天才君の恋。

エイト

第1話

 ホームルームが終わって暫く経った教室。

 そこには、まだ三人の生徒が残っていた。

 「おーい、千明ちあき、起きろー」

 「祐介ゆうすけ、まだ千明寝てんのか?」

 机に突っ伏したままの桜葉千明さくらばちあきを、二人の男子生徒が揺り動かし起こそうとするが、全く起きる気配がない。

 途方に暮れた二人__石川祐介いしかわゆうすけ南野隆みなみのたかしは、とりあえずやっていた日直の仕事をする。

 それを終わらせると、今度は自分の荷物を片付け始めた。

「みんな、お待たせ」

 二人の帰り支度が終わる頃、教室の扉ががらりと開き、長めの黒髪を一つに纏めた女子__藤川璃音ふじかわりおが入ってくる。

「お、掃除お疲れ様」

 そう声をかけた祐介にありがと、と言いつつ、璃音は未だに寝ている千明に近寄り、起こす。

 千明は何故か璃音に起こされるときだけ、必ず目を覚ます。

 今回も例に漏れず、すぐに起きた。

 ゆっくりと体を起こし、時計を確認した千明は、

「____あれ、もうこんな時間?」

と呟いた。

「そうだぞー、千明。やっと起きたな」

 呆れ顔で呟く隆に、祐介も同調する。

「全く、俺たちがいくら起こしても起きなかったのに。ほら、早く準備しろよー」

 状況を理解した千明は、慌てて教科書やノートを鞄に詰め込んでいく。

 ようやく荷物を纏め終えた千明は、扉の近くに移動していた三人に駆け寄る。

「待たせてごめん。帰ろ」

 四人は教室を出て、帰路についた。




 彼らは、県立秋ノ宮高校に通う一年生。

 幼馴染の千明と璃音、中学時代から仲の良い祐介に、高校に入学してから意気投合した隆。

 クラスは璃音だけが違うが、四人でいることが多い。

 入学してから三ヶ月、彼らは充実した日々を過ごしていた。

「もう来週から七月か。早いな」

 ふと思い立ったような隆に、

「体育祭も終わったし。そう考えると時間経つの早いよね」

と祐介が相槌を打つ。

「あともう少しで期末テストもあるし」

 璃音がそう言うと、

「わー璃音、やめてよ、考えないようにしてたのに」

「逃げたって駄目だよ」

 現実逃避していた祐介に、千明が釘を刺す。

 もう嫌だ、と不貞腐れる祐介を隆は揶揄い、璃音はにこにこしながら視線を送る。

「誰でもいいから勉強教えてよ」

 そう言う祐介に、千明は

「じゃあ、明日の放課後一緒に勉強する?」

と提案する。

「え、本当に? ありがとう」

 目を輝かせて言う祐介に千明は頷くと、後ろを歩いていた二人をちらりと見る。

 視線を受けた二人は、

「せっかくだから、私もする」

「俺も混ぜてほしい」

と答える。

 こうして、璃音と隆も加わった、勉強会の開催が決まった。

 勉強を教えてもらえることが余程嬉しいのか、祐介は先程とは打って変わって上機嫌になる。

 その後もたわいも無い話をしながら、柔らかい日差しの中、四人は家へと帰っていった。

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