第1曲 君の脈で踊りたかった(ピコン) 

タイトル:君の脈で踊りたかった/ピコン 初音ミク

ジャンル:ボカロ

URL 【 https://www.youtube.com/watch?v=O0IKk2C4kzg 】

曲構成 Intro/①Aメロ→サビ/間奏/②Aメロ→サビ/間奏/③落サビ→サビ/Outro

英語タイトル I wanted to dance in your pulse


 新しい解釈シリーズです。こんにちは、蓬葉です。


 今回紹介する曲は、私の高校時代最末期、大学受験後、帰りの電車で聴いていた記憶のあるピコンさんの曲「君の脈で踊りたかった」になります。

 この曲は、解釈の必要があるか微妙なくらい、読み取りがしやすい歌詞に見えますが、深く読んでみるのも面白いかもしれないと思い、試みることとしました。

 堅苦しいのはここまでにして、さっそく本題に行きましょう。



⓪哀傷歌か恋愛曲か

 この曲は哀傷歌(亡くなった人を思う歌)とするのが一般的です。私自身、それに異論はありません。タイトルがタイトルですし、曲調もそうですし。しかし、たいていの哀傷歌がそうであるように、とらえ方によっては失恋曲にも見えます。


 私は哀傷歌と失恋曲は、誰かが自分の前から去ったという事実が共通してあるため、ともに離別曲であると考えています。

 曲や歌詞、PVなどの表現の程度によって視聴者はどちらかを判断して聴き続けることとなりますが、なかには判断が難しい曲もありますよね。それについてはのちのちそういう曲が出て来た時に改めて考えることにしましょう。

 

 さて、今回のこの曲に関してですが、これはほぼ哀傷歌と考えてよさそうです。

 これは恐らく初見の人、あるいは曲を聴いていない人でもそう思うのではないかと思います。

 なぜそうなるのか。



 そうです。「脈」という単語です。


 この単語は、仮に恋愛曲で使われるとするなら「脈がある」あるいは「脈がない」、つまり恋が成就する可能性があるかないかという文脈で使われるでしょう。


 この曲をそちら側で解釈するなら、恋が成就してほしかったという失恋曲になるでしょうが、そうなると「形の見えない君」「抱きしめてよ」「側にいて」という歌詞に違和感が生じます。失恋した相手に「抱きしめてよ」と懇願するのは……少し、考えづらいです。というか嫌です。


 他の歌詞との整合性や曲調も踏まえ、今回は哀傷歌として解釈します。




①君との会話も忘れていく

 哀傷歌と定義してこの曲を聴くと、実は解釈がなくても大体の意味を理解することができます。


 今は亡き「君」を夢で見た主人公が夢から覚めてため息を吐く様子からこの曲は始まります。

 サビではそんな形も見えなくなった「君」にいまだすがりつく主人公が描かれ、間奏へと入ります。

 

 2番Aメロの歌詞は、「さよならからまだ始まらない」、つまり離別からまだ進むことができていない様子が歌われます。

 1番までの歌詞との連続がありますが、しかし後半、様相が変わります。


 「君との会話も忘れていく」


 ここまで、明らかに主人公が「君」にすがりついてることが歌われてきたわけですが、一方、その「君」との会話を忘れていっている。

 つまり、ずっと過去を見ているのに、足は少しずつ前に進んでいるということです。後ろ歩きで、前に進んでいるのです。この歌詞が持つ悲愴感はそこにあります。

 

 

 さらに、この曲では主人公に一人称がありません。これ自体は、特段変なことではないのですが、その分、「君」という二人称に寄りかかって生きてきた、あるいは今もそうして生きていることが強く歌われています。この点は、後編でまた触れます。


 ともかく、そうだからこそ、2番Aメロのこの歌詞は痛々しいまでの一節になっているのです。寄りかかっているものはそのままそこにあるのに(あるはずなのに)、段々離れていく。その原因は相手ではなく自分にあるわけですから。

「側にいて」と繰り返し言っているのに、そうでなくなってしまう理由は自分にあるわけですから。

 


 しかも、「会話『も』忘れていく」となっているからには、他にも忘れてっていることがあるはずで、それは、例えば「君」の「形」であったり、声だったりするのかもしれません。しかし、私としてはもう一つ想像してみました。それもまた後編で。


 

 哀傷歌。亡き「君」にすがりつく主人公。

 前編はここまでにして、後編では二番サビの歌詞「今に負けそうだ」と、タイトルについてまた解釈していきたいと思います。










(※ここから後編)




 前編では、

 この曲を哀傷歌とすること、二番Aメロ歌詞「君との会話も忘れていく」、「主体性に乏しい主人公、の三つについて述べました。


 後編は、残された部分について考察していきます。


①今に負けそうだ

 二番のサビにはこんな歌詞があります。

 これは二通り解釈が出来そうです。


 Ⅰ 今(=現在)に負けそう

 Ⅱ いまに(=それほど時間の経たないうちに)負けそうだ


 Ⅱについては「今に見ていろ」の「今に」です。

 確かにどちらともとれるように思えます。YouTubeのコメント欄にも同じようなコメントがあったような気がしますが、私としてはⅠを推したいと思います。

 

 というのも、前編で述べた通り、主人公は「君」との会話などもろもろを、時間が経つにつれ日々が過ぎるにつれ、忘れて行ってしまっているからです。

 であるなら「今に負ける」とは、時の経過によって君を忘れるということになるでしょう。


 ただしこの解釈は、難易度はあがるもののⅡの読み方でも成り立ちます。難易度が上がるというのは、Ⅱのパターンでは何に負けるかがわかりづらくなってしまうためですね。補うならこんな感じです。


Ⅱ (何かに)いまに(=それほど時間の経たないうちに)負けそうだ


 ともかく、これは前編に述べたこととリンクしているわけですね。



②君の脈で踊りたかった

 この曲は最初に言った通り、哀傷歌であるとしてしまえば曲調も相まって、歌詞の大略がわかります。

 前編から考察や解釈をしてきましたし、わざわざ見に来た方はそれを求めているはずで、それを言ったら本末転倒じゃないかと思うかもしれませんね。

 ですが、実際そうだと思います。


 しかし、私には不思議な歌詞がありました。それが、タイトルにもなっている「君の脈で踊りたかった」です。


 この歌詞、不思議ですし難解じゃないですか? 

 なのにググってもYouTubeのコメント欄を見てもこれについて語っているものはありませんでした。私が鈍感なのかもしれませんが……。


 いや、大体の意味は解りますよ。きっと「君」と一緒に生きたかったってことなんだろうなと。

 でもそれは抽象的な答えであって、「脈で踊る」という表現の本質には触れていない気がしたのです。


 

 そこで色々と思いを巡らせてみたところ、一つ気づきました。


 この曲って、ほぼ例外なくずっと指パッチンのようなカスタネットのような音が聞こえているんです。今の音の表現からもわかると思いますが、私は音楽に関しては知識がないです。

 しかし、それでも一つわかるのは、この音が、曲のリズムから少し外れてるんです。

 

 ドラムとかのあのテンポづくりがこの音の意味ではない? とするなら、なんの音なのか。

 私はこれこそが「君の脈」なんじゃないかと思いました。


 そして、これまでの、「君」に寄りかかる主人公や、「君との会話『も』忘れていく」という歌詞についての考察を今一度振り返ると、「君の脈で踊る」という表現もわかってくる気がします。


 「君の脈で踊りたかった」


 「君の脈拍で踊りたかった(=生きたかった)」


 それは「君のリズムに『合わせて』踊りたかった(=生きたかった)」ということなのではないかと思ったのです。

 それであるなら、「君」へすがりつく主人公像とも繋がりますから。今現在、それを忘れていっているわけですが。


 さらに、忘れているのは「会話」だけではなかったですよね。私は忘れたものに「君の脈」も入るのではないかと考えています。

 主人公にとって「君」は相当大切な人物で、近い人物だったでしょう。脈拍が伝わるほど互いを愛したことでしょう。

 しかしそれを忘れてしまう。「君」はもういない。


 「君の脈で踊りたかった」


 その言葉自体は、やはり「君」に寄りかかっているけれど、それでも主人公がはじめて望んだものだったはずです。

 そんな願いが奪われてしまった。

  

 この曲には、そんな無念さが込められているように思えてなりません。










 ここまでの閲覧ありがとうございます。

 これはあくまで解釈の一端であることをここに記しておきます。

 

 なかなかいないと思いますが、まだ聞いていないけれど……と言う方がいれば、ぜひ聞いてみてください。蓬葉でした。 

 

URL 【 https://www.youtube.com/watch?v=O0IKk2C4kzg 】

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