第24話 中央都市へ
あのステージから5日が経った。
体感した人は少ないけど噂はあっという間に街に広まる。
スラム街の元冒険者がやっている店にいる青い髪の店員が天使だ、女神だ、と。
噂を確かめる為に店に来た者たちは落胆することになる。
実際にその店員が『いた』ことだけしかわからないからだ。
その店員はあの日を境に店から姿を消したのだ。
私たちはセレネがいた地方都市を出て帰路についている。
「ねーねー、アルテス!すごい、大きな鳥が飛んでるよ!」
私の横で馬車から身を乗り出さんばかりの勢いで外を見ているのがその青い髪の女神だ。
全く、ここは常識人の私が注意しないと。
「セレネ、危ないよー!ってどれどれ、わー!ほんとだ、大きい!」
セレネと2人して身を乗り出し、空を見上げる。
「あれは鳥じゃないですね、飛竜です」
「「はじめて見たー!!」」
ミレさんが空をチラっと見て淡々と答える、これで何度目になるか。
行きは馬車の外に意識を向けるなんて心の余裕がなかったからなぁ。
でもセレネに笑顔が戻ってよかった。
私はセレネを見つめながら思い出す。
「ボクは、ここにいたらいけないの?」
眠りから覚めたセレネの第一声。
クレイさんとスレイさんが自分たちの想いを改めて伝えて、更にミレさんが現状を説明し、私はセレネと一緒にいたい、でもセレネの意思を尊重する旨を伝えた。
その中でも特にミレさんの説明に一番納得していたように感じる。
「セレネさん、今回の歌ですが大変素晴らしいものでした。きっと街でも評判になると思います」
「だったら尚更!」
「ただ、あまりにも鮮烈過ぎました、このままこの街での評判が良くなってしまうと貴女を見たいとお客様が殺到し、常連のお客様含めてお店にも迷惑が掛かってしまうと思います。そこで、中央都市の私の劇場で練習をしてみませんか?」
「練習、ですか?」
「はい、セレネさんの歌を制御する為に」
そう言われたセレネはびっくりした顔をした後に渋々だが納得した。
きっとミレさんはスキルのことに気づいてるんだと思う、ただの歌じゃないってことに。
善は急げということでその夜にはセレネを自分たちのホテルに匿うことになった。
ホテルへ連れて行く途中でセレネの家に寄り、荷物を運んだのだが質素な外観のアパートに非日常かと思うほど、家財道具のない室内に私は驚いた。
セレネに聞くとばあやがいた頃はもう少し家財道具はあったらしいのだけど、生活に必要なものだけで整理していたら思ったより少なくなったとのこと。
中央都市についたら可愛いお店とかに連れて行こうと心に決めた。
翌日から旅に必要な物資の買い出しと都市から出る手続き、私は両親に帰る旨の手紙をギルドに出しに行き、セレネのステージから2日後には私たちは中央都市に向けて旅立っていた。
行きとは違い、ゆっくりと帰る予定の旅は楽しいものだった。
適度に休憩を取り、夜は野営をしてテントで睡眠を取っている。
行きでも使ったミレさんの魔道具で結界を張り、その中にテントを設置、安全に過ごすという感じだ。
テントは二張りなのでミレさんと御者、セレネと私に別れる。
なので夜は2人で話すことが恒例となっていた。
「アステルの両親はどんな人なの?」
「人間族で熱血の父とエルフ族でスパルタの母だよ」
「あはは、そんな言葉こっちの世界で聞いたことないよ」
そうなのだ、馬車の旅が始まってすぐに私は私とミレさんが同じ転生者だと伝えた。
セレネからは事前に神様から私の話を聞いていたと話があり、ミレさんも転生者だということには驚いていたが受け入れてくれた。
亡くなった時の状況の話しをすると鼻血出してたよね、と覚えていたことは嬉しいやら恥ずかしいやら。
この転生者と伝えることにはついてはミレさんも同意してくれて、むしろ早い方がいいと言ってくれたのだ。
中途半端に隠したところでお互いにメリットがないし、遅ければ遅いほど明かした時に何で言ってくれなかったのか、と不信感が増すことになると。
もちろん、他に転生者がいたとしても明かすかどうかは人にもよる、今回は私が神様からセレネのことを聞いていたこと、それに何よりもあの歌だった。
「それにしてもセレネの歌、本当によかったなぁ」
「えへへ、ミレさんが提供してくれた曲だったし、歌いやすかったよ」
「私、前世でも好きな歌の一つだったから、歌詞が聞けるだけでも何だか嬉しかったよ」
そうなのだ、セレネが歌った歌はアレンジしてあったがコカ・〇ーラのCMでも流れていた曲なのだ。
この歌詞を聞いて、セレネが転生者だと確信した。
「練習して、大丈夫そうなら中央都市の劇場で歌えるといいなぁ」
「セレネならきっと歌えるよ、私も協力するしね」
「心強い味方ができたね」
2人して笑い合う。
そう言えば転生してから同世代の友達が出来なかった、今思うと不思議だけど、この時間、とても心地良いな。
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