不死街のシュガーマン 副題:チート回復術士さん vs 甘やかしたい女たち

紙崎キマキ

01-01

「お前は今日より、我らが勇者団の一員ではない──追放だッ!」


 それはきっと、正しい判断だと思った。


 かっこいい鎧をまとったそいつは、たしか団の中でも有名な戦士だったはず。でも俺は、そいつの顔も名前も覚えていない。

 

 ろくに人の名前も覚えられず、コミュニケーションもできないやつが、こんな華々しいところに居て良いわけがない。


 

 だから、俺は正しい判断だと思った。

 正しいことを言われると、何も言い返せなくなってしまう。何も言わない俺に、ふんっ、と戦士はそっぽを向く。


「全く……そもそも、なんでこんな役立たずが我らが団に……」


 ああ、俺もそう思う。



 ……ふと、視線を感じて、その方向を見た。

 そこには勇者がいた。名前は……なんだっけ。せっかく拾ってもらったというのに、本当に恩知らずだと自分で思う。


 

 俺はよく知らないけど、勇者ってのはすごいやつらしい。


 俺と同じ・・・・異世界だとかからやってきてくれて、今話題の魔王をぶっ殺せる戦士……そんな勇者のサポートをする役目を、本当になぜ、俺なんかが仰せつかっているのか。


「あの、シュガーさん、本当にごめんなさい……神殿長がいない今、私だけではみんなを止められなくて」


 優しい。なんて優しいんだ勇者。

 俺なんかを気遣ってくれる。まぁきっと、この子だって俺のことは役立たずって思ってるんだろうけど……そう、気遣いってのはこういうことだ。


 役立たずと自分で分かっていても、やっぱり棘のある言葉で追放だのなんだのと言われると心に来る。グサッと響く。俺はこういうの2ヶ月は引き摺る。


 分かってるか戦士。名前は忘れたけど。

 お前の心無い一言で、俺はそこそこ傷ついているんだからな。


「…………」


 ……俺は何も言えない。

 勇者の優しさに泣きそうになって、それが声に出るのが嫌で、俺は黙った。そうすると勇者はぐっと俯く。

 


 ……あ、まずい。

 ここで何も言わないのはダメだったか。

 せっかく声をかけに来てくれた女の子・・・をガン無視とか、ダメに決まってる。


 勇者はかわいい、簡単に言えば超美人だ。きっと今まで、こうやってガン無視されたことなんて一度もないはずだ。プライドを傷つけてしまったかもしれない。


 ああ、本当にこれだから。

 前世と今世・・・・・合計したら・・・・・とっくにおっさんだっていうのに、ろくにコミュニケーションもできない──俺はダメなやつだ。


「シュガーさん……ねえ、待って!」


 俺は歩き去った。

 それを執拗に呼び止めようとする勇者。

 

 ヤバい、怒っている。プライドを傷つけられた女は怖い、それも相手は超カリスマ勇者様だ。ここで止まれば、きっとみんなからいじめられるに違いない。


 もう、二度と帰ってこないことにしよう。

 そう心に決めて、俺はまた、勇者を無視する。


 

 仕方ないんだ、コミュ障だから。



 ……ああ、ちなみに。

 俺はシュガー、しがない回復術士。


 そんな俺が、どうして勇者のサポートなどという大役を仰せつかっているのか──それを説明するには、随分と時間を遡る必要がある。

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