方向音痴な主人公、今日も事件に迷い込む
こと。
1-1
ガサガサガサ
お金持ちのパーティーに招待された資産家一人息子の
「離して!」
嫌な予感がして草花の隙間から様子を窺うと、豊かな黒髪を後ろに流した気の強そうな女性が、今まさに大柄な二人の男に誘拐されている現場であった。最悪なことに、智成は誘拐犯の一人に認識されてしまった。
(またか……)
「おい、出てこい!」
拳銃をこちらに向けられ、智成は
「こいつも金持ちのようだ。連れて行くぞ!」
「だな、今日はついてるぜ!」
智成は目がぎょろっとした方の誘拐犯の男にロープで縛られ、拳銃で脅されながら全員で敷地外にある車の前までやってきた。智成は車に乗る時、足が縺れて正面から車の方向に倒れ込んだ。
バタン!
誘拐犯はかわいそうなものを見るように智成を見遣ると、首根っこを掴んで車に放り込んだ。
車に乗せられた二人は誘拐犯に目隠しをつけられ、突然車が発進した衝撃で智成は座席に頭をぶつけた。
ガンッ
「いてて……」
「大丈夫、ですか?」
「(誘拐されて)大丈夫じゃないです」
「ですよね……。(相当痛かったんだろうな)」
二人は小声で会話をしていると、誘拐犯がバックミラー越しにその様子を見ていることに気づかなかった。
「おい、坊ちゃんに嬢ちゃん。楽しそーな会話してんなぁ」
「高田、“かわいそうな”の間違いだろ?」
「ぷっ、確かにな。中川の言う通りだぜ!」
どうやら、目がぎょろっとしたのが高田で、眉毛もアイデンティティも薄いのが中川というらしい。ご丁寧にそこそこの時間をかけて、自己紹介をしてくれた。
「これからも よ ろ し く な 。お嬢ちゃんにお坊ちゃん」
高田が嫌味ったらしくそう言うと、車が急停止した。
「おっ、着いたか」
「……お前達、ボスの機嫌を損ねたら死ぬぞ」
中川は不穏な言葉を呟くと、高田が智成の目隠しを外して車の外に放り出した。突然視界が開けた智成は、瞬きをして辺りを見渡すと、目の前には立派な洋館が、魔王城のような雰囲気を漂わせて佇んでいた。
女性も同様に外に出されると、再び拳銃を突きつけられ、二人は屋敷の方向へ誘導された。
「……なんだ?」
四人が屋敷に近づくにつれ、屋敷から聞こえるざわめきが大きくなった。中川と高田は首を捻るも、そのまま二人を屋敷の中へ連れて行った。
屋敷に入ると、ヤクザ達は慌ただしく走り回っていた。中川はその中の一人、下っ端の森谷を大声で呼び止めた。
「おい、森谷! 何があった?」
「中川の兄貴! じ、実は、ボスが……!」
森谷に促されてボスの部屋に行った四人は、大勢の人が囲んでいる中心で、うつ伏せのまま死んでいる大柄な男性の死体を発見するのだった。
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