第031話 あれ、こんなドアあったっけ?

前話の最後の流れをご飯食べる前に変更しました。


■■■



「それじゃあ、お風呂いこっと」

「ワシも行こう」

「いってらっしゃい」


 マルを満足するまで構った皆がお風呂に向かう。


 喜んでくれるかな?


 僕は彼女たちの背中を見送った。



 ◆   ◆   ◆



 ワシは寮生の諸君と共にお風呂にやって来た。


「今日も疲れたねー」

「私はそうでもないわ」


 寮生たちが話をしながら体を洗う。私も皆の後に続く。


 ここにいるセルレ以外は発育が良くて主に胸の辺りがバルンバルンしておる。なぜ、ワシはこんなにツルツルペターンなんじゃろか。ワシこれでも皆よりも年上なんじゃが?


 はぁ……。


 虚しくなるので考えるのを止める。それよりも、レイがオーガの群れを壊滅させ、その帰りにまさかベヒーモスまで連れてくるとは思わなんだ。


 一瞬あの小さな姿に分からなかったが、内包している魔力が以前出会ったベヒーモスとそっくりだった。フェンリルから感じる魔力の強大さと似ているし、まず間違いないじゃろう。


 フェンリルだけでなく、ベヒーモスまで……。


 二匹の神級モンスターとそれを超える人間に守られているこの学園は、今世界で最も安全な場所と言えるじゃろうな。


「なんか今日のシャワー気持ちよくありませんか?」

「分かる」


 翡翠君の言葉にセルレ君が反応する。


 確かに今まで何かが違うように感じる。いや、よく見たらシャワーヘッドから何から何までなんらかの付与魔法が施されていた。


 そして、そこから出てくるお湯がいつもと少し違う匂いがする。そのお湯に当たった部分から疲れが溶けだしていくような気持ちになった。


「そ、それに、肌がもちもちしているような……」

「確かに!!」


 コクヨウ君とそれに反応するラピス君の言葉を聞いて、ワシも自分の肌を触ってみる。


 なるほど。言う通り、ツルツルスベスベになっているような気がする。


 それじゃあ、なんでこんなことに……いや、原因は分かっておる。


 レイしかおるまい。


 たった一日でこれほど劇的な変化を起こすのはレイが何かしたに違いない。何もしていないのであれば、ゆゆしき事態じゃ。


「あぁ~、体が溶ける~」

「私もですわ~」


 体を洗い終え、湯船に浸かった寮生たちが、まるで温泉にでも浸かったような顔になる。


 温泉?……温泉!!


 まさか!?


「あれれ~、おかしいぞ~? こんなところにドアなんてあったっけ?」

「い、いえ、なかったと思います……」

「ワシも記憶にないのう」


 ラピス君が浴場の奥にあった扉を見つけた。


 こんなものを付けた覚えはない。つまりこれもレイの仕業ということじゃ。


「開けてみよー!!」


 ラピス君が怖いもの知らずにあけ放つ。


 ワシの予想が正しければ、アレが外にあるはずじゃ。


「こ、これは温泉……!?」

「わぁ~、露天風呂だ~!!」

「はぁあああああああっ!?」


 思った通り、思った通りじゃが、叫ばずにはいられなかった。


 一日じゃぞ? たった一日でお風呂で使われているお湯が全て温泉になり、露天風呂まで完成している。


 しかもその露天風呂の完成度たるや、本場のヒノワ国のモノと遜色のない造りとなっていた。ちゃんと外から見えないように高い塀も造られている。


 ありえん、ありえんじゃろう? 普通。


 魔法や魔装、そして特殊能力をいくら駆使したところでたった一日でそんなことを実現できるやつをワシは知らん。


「あぁ~、すんごい気持ちいい~」

「そ、そうですね~……」


 ワシの驚愕など気にもせずに露天風呂に浸かり、ふやけた顔をするラピス君とコクヨウ君。


「あぁああああああっ」


 ワシもいちいち考えるのが面倒になってきて、湯船に浸かった。


「学園長先生、おやじくさーい」

「うるさいのう。これはおやじではなくても出るものなのじゃよ」


 ラピス君に揶揄われるが、そんなことはどうでもいいほどに気持ち良かった。


 体から悪いものが全て温泉に溶けだしていくような感覚。ただ浸かっているだけで、身体に溜まりに溜まった体の中から消えていく。


 気付けば、完全に骨抜きにされておった。


「なにこれ?」

「これは瓶に詰められた牛乳が入っている魔冷庫じゃな」


 ワシが脱衣所の隅に置いてあるものの説明をする。


 入る時は気付かなかった。


「くぅうううううっ!!」


 どこから持ってきたのか、食べ物を冷やして保存する魔冷庫があり、透明なケースの中にある瓶に詰められた三種類の牛乳で、火照った体に流し込むのは格別じゃった。


「このコーヒー牛乳最っ高!!」

「私はフルーツ牛乳」

「私はシンプルな牛乳が好きですね」


 寮生たちもワシの真似をして牛乳を飲む。しかも全種類。


 後でお腹を壊しても知らんぞ、ワシは。


 あれ、ここって旅館じゃったっけ? いや、違う学園の寮じゃ。そう勘違いしてもおかしくないほど完璧な温泉じゃった。


 

 ◆   ◆   ◆



「あっ、レイ君、とっても良いお湯だったよ!! まさか露天風呂まで出来てるなんて思わなかった!!」

「それなら良かったです」


 ラピスさんを筆頭に満足そうな顔をしていてとても嬉しい。


 学園長に相談して作った甲斐がある。


「って違うじゃろ、そこは!! なんで温泉ができておるんじゃ!?」

「それも学園長に相談しましたよ? やったれーって言ってました」

「何言ってんじゃよ、私……・」


 僕にツッコミを入れる学園長だが、僕の返事を聞いた後、四つん這いになって項垂れた。

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