第22話 ワセダアリーナの戦いって話(後編)

ワセダアリーナ、最大収容人数6,000名のワセダ大学屈指の施設。

地下に造られたその場所は本来の意図とはかけ離れた戦いの場として使用されていた。

制服を着た女生徒が両手を舞台に向け、何かと対峙し始めてから間もなく10分が経過しようとしていた。

「くっ」

カノが額から汗を流し、苦しそうにうめき声をあげた。

「!?大丈夫か、カノっ!」

コースケが近寄ろうとするがリュウジに止められる。

「待て、コースケ、集中している」

「で、でもよ」

普段から体育の授業でも汗をかいているのをほとんど見たことがないカノの今の姿を見て、コースケは狼狽える。

「大丈夫、須堂さんが押しています」

唯一その特殊な眼で視ることができる隆はそう答える。

両手を徐々に近づけ、その動きに合わせて囲いを狭めているカノの力に畏怖の念すら覚えながら。

「あと、少し、で」

カノはこの力の集合体をどうしようとしているのか、リュウジにも隆にもわからなかったが決着が近づいているのはその台詞でわかった。


カノはコースケの家で能力を告白してから前世の記憶を辿っていた。

力の宝庫だった前世、誰もが能力を使え、そこで最底辺のレッテルを貼られた世界、いつ死んでもおかしくない世界。

思い出したくもない記憶だが、生まれ変わったこの世界で、周りにいる人たちを守りたいと力を使っている今、記憶を辿ってでも、出来るかどうかはわからなくても、頼ってくれる仲間がいる。

やらなければ死んでしまうという状況はカノの潜在能力を引き出すには十分だった。

前世に物体を自由自在に加工する能力があった。

その力を見たのは研究所、私たちもそこに囚われていたからよく覚えている。

あれを自身の能力で再現する。

サイコキネシスとしての物体を移動させる力、その力をより深く理解する。

自身が考えた場所に指定したモノを移動することができるということは、指定した場所で止めることも可能、それは机やイスで実証できた。

それに伴いイメージした形で壁を作ることもできた。

あとはその壁で四方を囲み、圧縮し、その力が外部に漏れないように閉じ込めよう。

簡潔だがやったことのない力の使用方法、それを実践に移す。

物理的な攻撃は防げる、呪術はリュウジが防げる、今できることをやる。

力の集合体からのラインが途絶えた理由はわからないが、唯一視えている隆から否定的な意見も出ていない。

このままやるしかない。

「がんばれー、カノー!」

コースケの声が耳に入ったカノは改めて力を込める。

今まで感じたことのない力の流れ方にカノは違和感を覚えたが、そんなことを考える余裕はなかった。

兎に角、力を閉じ込めるイメージ、それだけを考えた。

最後の抵抗をするかのように光の中心からはラインが溢れ、壁を押し返そうとしている。

カノは隆のように見えてはいないが自身が作った壁を介して、暴れているのが感覚として理解できた。

前世で出来なかった誰かを守る、絶対に失わない。

「いけーー!」

カノは自身の叫びと同時に震える両手をぴったりと合わせる。

その瞬間、舞台上では一際強い光が放たれ、リュウジとコースケは目を覆った。

隆は瞬きも忘れ、その一部始終をデータとして納めるかのように舞台に目を向けていた。

光が落ち着いたと同時にドサリと音が聞こえる。

コースケが振り返ると膝から崩れ落ちたカノが視界に入った。


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カノ ~異世界からの転生者たち~ ぺらしま @kazu0327

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