第4話
翌朝、ゼフィアは気持ちよく目を覚めした。
あれからまた熟睡していたらしく、寝る前の記憶がひどく曖昧だった。
ベッドからゆっくり立ち上がり、足を踏み出す。昨日とは違って足の感覚がはっきりしていて今日は役に立てると嬉しくなった。
机の上にゼフィアが村から持ってきた包みがそのまま置かれており、ハリーの気遣いに感謝する。
包みを開けてると、村から持ってきた一張羅と、それから清潔感はあるが古ぼけた印象のあるスカートとシャツがあった。少しだけ考えたが、料理するのだと、古ぼけたほうの服を取り出して着替えた。
髪を結んでから扉をゆっくり開ける。
(ハリー様?!)
考えればわかるのに、どうやらゼフィアがベッドを使ってしまったため、ハリーは床で寝てしまったらしい。寝袋にくるまった状態の彼を発見する。
(ごめんなさい)
本当は今すぐ謝罪したいが、熟睡している彼を起こすのはもっとよくないと思い、扉をゆっくり閉めると台所へ向かう。
ハリーの部屋は寝室が一つ、玄関から広がっている居間が一つ、奥は台所という作りだった。
かまどは火が完全に消えていて、ゼフィアはかなりがっかりした。
火を起こす作業は時間がかかるのだ。
けれども暖かいものを作ってあげたいと火打石を探す。
火の魔法を使えれば、きっと簡単に火を起こすことができるのであろう。けれども村にはそんな存在がいなかった。なので村では火の番がいた。村の端っこの小屋に大きなかまどを置き、火を一年中絶やさず燃やしている。火の番は成人した男子に義務付けられたもので、絶やさないように順番に火の番を務める。村人は大かまどから火をもらい、自分の家のかまどで料理をしていた。
そんな事情もあって火を起こす作業は村では必要なかった。けれども知っていたほうがいいと親は子に火の起こし方を教える。それは実践を兼ねたもので、ゼフィアもしたことがあった。
(火打石と、燃えやすそうなもの)
「ゼフィア、起きたのか?」
「ハリー様!」
キョロキョロと探しているうちに、ハリーを起こしてしまったようだった。
(ああ、これでは待たせてしまう)
がっかりした表情が顔に出ていたらしい、ハリーは苦笑した。
「心配するな。起きたばっかりだ。腹はまだ減っていない。かまどに火をいれたいんだろう?まってろ」
ハリーはゼフィアのすぐ側まできて、かまどに手を翳した。
「すごい!」
小さな炎がハリーの手からこぼれるように落ちて、かまどに火が灯る。
「ハリー様は魔法が使えるのですね!」
ゼフィアが魔法を見たのは
「ああ、まあな」
ハリーは曖昧に笑う。
「朝食を作りますね。やっとお礼ができます。ベッドも使ってしまってすみません」
「また、謝ってる。だから謝るなって。朝食は頼んだからな」
「はい!」
ゼフィアが寝ているうちに食材を買い込んでいたらしく、ハムにソーセージ、卵にチーズ、ニンジンにじゃがいもと豊富な素材が揃っていた。
待たせるわけにはいかないけど、栄養満点なものが作りたいと野菜やソーセージを細かく切ってスープを作り、炒り卵にパンを添えた。
「腹、減った。ありがとう」
「手の込んだものは作れなかったですけど、味は保証します」
「いい香りだ。きっとうまいぞ」
昨日張り切っていたような料理にはならなかったので、昼食にはもっとしっかりしたものを作ろうと決める。ハリーが魔法を使えるとはいえ、何度もお世話になるわけにはいかないとかまどの火は残したままだった。
(昼食。先のことを考えすぎね。早くオリバー様のことを聞いて問題解決するのが先なのに)
「どうした?」
「いえ、あの」
ハリーとこうして一緒に食事をするのが楽しくて、なぜかオリバーのことを聞けない。
そんな自分がちょっと嫌で自嘲してしまったのを、ハリーには気づかれたようだ。
茶色の瞳を真っ直ぐ向けられて、ゼフィアは口籠る。
(そうよ。聞かなきゃ。いつまでもお世話になるわけにはいかない。お礼はお守りをお金に変えて渡した方がよろこばれるはず)
「あの、ハリー様。オリバー様にお会いしたいのですが……」
「やっぱり会いたいか?」
「いえ、返してもらいたいだけです!」
ゼフィアは彼の質問にそう強く返した自身に驚くしかなかった。口を押さえて戸惑っているとハリーが笑う。
「そうか。返してほしいだけか。んじゃ、俺も一緒に会おう。元はといえば……」
「ハリー様?」
「なんでもない。朝食食べたら王宮に連れていってやる」
「はい。よろしくお願いします」
(返してもらったらそれでおしまい)
寂しく思いながらも彼女はしっかり返事をした。
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