地球温暖化 ~71歳の誕生日に想う~


 五一年前の今日、滋賀県の蓬莱ほうらい山(標高一一七四㍍)に

雪が降った。

 なぜ、そんなことを覚えているのか。一一月七日は私の誕生日である。二〇歳を山で迎えようと、友人と蓬莱山でキャンプしたからだ。


 ◆雨のち雪

 思いたったら自制がきかない性格だった。天気予報などお構いなしに出かけた。


 暗くなりかけたので、琵琶湖に臨む山頂近くにテントを張った。夜になって、雨が降り出した。雨はいや増しに強くなり、容赦なくテントに叩きつける。

 寝る位置をクジ引きで決めた。風上と風下では、天地ほどの差があったからだ。クジ運に恵まれた私は静かに寝息を立てていた、に違いない。


 ◆すわ、一大事

 真夜中にシュラフ(寝袋)に水が入ってきた。たまらず飛び起きた。風向きが変わっていたのである。

 全員起き、固形燃料を燃やして暖を取った。歯がガチガチ鳴った。後にも先にも、非常食のチョコレートに手を付けたのはこの時だけだった。


 魔の一夜が明けた。翌朝遅く、目を覚ました。テントからのぞいてみると、まわりはうっすらと雪化粧していた。

 少し先には窪地があった。さらに先にはなんとロープウェーがあり、軽装の男女がハイキングに来ていた。


 ◆流れる水も凍る

「昔はよく雪が降った」

 ある程度の年配者の口癖である。

 それに、寒かった。

 私の生まれた村でも、茅葺かやぶき屋根から大きな氷柱つららがぶら下がっていた。突っつくと、音を立てて地面に落下した。


 山奥なので川も凍った。小石を投げると、カランカランという乾いた音が、山あいに木魂こだましていた。


 ◆崩した自然のバランス

 田舎の自然は、すっかり姿を変えた。

 めったに大雪は降らなくなった。代わって、大雨はよく降るようになった。

 悪いことに、雑木林を伐採して、杉やヒノキが植林された。戦後の国土緑化計画によるものらしい。


 しかし、広葉樹を中心とした、いわゆる「雑木」が地中深く根を張るのに対し、杉やヒノキの針葉樹は地表近くにしか根を広げない。雨が降ると、広葉樹林では地中に雨水を貯える。しかし、針葉樹林では雨水は地表を流れ、大雨の場合、土石流となって襲ってくる。


 その一方で、普段は少雨なので渇水状態にある。谷の水は涸れ、ほとんど干上がった川も目につくようになった。広葉樹と針葉樹の自然のバランスを崩してしまったツケが、ここにも回ってきたのである。


 ◆カウントダウン

「国破れて山河あり」

 世の中がどう変わろうと、自然はいつまでも変わらぬ姿をとどめている、というのは幻想だった。


 この半世紀ほどで、人類は時計の針を、とてつもなく進ませてしまった気がしてならない。

 環境問題は、先進国も途上国もない、人類共通の課題だ。もちろん、老人も若者もない。年寄りが、青春のほろ苦い思い出に浸っている場合では、ないのである。

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