~、それならありだよね」

「そうそう。大賢者カトレア様だもんね」

「うんうん、カトレア様ならしゃーない」


 他の人から初めて婆ちゃんの話を聞くけど、婆ちゃんって人気だったんだなぁ。家では普通に畑仕事をしてのんびり暮らしているだけだったんだけど。


 なんだか少し誇らしい気持ちになった。


 至る所でそんな話を聞きながら割り当てられた部屋に辿り着いた。

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