第028話 カロリーゼロ!!
「どういうことなの!!」
「そうだよ、人は甘いものを沢山食べたら、太るんだよ?」
ルビィさんとラピスさんが詰め寄ってきて、後ろで他の三人が首を縦に振っている。
なんだか皆の表情からいつもよりも圧を感じる。
なんだっていうんだ……?
「ば、婆ちゃんが言うには、カロリーゼロって言ってましたね」
僕は皆の態度にたじたじになりながらも返事をした。
「カロリーがゼロ!?」
「そんなケーキが存在してるっていうの!?」
「ありえませんね」
「それは素晴らしいケーキ」
「だ、大福もカロリーゼロのならないかな……」
「カロリーゼロのブランデーケーキが食べたいのう」
そんなに驚くことかな。普通に作ったら、カロリーゼロのデザートになると思うんだけど。
「とにかくどんなに食べても太ったりしないので安心して下さい」
「やったぁ!! 僕、おわかり!!」
「私も!!」
改めて言い直したら、皆がこぞってケーキのお代わりをする。僕は再び皆に切り分けるお仕事をすることになった。
結構大きめに作ったケーキは簡単に食い尽くされてしまった。こんなことならもう少し作っておけばよかったな。
女の子の食欲を甘く見ていた。次からはもっと大きくしよう。
「あぁ~、満足満足」
「私も」
「これだけ食べて太らないなんて夢のようですね」
皆がお腹を擦りながら満足そうな顔をしている。
寮母をしていると、毎日皆のこんな顔が見れて心が温かくなる。もしかしたら、これが僕の天職なのかもしれない。
できればこのまま続けられたらいいのに……。
「あ、はいはーい。僕は絶対にレイ君に寮母を続けてほしいです!!」
僕の考えを知ってか知らずか、急にラピスさんが手を上げる。
「私もぜひレイさんに続けてほしいと思います」
「レイはここで寮母するべき」
「わ、私も皆と同じです……」
僕としては皆に認められて嬉しい。だけど、なんで急に……もしかして皆そんなにケーキを好きなのかな。
しかし、ただ一人、ラピスさんに賛同していない人が居た。
それは、ルビィさんだ。
僕も含め全員がルビィさんを見つめる。
彼女には最初に酷いことをしてしまったので、やっぱり僕なんかを寮母のするのは嫌なんだろうな。
試用期間中に彼女に認めてもらえなければ、僕は仕事を探さなければいけない。まだ期間が残っているとはいえ、自然と鼓動が速くなる。
「分かったわよ、分かったから、そんな目で私を見ないでよ。いいわ。私もレイが寮母を続けることに賛成する」
『やったぁ!!』
ルビィさんの答えを聞いた皆が嬉しそうにはしゃぐ。
「い、いいんですか? 僕はここで働いても……」
まさか認めてもらえると思っていなくて聞き返してしまう。
「か、勘違いしないでよね。皆があんたに働いてほしそうだから、仕方なく許可してあげるだけなんだから」
「勿論、分かってます!! これからも頑張りますね!!」
ルビィさんは渋々ながらだけど、僕が寮母の仕事を続けるのを認めてくれた。
今はまだルビィさん自身にちゃんと認めてもらえてないかもしれないけど、最初のとげとげしさは感じなくなったし、一歩前進。
これからルビィさん自身に認めてもらえるように頑張ろうと思う。
「うむ。これにてレイの試用期間を終わりとする。明日からは正式な寮母として働いてもらうから、そのつもりでの」
「はい、ありがとうございます」
僕はどうにか正式に寮母として認められることになった。
「それから、しばらくワシもこの寮で暮らすつもりじゃ。よしなにな」
『えぇえええええええっ!?』
その後の学園長の発言で場は騒然となった。
「それから寮生たちに話がある。お風呂についてくるように」
学園長はそう言い残してお風呂へと向かう。ちゃっかりお風呂道具を持って来ている辺り、元々そういうつもりだったらしい。
寮生の皆は学園長の後に続いた。
◆ ◆ ◆
レイが正式に寮母として働くことになった。それはいい。だけど、学園長までこの寮に住むことになるとは驚きだった。
いやでも、その気持ちは分かる。だってあの料理とデザートを出されたら、ここ以外に行きたくなくなるから。
私たちの胃袋はすっかりレイに掴まれてしまっていた。
すでに一度入った私たちは、一度かけ湯をして湯船に浸かる。寮のお風呂は十五人は軽く入れるくらいには広い。
体を洗い終わった学園長は、とっくりとおちょこの入った桶を持って来て、湯船に浸かって飲み始める。
「かぁ~、酒を飲まずにはやってられん!!」
ぐびぐび飲んで気分がよさそうだ。
「どうかしたんですか?」
「うむ。今日フェンリルの件があったと思うがな。フェンリルを連れてきたのはレイじゃ」
『えぇえええええええっ!?』
あまりに衝撃的な内容に私たちは声を揃えて驚く。
なんでアイツがフェンリルを……。
学園長の話を聞くと、なんでも私に弁当を届けた後に見つけて手なずけたらしい。オークエンペラーと言い、フェンリルと言い、高ランクのモンスターをあっさり倒してしまうレイの力は異常だ。
「しかもフェンリルはこの寮にいる」
「え……それってまさかユキちゃんですか?」
該当する存在はそれ以外に居ない。俄かには信じがたいけど、学園長が私たちに嘘を付く理由もないし、多分本当なんだと思う。
「そうじゃ。ユキはフェンリルが小さくなった姿じゃ」
「そんなことって……」
「あんなに可愛いのに」
「凄い」
私以外の寮生たちもセルレ以外は驚いている。セルレだけは無表情で分かりづらいけど、ウキウキしていた。
「あやつがフェンリルを連れてきた時は肝を冷やしたわ。しかもフェンリルは完全に手なずけられていてレイに従順になっていた。神級モンスターのテイムなど聞いたことがない。本当にあやつはわけわからん」
「あぁ~、その気持ちは私も分かります」
学園長の話は私にも身に覚えがあるので、まるで自分事のようによく分かった。
「おおっ、わかってくれるか、ルビィ君!!」
「はい、私も今日、依頼に失敗しそうになったんですが、レイが一瞬にして消し去ってしまいまして……」
「そうじゃろそうじゃろ。あやつはやることなすことおかしいのに、本人に全くその自覚が足らん!!」
「はい。学園長の言う通りだと思います」
本当にやることなすこと全部規格外過ぎて全くついていけない。
何とかしてアイツに常識という物を教えなければならないと思う。
「それでお主たちへの話じゃが、あやつが規格外なのはよく分かったと思う。そして、あれほどの人材を他にとられるわけにはいかん。だからお主達に協力してほしい」
「私たちは何をすれば?」
学園長の言うことは分かる。レイは他国どころか他の領地にも、他の仕事にも奪われるわけにはいかない。
レイは異常な力を持ち、それだけにたった一人ですべてを覆しうる劇薬。他に渡ったら、何が起こるか分からない。
そのためなら協力は惜しまないつもり。
「別に大したことではない。レイと仲良くしてくれればそれでええ」
「それだけですか?」
身構えていただけに、学園長から提示された内容は拍子抜けだった。
あれだけの存在をつなぎとめるのに、たったそれだけでいいのかと逆に不安になる。
「うむ。いや勿論、もしレイが気に入ったのであれば、この中の誰かが結婚しても構わんよ?」
しかし、続けられた言葉は、私だけでなく、全員に衝撃を与えた。
◆ ◆ ◆
お風呂から上がって来た寮生たちはなんだかよそよそしい雰囲気を出している。
何かあったんだろうか……いや、今はそんなことよりもやらなければいけないことがある。
「学園長すみません。相談があるんですが……」
「なんじゃ?」
僕はかねてよりやりたいと思っていた話をする。
「おーう。好きにやれ。ワシが許可する」
「そうですか。ありがとうございます」
思ったよりもあっさり許可が出たので明日から進めることに決めた。
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