つながる世界を求めて生きるステラたちについての話

@srismimsk55

1-1-1-50 ワタルの負け戦 ワタル視点

俺は王城の伏魔殿へと乗り込んだ。ハジュンは男女共に座して待っていた。伏魔殿には、男女のハジュンと俺以外はいなかった。

 

 俺は剣を取り出した。


「ハジュン、お前を殺す!」と大声で言った。


「私もそれなりに抵抗はしようと思いますが、簡単に切られてしまうでしょう」と2人とも言った。


「ああ、そうだな」と、俺は剣から流れる血を見ていた。


 男のほうのハジュンを切った。すぐに女のほうのハジュンも切った。


 ハジュンが切られて息もしなくなる。歯応えが無さすぎる。


「これはこれで怖いな」


 俺が瞬きする間に、世界が変わった。

 

「ワタル! まだ寝てるの?」


ーーーお母さん?ーーーって、あれ声が出ない。


「お兄ちゃん! 何してるの」

  

---マリアか?--- どうしてか声が出ない。


「って……ワタル!! ワタル!!」


 お母さんの声が聞こえるが何があったのか分からない。このまま、時が過ぎていく。


「まさかこんなことになるなんて思ってなかったです」


 テレビから音声が聞こえる。妹のマリアの声のような気がする。


「ううううう………」


 やっぱりマリアが泣いているのか。


 俺は寝ているのか……。ここは……白いなあ……。

 

 そして、時間があっという間に過ぎていく。


「お兄ちゃん、元気にしてる? 私、お嫁さんになったんだよ」


 マリアの声だけが聞こえる。マリア、いつの間に、お嫁さんになったんだよ。そしてまた、時は早く過ぎる。


「お兄ちゃん、私、子供が生まれたの」


 マリア、おめでとう……。そう言いたいが、何も言えない。

 時は早く過ぎていった。


「今日は、お兄ちゃんの誕生日だねって……ああ!」


 "パリーンッ! ガタンッ!

 ガラガラガラ!!!……"


 何の音だろう。すごい音だ。ガラスが割れたのか?


「地震だ!」と誰かの声が聞こえる。


 地震!?

 大丈夫かな……


「みんな無事だよ。まだ揺れてるから気をつけないと」


 マリアの声が聞こえる。


 地震いつまで続くんだろう。


"ガタガタガタン!!!"


 まだ続いているのか。

 眩しい……。


「あっ!お兄ちゃん!」


 目が覚めたようだ。


 俺はずっと夢を見ていたそうだ。悪い夢だった。


「異世界に行った夢を見たよ。」と小声で言った。

のどが苦しく声が出ない。


「しゃべらないで。今、色々大変な状況なの」

しばらく沈黙が続く。


「お兄ちゃん、助かって良かったよ」


 本当に長い夢だった。


 俺はベッドの上にいた。


 10年くらい寝ていたようだ。


 自然と涙が流れる。


「マリア……」 


「何?」


「声、聞こえてたよ。ありがとう……そしておめでとう……」


「お兄ちゃん……」


 お母さんも来た。

 お父さんも……。


 俺は幸せな家に生まれたようだ。


「俺、ずっとこの世界に生きたいな……」


「私たちもワタルがいれば幸せだよ」


 お母さんもお父さんもマリアも泣いていた。


 そんな折、固定されているテレビから流れるニュースでいきなり「こうした運動は、議会制民主主義を冒涜する行為です」と声が聞こえてきた。

何かの記者会見が開かれていた。

 

 日本のニュースだ。って、そういえばここはどこなんだろう……。


「ここはどこなんだ?」と聞くと、マリアは「東京だよ」と答えた。


「ははは。それなら、地震のニュースをするだろう」


 マリアは落ち着いた顔をしている。妹……そう思っていたが、やっぱり、母親になると変わるのかもしれないな。

 

「……今は、戦争中でね。地震じゃなかったみたいだよ。速報を調べたら、核兵器落とされたみたい」


「あははは……そんなわけ……」


 俺は笑うしかなかった。いや、笑える。憲法第9条はどうなったんだよと、ツッコミを入れたくなったが、マリアの表情は悲しげだったために、口を閉じた。


「面白いよね……10年前は戦争なんて、起きる起きるとしか思われてなかった。でも、半年前から本当に起きてさ、みんな目の色変えて『敵国人を皆殺しにしろ』とか『平和主義者は非国民』とか言い出したんだよ」

 

 マリアは表情を曇らせた。悔しそうにしている。

 本当なのか?

 次のニュースでは、ロボット対ロボットの銃撃戦のニュースが流れている。兵士だけでなく、一般市民も犠牲になっているそうだ。


 今度は国会議事堂だ。


 大勢の人が集まっている。


 あっ……サルだ。あだ名でサルと呼んでいた友達。

彼の裏切りにあった。


 サルは「平和主義を世界に広げよう!戦争反対!戦争反対!」と叫んでいた。


 もう10年か……。


「みんなどうしてるんだろうな」


「お兄ちゃんは、知らないでいいよ……あの時お兄ちゃんを苦しめていた人たちが始めたんだよ……ううううう」


 えっ……。

 マリアは泣いている。これ、現実なんだ……。

 現実とはいえ、この世界もおかしいだろ。いや、みんな。俺の世界どうなったんだよ。すると、遠くなのか近くなのか分からないが、どこからか音が聞こえる。突然家族が俺を守るように抱きかかえた。


「お兄ちゃん……ずっと一緒だよ」


「ワタル、生まれてきてくれてありがとう」


「ワタル、俺たち何もできなくてごめんな……」


 ベッドが吹き飛び、俺は跡形も無くなった。


 無であり、有である世界。無でもなく有でもない世界。これが死なのかもしれない。


 地球が見える……そこら中、光っている。


「こんなにも光っているのに……そこに命は無い……」


「あははは!!」


「ハジュン?」



「みんな楽しんでいるね」


「ハジュン……」


 俺は2度同じことを言った。


「あははは!!」


 ハジュンは……いちゃダメなやつだったんだ……。


「お兄ちゃん」


 マリアの声がする。


「ワタル」


 お母さん、お父さんの声がする。


「申し訳ないワタル!」


 サルの声がする。


「サル!てめえ!」


「みんな死んだんだよ」


 ああ、そうだよな。


「みんな楽しかったよ。ありがとう」


 ハジュンがお礼を言った。


「……」誰も何も言わない。


「ワタル……平和な世界を頼んだよ」


「俺は主人公じゃないんだよ。そんなことできないよ。もう世界滅んだじゃん」


「ワタル。まだ終わってないよ。今生きている場所で今生きている人としての使命はまだ終わってないよ」


「お父さん」


「そうよ。私たち待ってたんだよ。でも、私たちが待っていても、時の流れは待ってくれなかったみたい……。ワタル、ラージュとして生まれた世界を見捨てないで……」


「ラージュ?」


「お兄ちゃんの新しい名前だよ。ラージュ。私たちは死んでいるから分かるんだよ。家族と仲間が、導いてくれるよ。お兄ちゃん頭良いんだから、どうすればいいか分かるよね」


「マリアがそう言うなら……」


「俺よりタチの悪い奴の相手なんてするなよ。お前らしくない。負けるなよ。もっと強い奴と一緒に生きろよ」


「サル……お前には言われたくないけど、ありがとう」


 ハジュンは笑っている。


「ハジュン!お前には絶対負けねえからな!待ってろよ!」


 ハジュンは、まだ笑っている。


「あははは!! 人類の皆さん、地球の素晴らしく楽しげな姿を見せてくれてありがとう。ワタル、どの世界だってみんなが楽しめる世界にするのが私の楽しみだから。まあ、楽しんでいこうね。君が私を召喚した世界でも!」


 目が覚めると王城の外にいた。俺はハジュンに負けたんだ。いや、俺の生きていた世界では、誰一人勝てなかったんだ。


 人類はハジュンに勝てなかったんだ……。

 人類は第六天の魔王に敗北した。


「ごめんな。マリア。ごめんなさい。お母さん。ごめんなさい。お父さん。ごめんなさい。サル……ごめんなさい。俺の同級生たち……ごめんなさい……俺の生きていた世界の人たち……ごめんなさい。ごめんなさい……」


 泣きながら歩いた。


 みんな楽しいわけがない……。


 この世界も……俺が神になろうとしたばっかりにこうなったんだ。


 俺が変わるんだ。

 

 俺が人間として生きる場なんだ。 


 ラージュ……それが俺の名前なら、その名前で使命に生きてみせよう。

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