序章:幼き日の夢

「私、天葉のお母さんと話したんだー」

これは小学校2年生の時の出来事。

ー初めて天葉と話した日だ。

「あのワサビ」

お母さんの事をワサビと言うくらいだから、もしかするとお母さんが厳しいのかも知れない。

でも笑顔だし、本当はお母さんが好きなのだろう。

私は微笑んで、天葉のそばから離れたー。


「っ…」

私はハッと目を開けた。

天葉が夢に出てきた。動悸がして身体から冷や汗が噴き出している。

ー思い出したくもない。

もう天葉は死んだのに、なんでこんな夢を見るの…。

頭には、可愛らしい顔で笑う幼い天葉が、こびりついて離れなかった。

そしてしばらくすると、山下公園で話した時の成長した天葉が現れた。

「俺の親、高校の教師だったんだけど、今は養護所で働いてる」

「親の話とかするのマジで嫌い」

そう言って何かを必死に拒絶している彼が最後にー。

「お前が一番嫌いだ」

そう断言した。

「やだぁぁぁっーーーーーーーーーー」

ー私はハッと目を開けた。

それから二度と、天葉が現れる事は無かった。

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