三人の彼女たちの中から、一人だけを選ばないといけないらしい
六条菜々子
第1話 三人のカノジョ
俺は考えていた。どの女の子が本当のカノジョになるのかということを。
「それじゃ、改めて自己紹介をしよう」
「なに言ってんの。そんなもんいらんから、あたしと一緒に帰ればええ」
「ちょっとちょっと。今の言葉、取り消してよ」
「とりあえず、私からでいいかな。こほん。瀬戸みずほ。桜ヶ丘高校一年。趣味は……」
みずほのマイペースさに、俺は少しだけ救われた。幼馴染兼妹的存在であるみずほには、そのままでいてほしい。そうでなければ、あの二人を止められる人がいなくなってしまうからだ。それだけは阻止したい。
というか、ここは夕方の河川敷でもっと静かな場所であるはず。時々ランニングシューズを履いたお姉さんお兄さんが通過していく。喧嘩と間違われそうな、二人の言い合いを横目に。
「いい加減にしいや。なんや、もしかして同じクラスやからって勝てると思ってるんちゃうやろな?」
「違いますよ。そもそも、あなたと夏海くんが『まだ』付き合ってないんだから、わたしたちとは無関係じゃないの」
「まだもなにもあるかいな。どちらにせよ将来的に付き合ってるんやから、それを少し前倒ししただけやん」
「それが問題だって言ってるの!」
どうしたものか。三人寄れば爆発の原因とはよく言ったもので。
落ち着いて話せば、きっと上手くいくと思った数時間前の俺をぶん殴りたい。
「二人の間に入ると余計な油を注ぎかねないので、ここで俺の自己紹介をしよう。俺の名前は
スキもキライもない。なんでも食べるし、誰にでも同じ顔をする。そんなことを続けていたらどうなったか。いつのまにか孤立していた」
「ようはボッチの冴えない男子高校生ってことやな」
「女の子みたいな名前だよね」
「あのなぁ、気にしてるところだけをピックアップして攻撃的な言葉に置き換えるの、やめてくれないかな? というか、自己紹介にツッコミを入れるんじゃない」
この二人、仲がいいのか悪いのかがいまいち分かっていない。そもそも、そこまでまともな話もできていなさそうではあるが。
「ねえ、カナでいいよね? だって、今付き合ってるのは間違いなくわたしじゃないの」
自分のことを『カナ』と呼ぶのは、同じクラスの
「それはそうだ。今のカノジョは東雲だからな」
いわゆる『カノジョ』の存在がこれまで一切なかったわけじゃない。
中学の時に、下級生の女子からいきなり告白されて一年ほど付き合ったことがある。家が真逆にあったため、放課後に一緒に帰るなんてことはなく。付き合うということがなんなのか、分からないままに別れた。中学生の恋愛なんてそんなものかと思いながら、高校生になった。
なってから、その関係がこじれるとは思ってもいなかったが。
「ちょっと待って。みずほだってうみのカノジョだもん」
「確かにそうだった。でもそれは昔の話だろう?」
「元カノと復縁するのはナシ派?」
「今はそういう話をしてるんじゃないんだよ」
例の下級生の女子というのが、マイペースおっとり系の
余計に女っぽくなるからやめろと言っていたけれど、今でも俺のことを『うみ』と呼んでくる。
「黙っていれば、好き勝手にいろいろ夏海のこと振り回して。それでええと思ってるんか?」
一言話すたびに油を注ぎ続けるお姉さん。
なによりの証拠は、俺だけしか知らないはずのトップシークレット情報をこよりさんが知っていたこと。未来のカノジョということを抜きにしても、なにかしらの関わりがあることは間違いないと判断した。
「まあまあ。平和的に解決しましょうよ」
「言ったな? それじゃ、決めてもらおうや。あたしたち三人の中で、誰が夏海のカノジョになってもいいかを」
「賛成! 夏海くん、わたしだよね?」
「うみ。私、信じてるから」
過去のカノジョ。瀬戸みずほ。
自称、未来のカノジョ兼婚約者。御霊こより。
どういうわけか、俺は元カノ、今カノ、来カノ、つまり三人のカノジョの中から、たった一人だけを選ばなくてはいけないようだ。いったいどうすればいいんだ、これ。というかそもそも、なんでこうなったんだっけか。
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