大人とコーヒー

@jahiwhwj

  「お父様、私はもう大人なのです!一人で着替えもできます、一人で寝る事も出来ます!だから、放っておいて下さい!」

 

 「ダメだ!)一人で着替えが出来る?一人で寝れる?出来ていないではないか!せっかくのスーツもボタンがズレているし、寝れると言ってもぬいぐるみが無いと寝れないじゃないか、私に口答えするんだったら出来る様になってからにするんだな!」

 怒鳴ると息子は泣きながら出て行った。

 

 私は椅子に腰掛けると溜め息をつき、私にもあの息子の様に大人ぶりたい時期もあったなと思い少しニヤけてしまう。

 

 私はコーヒーを啜り私の若かりし頃を思い出した。

 

 あの頃の私は自分が大人で悩みも迷いも自分で解決することが出来、何でも出来ると思っていた。

 だが周りは違う様でいつも何処かに行くにしても着いてきて(坊ちゃん、坊ちゃん)と呼び、喉が渇きカフェに入ると周りはコーヒーを注文し誰かがいつもミルクを勝手に注文され、私は怒り、暴れるのは大人じゃないと思い怒りを鎮めもう大人だぞと知らしめる為に女給さんが運んできたコーヒーを見るなり、

「女給さんよ、そのコーヒーは砂糖もミルクも入ってないな?」

 と聞くとコクりと頷いた私はコーヒーを女給から受け取ると

「皆のもの、注目せよ!」

 と私に視線が集まった私はコーヒーを一気に飲み干しカップを逆さにしコーヒーがない事を証明すると。

「私はもう大人だ!皆んな持ち場に戻れ!」と言うと寂しそうにゾロゾロと出て行った。

 

 カフェには静かな空気とゆったりとしたメロディが流れたやっと静かになった筈なのにどうも落ち着かない、後口の中が物凄く苦い。

 私は女給にコーヒーを頼むといそいそと席につき窓から見える海を見てコーヒーを待っていると、女給がコーヒーとミルクと砂糖を持ってきた、私はこいつもかと眉間に皺を寄せると女給は(砂糖とミルクが必要か言われなかったので)と言い砂糖とミルクをコーヒーと一緒に置いてった、私はコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて飲んだ、

 私の口はコーヒーの大人のような苦さと子供のような甘さが口に広がりしばらく苦さが残った。

 

 私はもう子供ではないだが

 

 私はどうやら自分が思っているほど大人ではないらしい。

 

 

「まぁ今思い出すと誰にでもある事なのかもしれないな」

 と少し昔を思い出しているとまたあのコーヒーが飲みたくなりコートを羽織り帽子を被り家をでる。

 空は夕日で紅く染まり私はカフェに向かう、カフェの入り口の前に立つと中から息子の声がした、私はドアの前で聞き耳を立てると

「親父のバカヤロー!俺はコーヒーだって砂糖、ミルク無しのブラックで飲めるんだぜ!なのにあの親父ときたら」

 と騒いでいる、「やはり私の息子だな」とそのまま中に入らずそのまま家に帰った。

(帰ってきたら息子を謝りに行かせなければ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大人とコーヒー @jahiwhwj

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る