「父上、母上。僕は鬼退治のため、町に向かいます」

「おお、気をつけていくんじゃぞ」

　老夫婦と桃太郎はスムーズな会話をしていた。それもそのはず、若き神が前日の夜、夢の中で言い聞かせていたからだ。洗脳に近いが、仕方がないことなのだ。そして若き神は、寝ている桃太郎の枕元に、『日本一』ののぼり旗、それなりに良い服、刀の模造品をそっとプレゼントしていた。

「母上、きび団子をもらいたいのですが……」

「ほれ、これを持っておいき」

　小麦粉を水で練って、丸めて、湯がいて、大豆の粉を大量にまぶした、パサパサの団子だった。若き神は思った。きび団子……、だな、ぎりセーフ。

　かくして桃太郎は老婆からパサパサの団子をもらうと、勇ましく家を出た。しばらく山道を下っていると、野犬が急に飛び出してきた。若き神はチャンスだと思った。犬を仲間にしなくてはならないからだ。

『桃太郎よ、その犬を仲間にするのです』

「犬を仲間に！？　どうしてです……？」

　台本『桃太郎』にそう書いてあるからだ、とは言えない。

『だ、大事な、過程だからです。きび団子を食べさせれば仲間になりますよ』

「分かりました！」

　聞き分けのいい桃太郎に、野犬が大きな口を開け襲いかかる。だが桃太郎は『武術の天才スキル』があるので華麗にかわした。そして、大豆の粉まみれのパサパサ団子を大きな口へ放り投げた。

「ゴフッ！？　ゴフッ！？（まずい！？　く、口がパサパサするぅぅ！？）」

　犬はしきりにむせ苦しむばかり。

「仲間になる素振りを見せませんね？」

『もっと食べさせるのです』

「ワウッ！？　ワウッ！？（や、やめてくれぇ！　口の中に入れないで、そのパサパサした不味いもの！！）」

『犬よ、目の前にいる少年、桃太郎の仲間になるのです』

「ワウッ！？（だ、誰だ！？　ふざけんな！　なんで俺様がこいつの仲間に！）」

『いいのですか？　でないと、あなたはずっとそのパサパサした団子を食わされることに……』

「ワウッ！？（わ、わかった！！　な、仲間になるぅぅーッ！！）」

　こうして、無事に犬が仲間になった。次は猿が必要らしい。すると、野生の猿がちょうど通りかかった。

『桃太郎、あの猿も仲間にする必要があります』

「わかりました！」

　桃太郎は猿めがけて駆け出した。そして、猿の口元に無理やりパサパサの団子を押し付けた。

「キャッキャッ！？（なんやいきなりッ！？　ま、マズッ！？　く、口の中がパサパサするぅぅぅ！？）」

『猿よ、桃太郎の仲間になるのです。その団子をずっと食いたくないのなら……』

　こうして猿も無事に仲間になった。そして、

「ケンケン！！（なにその団子みたいなの！？　てかまずこれ！？　口がパサパサするぅぅぅ！？）」

　雉もいわずもがな、無事に必要な仲間が揃ったのだった。

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