第26話 拾い者

 大きな建物に案内され、クランマスターの部屋へと向かって行く。

 門の所ではデカデカに『AB』の看板が建ててあった。

 中では受け付けを担当する人が見えたり、製作陣の物音が聞こえたり、クランの戦闘メンバーが歩いている。


「「凄い」」


「大規模クランですからね。⋯⋯聞いてませんね」


 俺達は目的地に到着した。

 そこでは椅子に腰掛けた威厳のある女性が居る。

 俺らが入るとにこやかに微笑む。


「先日はウチのメンバーがすまない」


「⋯⋯」


「弁償を渡してやれ」


 金を受け取り、懐にしまう。そのまま俺達はトンズラしようとしたら、副マスターが扉を抑えた。


「すまない。まずは話を聞いて欲しい」


「なんですか?」


「うむ。こちらが悪いのは分かっている。だけど、彼も実力者なんだ。だが気絶した⋯⋯」


「つまり?」


「そうだね。回りくどいのは止めよう。君達、アルティメットバハムートのクランに入らないか?」


 俺はサナを見る。

 サナは「面倒臭いから任せた!」と言う満面の笑みを浮かべた。

 なので、俺が対応する。


「俺達は何処かを拠点にするつもりはありません」


「そうか。それは残念だ。話的に君達はまだ魔力の扱いが成ってない。ここに入れば、最高の教育を施そう。寄り強く成れると思うよ?」


「俺は強さに興味無いです。いえ、訂正します。既に必要無いです。ただ、生きる為に学び成長するだけ。ありがたいお話ですが、お断りします」


「そうか。それは非常に残念だ。君達の様な未来がとても明るい人を我々は常に欲しているのでね」


 そして、俺が扉に手を掛けた時、サナが刀を抜いて俺の背後の空を斬った。

 俺も気づいていたが、懐に隠してあるので、サナの方が速い。だから任せた。

 しかし、サナが斬ったのは空気のみ。


「はは。驚く素振りも無いのか。安心してくれ。薄く魔力を込めた殺意の刃だ。当たっても害は無いよ。やっぱり。惜しい。とても惜しい」


「⋯⋯」


 本心なのか分からないが、マスターの言葉を聞きながら俺達は黙って外に出た。

 その後のクランマスターの部屋での副マスターとの会話。


「宜しかったのですか? 昨日の事で我々の信用はかなり落ちてますよ」


「まぁね。だけど、彼が頑張っていたのも事実。昨日の事を悔い改めてくれたら十分だ。それよりも、あの様な将来有望の若者を逃した方が惜しい。とても惜しい」


「そうですね。マスターの殺気にも気づくとは。あの女の子はとても興味深いです」


「⋯⋯へ? 君は馬鹿なのか? どっちも完全に反応してたぞ?」


「そ、そうなんですか? 男の方は何も感じている様子では無かったのですが」


「はぁ。君は実力はあるし頭も良い。だけど、観察力は本当に低いね。だから他支部を任せられないんだよ」


「すみません」


 ◆


 俺達はその後も魔力の練習をしたりして時間を潰して、夜と成った。

 俺達は別れて散歩する事にした。


「お?」


 街灯が照らされる街道から外れ、暗い裏路地に倒れている人を発見した。

 腹部から血が流れており、黒い服に染み込んでいた。


「ギリギリ致命傷は避けてるな」


 腕輪から回復薬を取り出して、傷口に垂らす。

 傷が徐々に治って行く。傷が塞がったので、汚れ等を拭いて担いだ。


「⋯⋯女性だったかぁ」


 顔が見えずに分からなかったが、担いだ時に感じた感触で完璧に女性だと分かった。

 血が染みている服を着た女性を担いでいるなんて目立って仕方がない。

 なので、家屋の上を進んで宿に戻り、窓から入る。


「サナがやった方が良いんだけど、許してください!」


 俺は悪くない。悪くない。完全に絵面はアウトだが、許して貰いたい。

 仕方の無い事なんだ。これはやらなくてはダメな事なんだ。


「シャッラああああ!」


 終了したら、一度外に降りて、中央ホールから再び登る。

 これできちんと帰って来た扱いになる。


 ◆


 ゆっくりと目を開き、周囲を見渡す。

 服装は変わってない。


「ここは」


 私はゆっくりと周囲を見渡す。

 記憶が朧気で、最後の記憶は任務途中で遭遇した護衛と戦闘になり、深手を負ったところだ。

 斬られた部分を確認する。


「回復してあるのか」


 完璧とは言わないが、傷だけは塞がっていた。

 誰かに拾われたのか?


「お、起きたか?」


「ッ!」


 タオルを洗面台から持って出て来た男に私はすぐに反応出来なかった。

 普段ならこんな近くの相手なら気配を察知出来る。

 だが、気配を一切感じ無かった。疲れているのだろうか?


「むっ?」


 私は懐に隠してあるナイフに手を伸ばした。

 だが、そこにナイフは無かった。


「チィ」


 助けて貰った恩はあるが、私の職業柄良くない。

 すぐさま戻らないといけない。その為、私は目の前の男に格闘技を持って攻撃を仕掛ける。気絶させるのに武器は要らない。

 だが、私の攻撃の力を利用して絡め技を披露された。


「ふにゅ」


 床に優しく押し倒されて拘束される。そのまま傷があった場所をつねられ、激しい痛みを味わう。


「まだ傷は治ってないね。安静にしてな」


 ベットに荷物の様に投げられた。私の扱いが雑である。喋り方は年下に向けるモノだ。私は彼よりも年上に感じるのだが⋯⋯。


「⋯⋯何も聞かないのか?」


「名前は?」


「無い」


「分かった。無いさん」


「ふざけているのか! お前なんか本調子なら倒せる!」


「はいはい。俺はユウキ、傷が癒えるまでここに居ると良いよ」


「⋯⋯」


「そう警戒しなくても」


 男と二人で警戒しない女は居ない。

 それだけでは無く、装備してあった武器が全て没収されている。

 きっと相手は私の存在に気づいているだろう。だと言うのにこの場に居させる。

 その意味が分かっているのだろうか?


「たっだいまー! お兄ちゃんなんか変な気配するけど、あの子は誰かなぁ?」


「怖い目をするな。拾ったんだよ」


「騎士さん呼ぶね?」


「呼ぶな」


 銀色の髪をした女の子が入って来た。

 気配は無意識で私は消せる。だと言うのに見破って来た。

 元々認識しているならともなく、口振りに入って来る前に私の存在には気づいている。

 黒髪の少年、銀髪の少女、この二人は一体何者なんだ?


「あの、変な事されてませんか?」


「⋯⋯絡め技をされました」


「お兄ちゃん!」


「正当防衛だ!」


 ジリジリと詰め寄る妹?にちょっと下がる男。

 私はどうすれば良いのか分からず、ただ警戒するしか無かった。

 痛みはまだ引かない。

 外を自由に動ける様に成るには後二日は掛かるだろう。

 この二人がもっと高級の回復薬かそれ相当の回復魔法を使ってくれるなら話は変わるが。

 きっとそれは無いだろうな。


「だいたい女の子拾って来るとか有り得ないでしょ!」


「仕方ないだろ! 血を流して倒れてたんだから!」


「だからって──」


 この二人、何時まで言い争いを続けるんだ?

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