第16話 旅立つ前に
「アルテス!次の舞台は照明だ、やれるか?」
舞台上で劇団員に指示される。
「はい!」
私が出演する舞台と言う訳じゃない、スタッフの一員として参加する演劇での一風景だ。
14歳になった私は劇場で仕事、と言うかお手伝いをしている。
一般的に15歳から成人なので働かなくても勿論いいのだが、劇団の会議で企画、演出の意見を言うだけ言って自分は客席と言うことにはなりたくなかったからだ。
「お疲れ様でした!」
「アルテス、お疲れ様、働き始めとは思えないな。舞台のことを考えたいい動きだ、このままいこう」
「ありがとうございます!」
年配の劇団員に声をかけられて、内心でガッツポーズを取る。
前世で見ていたアーティストやアイドルのライブ、祖母が好きで見に行った宝〇歌劇団や劇団〇季、それを思い出しながら、ノートに纏め、自分で読みかえし足りない部分を補足して、現世で出来ることを考えていた。
「やぁ、アルテス、今日もかわいいね」
劇場内の通路を歩いているとミレさんと会った。
「ミレ伯父さんも素敵ですよ」
ミレさんとはあれ以来定期的にあの喫茶店で話している。
転生時の話、神から言われたこと、セレネと言う子を探していることを伝えた。ただ、スキルやステータスについては今はまだ話さないよう決めた。
特にミレさんの話を聞いたあとに私がミレさんに頼ることも必要だけど出来るだけ独力で対応できる力を今は身に着けたいと話したからだ。
未だに応用スキルは発動方法がわからないのも内緒にしている。
「そうだ、地方都市の知り合いから相談を受けてるんだ。どうやら歌のうまい子がいるらしい」
ミレさんは私の為に情報収集をしてくれている、芸術の文化がないこの世界では歌や踊りがうまい子はすぐに噂になる。
ただ、魔物や動物、虫から逃げいてるポーズが踊りと誤解されたり、叫んでいるだけの人を見て歌がうまいと言われたことがほとんどのようで、行っては落ち込んで帰ってくるミレさんを喫茶店で慰めるのも私の役目になっていた。
それにしても本当に文化がぽっかり無いという感じだ。
言葉としては歌も踊りもあるし、その意味も一般的に理解されているのに、歌や踊り自体が何なのかがちゃんと理解されていないという違和感。
「そうなんですね、今度こそ本当に歌のうまい子だといいですね」
「そうだね、それなら劇場に引っ張ってきたいんだけど、でも話の感じだとその店で小さいながらもステージを作る方向になると思うよ」
「それはすごいですね」
「うん、今回は信頼できる昔からの知り合いだから、今までのようなこともないだろうし、何より私も久々に会うのが楽しみなんだ。あ、こちらから楽器も提供しているしね、お披露目までに練習するって」
ミレさんはそう言って手を振り、事務室に入っていった。
それにしても楽器まで提供しているのか、確かな情報みたい。
楽器、私も一度見たことがある。支配人室の奥にある部屋にミレさんが見様見真似で作らせた楽器たちが並んでいるのを。
セレネだといいな、歌や踊り、あの子なら似合いそうだ。
夕焼けに染まる空を見上げながら帰路につく。
15歳まであと1年をきった、すぐにでも旅立てるように準備を進めてはいる。
加護のタイムリミットも14歳になった時に感じることができてしまった、それによってセレネを探せていないという焦りが生まれた。
まずはミレさんから情報を貰った比較的人が多く、スラム街のある地方都市を巡り、セレネを探す予定だ。
でも旅立つ前に劇団で演劇を私のプロデュースでやらないといけない気がする。
旅立ってしまったらいつ戻れるかわからないから。
演劇のスケジュールは、3ヶ月公演、3ヶ月空きとなる。
その空きの期間に企画、演出、大道具の準備、リハーサルと全てを整えて、公演。
今の公演が終わるのが2か月後、そのあとに空きが入る。
実は今、企画と演出はひっそりとまとめてある、スキル創作家が発動したあとに大筋の内容は頭の中で出来上がっていた。
この話は次の全体打ち合わせの時に発表する予定。
セットのイメージも出来てるから、私がどれだけみんなにうまくプレゼンできるか、かな。
そんなことを考えていると自宅にたどり着いた。
「ただいまー」
家に帰るといい匂いがした。
「おかえり、アルテス。ライズもそろそろ帰ってくるからみんなで夕食にしましょう、今日はアルテスの好きなハンバーグよ」
「わー、やったー!」
この生活もあと少し、あとは優しさと厳しさと愛が溢れる両親にどう伝えるか、それが一番の問題。
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