第040話 野営?無双

 ん? どうかしたのかな?


 周りが随分と騒がしい気がする。


 あ、そうか。家ひとつじゃ足りなかったか。


 僕は野営地の奥の山を魔法で整備して、婆ちゃんに教わった集合住宅のマンションを10棟作り出した。一棟につき100部屋ある。合計で1000部屋。ひとつの部屋に1部隊6人で泊まれば、6000人まで収容可能だ。


「これでよし」

『はぁああああああああっ!?』


 おお、皆、夜泊まる家が出来て大興奮してるな。


 野営って特別感があってワクワクするよね。


「レイ、お主は何やっとんじゃああ!?」


 いち早く駆けつけてきた学園長。


「あっ。学園長!! 今日の宿泊施設を出しておきました」

「宿泊施設じゃとおおおお!? もう街みたいなのが出来上がってるじゃないのか!?」


 答えを聞いて学園長も興奮しているのが伝わってくる。


 反応を見て僕も嬉しくなる。


「数千人いますから、このくらいは普通ですよね」

「はぁ……そうじゃな。普通じゃな……」

「ですよね」

「初めて野営するものもいるはずじゃから使い方が分かるようにしておいてくれ。部屋割りもな」

「任せてください。すでに準備しています。料理と一緒に配りますね」

「う、うむ。頼んだぞ」


 学園長は少しはしゃぎ過ぎたのか少し肩を落として帰っていった。


 後で元気のでるドリンクを持って行ってあげよう。


 後は隊長さんに部屋番号と使い方マニュアルを渡しながら、皆の分の料理を提供すれば問題なし。


 この日のためにせっせと作りためていたから、この人数なら半年分くらいは在庫がある。


 皆が座れるだけのテーブルとイス、そして炊き出し台を用意した。これを後方部隊の人達と一緒に炊き出しのように配れば準備完了だ。


 ポケットから寸胴や惣菜を詰めた大きな容器を取り出してテーブルの上に並べていく。


『えぇえええええええええっ!?』


 うんうん、分かる分かる。


 今日はカレーだ。カレーの匂いを嗅いだら思わず叫んじゃうよね。


 僕も婆ちゃんも大好きだったからその気持ちは凄く分かるよ。


「レイナよ、私に代わり、後方部隊に指示を出すように」

「分かりました」


 僕はフィールナ隊長からの指名を受けて、炊き出し時に渡す部屋割りやマニュアルの件を加えて、皆さんに指示を出し、手分けして料理を配った。


 皆待ちきれないと思うので、持って行った人たちから食べてもらう。


「うっまぁ!! なんで冷めてないのかな!?」

「あっつ。おいし!!」

「美味過ぎますね、これ!!」

「もぐもぐもぐもぐ」


 皆が美味しそうに食べてくれて作った甲斐がある。


「いい味」

「なんですのこれは!! 味のジェットコースターですのぉおお!?」

「うむ。力が漲ってくる味だ」

「美味しいですね」

「うんうん」


 全員に配り終えた後、やっと僕たちもご飯にありつけた。


 いつもは10人もいないから、今日初めて数千人もの人に料理を振る舞ったけど、全然勝手が違うな。


 ちょっと皆に配るのに時間が掛かりすぎたので、これならお弁当にした方がいいかもしれない。


 明日からお弁当に入れ替えよう。


 残った料理はお代わり自由。


 人数の3倍以上の数を用意したはずなのに、その全てが食いつくされていた。


 皆良い食べっぷりだ。これからモンスター戦ってもらうのでぜひ力を付けてもらいたい。


「デザートがほしい人は取りに来てください!!」


 勿論、食後のデザートも完備。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 聞きつけた人たちが走ってきて砂煙を上げるほどだった。


 婆ちゃんが言っていた通り、女の人は皆甘いものが好きなんだなぁ。


 デザートもかなりの量を用意していたはずなのに、その全てを食いつくされてしまった。


 確か、甘いものは別腹、だったかな。とても的を射た名言だと思った。


「ちょっと、あなたウチで働きませんか?」

「ズルい!! 私も誘おうと思っていたのよ!!」

「私も私も!!」

「す、すみません、私は仕事をしているので……」

「私はそこの2倍お給料出すわ!!」

「私は3倍よ!!」

「私は5倍!!」


 その後、何故か僕をスカウトに来る人たちが溢れかえって、ちょっとした騒動になった。


「お主ら、何しに来たのか分かっておるのかぁああああああああっ!!」

『申し訳ありませんでした!!』


 学園長が一喝してくれたおかげで事なきを得た。


 こういう時の学園長は、地位相応の威厳を感じる。


 皆は隊長の指示の下、それぞれの部屋に足早に去っていった。


「レイ、お主ほかのところに行かぬよな? な?」


 その背中を見送った学園長が心配そうに僕に問いかける。


 僕なんかのデザートを喜んでくれるのは嬉しいけど、僕は寮母だ。学園には拾ってもらった恩があるし、皆によくしてもらっていて、毎日凄く楽しい。


 お金をいくら積まれたところで別の場所にいくつもりはない。


「勿論です」

「そうか、ならば良かった……それで一つ頼みがあるじゃが……」


 僕の返事を聞いて安堵した学園長がモジモジしながら言いよどむ。


「なんですか? 僕にできることならなんでも言ってください」


 学園長にはお世話になっているので、できるだけ要望に応えたいと思っている。何かあるならぜひ言ってほしかった。


「あの……ワシにもっとデザートをくれんかの?」

「分かりました」


 見た目相応に可愛らしい願いにくすっと笑いながら、僕はこっそりとデザートを渡した。

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